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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

さまざまな恋の短編集:BL版

【BL】二人をつなぐミモザ

作者: 道乃歩

『写真、撮ってもいい?』

『いいよ。……でも、撮るならこの場所でいいかな?』


 今でも考える。

 どうして高梨は、わざわざミモザを背景に選んだのだろう。



「久しぶり。元気だったか?」

「うん。そっちも相変わらず元気そうだね。安心した」

「相変わらずって、なーんかバカにされてる気分」

「そんなんじゃないってば」


 頬をそっとなぞるような控えめな声と少し眉毛が垂れる特徴的な笑顔に、あの頃の雰囲気があっという間に戻る。


 高校を卒業してから初めての同窓会に呼ばれて、まず確認したのは高梨の出欠だった。

 どうしても逢いたかった。逢って、だめでもいい。最悪縁が切れてしまってもいい。捨てられなかった想いを伝えたかった。


「どうしたの? おれの顔、なにかついてる?」

「いや、ごめんごめん。本当に久しぶりだなーって感慨にふけってただけ」


 気づいたら、ぼうっと高梨を見つめていたようだ。とっさの嘘はうまくいったらしい。


「お前ー、ますますキレーな顔しやがってずるいぞ! どうせ大学でもモテモテなんだろ、ん?」


 自分の左隣にいた、今も付き合いが続いている友人の冗談が飛んでくる。思いがけず訊きたかった質問をしてくれて、内心で思いきり親指を立てる。


「えっ、そんなことないよ。ほら、おれって大人しすぎるから目立たないし」


 彼は謙遜しているが、知っている。おとなしくても分け隔てなく優しいし、そばにいると落ち着くから、実は相当女子からの人気は高かった。今も隙あらば自分のポジションを奪い、少しでも点数を稼ぎたいと狙っている複数の目をびしばし感じている。

 だからこそ彼を壁際に座らせ、たったひとつの隣を奪わせてもらったのだが。空気なんて読んでやらない。


「二人はどうなの? 二人こそできててもおかしくないじゃない」

「ま、俺は……な。もしかしたらできるかもしれん」


 その話に食いついたのは周りの面々だった。あっという間に餌食にされた友人に今度はハンカチを振ってやる。


「高崎は? ……いるの?」


 なぜか怯えたような表情になる高梨に慌てて首を振る。


「いるわけないだろ? 毎日忙しくて、そんな余裕もないっていうか」


 忙しいのだけは、嘘じゃない。

 高梨を忘れた日はなかった。クラスが一緒になって、後ろの席に座っていた彼をひと目見た瞬間に「好き」の感情を抱いてから、決して暴かれてはならない秘密の片想いを続けてきた。

 でもそれも、今日で終わる。


「でも、好きな人はいるんじゃないの?」


 こちらに目線はくれず、高梨は呟くように問いかけてくる。

 一瞬、内心を覗かれたのかと思った。そういえば、恋愛の話をするのは初めてかもしれない。

 なぜか、嘘をついてはいけない気がした。かといって突っ込まれてもうまく誤魔化せる自信はない。


「おれはね……いるよ」


 耳から、周りの喧騒が消える。視線の先にいるのは表情の読めない、いや押し殺しているように見える高梨のまっすぐな双眸だけ。

 中性的で大人しそうに見えて、自我を曲げない意志の強さが一番に表れるこの瞳が好きだ。

 彼は今、なにを胸に抱いているのだろう。なにを、伝えたいのだろう。


「高崎が撮ってくれたおれの写真、まだ持ってる?」


 酒も手伝ってか、ふわふわとした頭で反応が少し遅れた。ポケットに入れていたスマートフォンからアルバムを起動して、お気に入りにしていた写真を拡大する。高梨だけの目に触れさせたくて、不自然にならないよう手首に角度をつける。


「……懐かしいね」


 覗き込んだ高梨は微笑む。ただ嬉しいだけじゃない、どこか既視感を覚える、若かりし頃の失敗を振り返るような雰囲気と似ていた。

 離れ離れになる前に、写真という形だけでも高梨を手元に残しておきたかった。下手な言い訳でも彼は快く許可をくれて、学校の花壇にあったミモザの花の前で微笑みをくれた。

 端末を握る手に一瞬、力がこもる。既視感はそれだ。その時の笑みと、そっくりなんだ。


「おれ、ずっと後悔してたんだ。ちゃんと、言えばよかったって。怖いからって、回りくどいことしなきゃよかったって」


 心音が強くなり、間隔も狭まる。今の自分と似ているのも偶然、なのか?


「あの、」


 続きは、幹事の終了を知らせる主催者の声にかき消された。仕方なく帰り支度を始めるが、きっと高梨はわかってくれている。確証はないけれど、そんな気がした。



 同窓会が高校から比較的近い場所で開催されたおかげで、よく道草をした公園に行くことができた。

 さほど広くないから遊具も少なく、子供の遊ぶ姿はあまり見かけなかったが、それがかえって寄り道しやすかった。


「……高崎、手、いつまで掴んでるの」

「ごっ、ごめん」


 ようやく頭が少し冷えて、強引に繋いでしまった手を解放した。恥ずかしさで逃げ出したい気持ちを懸命に抑え込む。


 二次会の誘いを断っただけでなく、勢いのままに高梨を連れ出してしまった。きっと彼を狙っていた女子からは非難轟々の嵐で、明日あたり誰かから文句混じりのレポートでも届くだろう。


「でも、ありがと。おれ、二人で話したかったらちょうどよかった」


 照れの混じった笑みが素直に可愛いと思えて、だいぶ理性が緩んでいることを悟る。こういうとき、中性的な容貌はある意味目に毒だ。


「さっきの、続きだよね」


 一度ためらうように視線を泳がせて、改めて高梨はこちらを見上げる。


「その前に、さ。ちゃんと教えてほしいんだ。高崎、好きな人……いるの?」


 彼の誠実さに、今度は逃げず正面から向き合わなければならない。


「いるよ。高校のときから、ずっといる」


 ひとつ頷くと、再度撮った写真の表示をお願いしてきた。


「ミモザの花言葉って、知ってる?」


 写真を差す指はよく見ると震えていた。戸惑いつつ首を振ると、調べるよう促される。

 微妙な緊張感が二人の間に流れている。早く結果を表示してくれと、祈るような心地で画面が切り替わるのを待った。


「出た! えっと、花言葉は……」


 反射的に言葉を読み上げて……ある内容で、止まる。


 ――秘密の、愛。


 改めて視線を向けた先の高梨は、薄闇でもわかるほどに瞳を潤ませていた。思わず頬に手を伸ばすと、微熱でもあるのかと錯覚しそうな熱さが返ってくる。


「黄色いから、秘密の恋って言葉も、あるんだよ」


 夢の中にいるような心地だった。端末をポケットに突っ込んで、もう片方の手も頬に触れる。

 高梨の両手が自分の頬に触れる。少しひんやりとした感触が、夢見心地を覚ましてくれる。もうごまかさなくていいのだと、素直になっていいのだと伝えてくる。


「……先に、言ってくれてたんだな」


 高梨の前では格好つけたいのに、高校のときからどうにもうまくいかない。


「俺、ちゃんと言うつもりだったんだ。ずっと好きで、忘れられなくて、でも勇気が出なくて……絶対今日、言おうって決めてきたんだ」


 泣きそうになる。その顔だけは見られたくなくて強引に腕の中へおさめるも、背中に回された感触が、容赦なしに涙腺を刺激してきた。


「おれも同じだよ。言ったでしょ? 回りくどいことしなきゃよかったって」


 背中を向けていたのは、互いに一緒だった。

 でも、この写真が二人を繋ぎとめて、ひとつにしてくれたんだ。

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