ハロウィン
「おい、ハンス。今回のハロウィン、何かやるのか?」
「いや、何も考えてはいませんが、恐らくいつもの通りに家族で豪華な晩餐ではないでしょうか? 」
「そうか。」
「リンゼイ兄さんは何か策でもあるのですか? 」
「特にはないんだが、この間滞在していた国はハロウィンに子供たちが魔物の格好をして『いたずらするぞー。嫌ならお菓子をよこせー。』なんて言いながら大人からお菓子をもらうパーティーをしてたんだ。」
「ほう、それはおもしろそうですね。仮装ですか! 今までは家族で晩餐でしたからね。家族内で仮装パーティーでもしますか? 」
「魔物の格好をするのか? 」
「いえいえ、そこは自由に仮装ならなんでもいいのではないですか? 」
「ハンス、お前時々すごい発想の飛び方をするよな。」
「ふふん。ほめ言葉ですね。ありがたく受け取らせていただきます。」
「じゃあ、まず母さんに話を通しておかないとだな。」
「そうですね。今回の趣旨も説明しておきましょう。」
******
「いたずらするぞー」
「ああ、素敵すぎるぞ!! リリアン!! かわいい!! 」
「そうですか? ハンス兄様、うれしいです。」
頬をうっすらピンクに染めてリリアンがものすごく可愛い顔でにっこりする。こんなかわいい生き物がいまだかつていたのか、いや! いない!
ハンスが自問自答しながらものすごく感動している横でリンゼイのまとった空気が冷えていてその温度差にシルフィがため息をつく。
「マッタク。人間ってものはオモシロイものだなあ。」
リリアンに子猫の衣装を着せようとしていたリンゼイはハンスとともにリリアンが用意した衣装の前で固まっていた。
「っ! なんでドラゴンなんだっ!! 」
リンゼイが可哀想になったのでシルフィがリンゼイの手から猫耳カチューシャを受け取りそっとリンゼイの頭にのせてあげました。
「きゃー!! リンゼイ兄様よく似合います。かわいいです。」
目が無くなってしまうんじゃないかというくらい目を細めて笑うリリアン。でもドラゴン。
首の部分から穴が開いていて顔を出すようになっているのだが、可愛くデフォルトされているわけではなく、限りなく実写に近いドラゴンにリンゼイは引いていた。どうやらフリューゲルス家のお針子さんの努力のたまものであるらしい。
そして腑に落ちないことがもう一つ。
「なんでここにお前がいるんだよ。」
「リリアンの婚約者ですので。」
そんな憎たらしいセリフを吐きつつリリアンに近づいていくジークリオン。
「リリアン、とてもお似合いですよ。時間がなくて仮装できなくて申し訳ない。俺もドラゴンになれば番のドラゴンになれたのに・・・。残念だ。」
「ジーク様! 来ていただけたのですね。」
「ほら、リリアン。例の文句を言ってくれ。」
「はい、ジーク様。『いたずらしちゃうぞー』」
「してくれ。」
ばき
真顔で返したジークリオンにハンスとリンゼイがこれまた真顔でこぶしを振りぬいた。
「きゃあ、大丈夫ですか、ジーク様! 」
慌てて駆け寄るリリアンに頭を押さえて起き上がるジークリオン。
「大丈夫だ。ところでリリアンに頼みがあるのだが。」
「はい。なんでしょうか。」
「リリアンに似合うと思ってシルフィ様とおそろいのドレスを用意した。ぜひ着替えてくれないか? 」
「えっ、リリーとおそろいダト!! 」
着たいぞ、リリーとおそろい! おそろい!! とリリアンにねだりだすシルフィをにこにこしながら見ているジークリオン。恐ろしい子!!
結局シルフィに説得されて着替えてきます、と、自室に戻るリリアンを笑顔で見送った後、ジークリオンにハンスが問いかける。
「どんな洋服を贈ったんだい? 」
「ああ、セクシーな・・・冗談だ。」
こぶしを無言で握ったハンスとリンゼイを見て訂正するジークリオン。
しばらく三人でつらい沈黙が続いたのでした。
******
「リリアンのいいところを存分に引き出しているドレスだね!! さすがだよ、むっつりスケベなジークリオン!! 」
「ああ、悔しいが素晴らしいな。シルフィさんも可愛らしい。」
「なんか気になる単語が出てきたが、まあいい。」
ライム色のひざ丈のドレスは裾の部分が細やかに銀糸で刺しゅうされており、華やかな色合いにもかかわらず上品にまとめられている。上半身の部分はノースリーブになっているように見えるが、どうやらレイヤードになっているようだ。オーガンジーの透け具合がライム色を柔らかくしていてとても可愛らしくみえる。少し露出が多いような気もするが絶妙なバランスで清楚さが失われないようなデザインになっている。
「シルフィ様と並ぶと、まるで風の聖霊様のようだね。神秘的でおいそれとは近寄れやしないよ・・・。」
「少し丈が短く感じるのですが・・・。はしたなくはないですか? 」
ハンスは感極まって涙ぐんでいる!
もじもじしながら頬を染めるリリアン。
「いや、あまりにも似合っていて素晴らしくて言葉が出なかったよ。」
「ありがとうございます。」
はにかみながら笑顔を返すリリアンにノックアウトされてしまったのは言うまでもない。
人間三人と聖霊一体。楽しくパーティーは続く。
「こんなに楽しいハロウィンは初めてです。また来年もやりましょうね。来年はケルベロスなんてどうですか? あ、ガーゴイルとかも魅力的です。」
にっこりと言ったリリアンの一言に顔色が変わるリンゼイとジークリオン。
リンゼイはフリューゲルス家のお針子さんたちを手懐けることを今、心に誓った。




