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海を歌う愉快な黒板

無色のさくら

作者: 海之本

あの日


小柄な背中

追いかけて

さくら色の雨が

アスファルト

濡らしていました

道の端

つもる花びら蹴散らして

はしゃぐあなたの笑顔

風がふいて

鼻うたがふわふわ

舞っていました


楽しいんだね

嬉しいんだね


自転車おしながら

音程はずれたメロディ

なぜだか

目の奥

熱くなりました


あなたと見ていたはずのさくらは

今日散りながら

手を振っています


ほかには何もいらないのに

どうしてでしょう

わたしは

あなたのいない

無色の雨にうたれています


こんな日は

あなたの腕の中

丸くなって眠りたい

襟毛を優しくとかす

あなたの指

柔らかな体温に喉を鳴らして

肺いっぱいに

柔らかなかおりを

つめこむことができるなら

このまま

世界が消えても

きっと

悔いはないでしょう


ずっと

小さな腕の世界にいたかった


わたしが悪いのです

わたしが決めたことなのです


腕から飛び出したら

急に寒くなりました


広い世界なんて

ほんとうはどうでもいいのです


あいたい


どうして

羽ばたきたいとおもったのでしょう

空など飛べるはずもないのに


名を呼ぶ声

聞いてしまえば

あなたのいない世界が

ずっとずっと

つらくなるのに


あなたの指が

この毛をなでる優しさは

どこにもないから

外はひどく寒い


どうしてこうなったのでしょう

わたしは間違えたのでしょうか


あなたの腕の中は

心地好い布団のようで

まどろみながら

優しくとらわれてしまう

けれど

きっと

わたしの体温が

わたしの手足が

あなたを覆う毛布になることでしょう

そうしたら

ずっと一緒にいられるのに


背中におでこをつけて

あなたの寝息

まねをしてみるのです


このまま

小さな背中に

とりこまれてしまいたい


寝返り打つあなたの

下敷きになりそうで

慌ててはなれて

ひと息つきましたが

あなたの寝息は


ピー

フン……

ピー

フン……


このまま

朝がやってこなければいいのに


わたしは願いをこめて

あなたの首元に

そっと

顔をうずめましょう


別れなど

大したことはないと

どうして自信があったのでしょう


あなたのいない世界へ

とびだして

あなたを置き去りにしました

あなたは手を伸ばしましたが

無理矢理

わたしをつかむことはしなかった


その手も

かおりも

温もりも


こいしい


すべてを放りだしたら

あなたは許してくれますか?


さくら色の雨

もう一度見たいな


今夜のさくらは

まるで

宇宙でたったひとりぼっち

真っ暗闇に

ぷかりと浮かんでいます

舞いおちる花びらも

わたしの影も

色がありません

このまま

宇宙から消えてしまいそうです


今日は雨が降っています


花びら蹴散らして

鼻うた歌ってくれたあなたを

泣かせた日です


ごめんなさい



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