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僕の〝彼女〟?

 


 その日、佳音は和寿の訪れを待っていたが、工房を閉める時間になっても和寿は姿を見せなかった。さすがに工房が開いていないと、和寿も来にくくなってしまうだろう。


 夕食を済まし、片づけも済んだ後、冷蔵庫の中に残されたケーキの箱を見て、佳音はため息をついた。

 でも、明日は…。もしかして明日、和寿が来るかもしれない。

 佳音は、明日までケーキを残しておこうと思った。消費期限も過ぎて、美味しくなくなってしまうかもしれないが、一人で食べるのは寂しすぎた。

 

 するとその時、玄関のチャイムが鳴る。


 ――こんな時間に誰……?


 とっさに思いついたのは、ジャケットを忘れていった和寿だった。佳音は玄関へと急ぎ、すぐさま解錠して、顔を上気させてドアを開けた。


「やあ!佳音ちゃん」


 そう声をかけられて、佳音は立ちすくんだ。そこに立っていたのは、惣菜屋の息子の謙次だった。


「今日はドアを開けてくれて、嬉しいよ。これ、ワイン持ってきたから一緒に飲まない?」



 謙次は浅黒く肉付きのいい顔でニッと笑ったが、途端に佳音の顔は険しくなる。初めからこの男だと分かっていたら、ドアを開けたりなんてしなかった。


「……お気持ちは嬉しいんですが、お酒は飲めないんです」


 こんな言い方では、この男はあきらめて帰ってくれない。これまで何度も気がない返事をして断っているのに、この男は性懲りもなくここへやって来る。

 いい加減うんざりして、佳音は心の中で苦虫を噛み潰した。それでも、その心の内の嫌悪感をすべてさらけ出して、逆切れされて居直られても怖い。


「そんなこと言って、一杯くらいなら飲めるんだろ?これ、すごく上等なワインなんだぜ?」


 そう言いながら上がり込もうとする謙次に、佳音の心臓が跳び上がった。この男とこの工房で、二人きりになるなんてとんでもない。


「こんな時間に、彼氏でもない人を入れるわけにはいきません」


 不安でドキドキと胸の鼓動が大きくなるのを感じながら、佳音はとっさにそう言って引き留めた。


「……彼氏って?佳音ちゃんに、彼氏なんていないだろ?それじゃ、今日だけでも俺を彼氏にしてよ。だったら、問題ないじゃん」


 こんなことを言い出した謙次に対して、佳音はどうしたらいいのか分からなくなってしまう。このままでは本当に、この男に上がり込まれてしまう。


 佳音は怖くてたまらなくなった。いっそのこと、この男の脇をすり抜けてここを飛び出して、誰かの助けを求めに行こうと思い始めたとき――、謙次の背後に、ワイシャツにネクタイ姿のスラリと長身の男が現れた。


 ジャケットを取りに戻ってきた和寿だ。和寿は謙次の後ろから覗き込んで、佳音のこわばった顔を認めると、状況をすぐに把握した。


「こんな時間に、なにやってるんだ?」


 和寿の発した険しい声に、謙次が振り返る。佳音も助けを求めるよりも、普段の和寿からは想像もできないその声色の厳しさに驚いて、身体がすくんで何も答えられない。


「あんたこそ、なんだよ?関係ないのに、首突っ込むなよ」


 謙次は、和寿のことを通りすがりの人間だと思ったらしい。怪訝そうな顔をして、追い払おうとした。


「関係なくない。僕は彼女の〝彼氏〟だ」


「……え?!」


 和寿のその一言に、謙次だけでなく、佳音までも息を呑んだ。和寿は謙次を押し退けるように室内へ入ると、そこに立ちすくんでいた佳音の肩を抱き寄せる。


「佳音は僕の〝彼女〟なんだよ。そういうことだから、下心見え見えのくだらない用で、もうここには来ないでもらいたい!」


 呆気にとられている謙次に向き直って、和寿はそう言い放つと、ドアノブを掴んでバタン!とドアを閉め、カチャリと鍵を閉めた。


 今目の前で起こった出来事があまりにも突拍子なくて、佳音は目を見開いたまま呆然として口も利けない。すると、和寿は抱いていた佳音の肩から手をパッと離し、恐縮したように頭を下げた。

 

「……すみません。調子に乗ってしまって……。でも、これでしばらくは、しつこくされなくなると思います」


「あ……」


 和寿の言動の真意がやっと分かって、佳音はか細い声をあげた。確かに、和寿を“彼氏”ということにしておけば、謙次もあきらめて姿を見せなくなるだろう。


「……いいえ、助けていただいて、ありがとうございます」


 深々と頭を下げながら、和寿の放った『僕の彼女』という言葉がまだ耳の奥で響いていて、ドキドキと胸の鼓動が大きくなってくる。

 和寿の言ったことは、自分を助けてくれるための狂言。それは分かっていたけれど、佳音は動転して体がかすかに震えているのを感じていた。


「あの……、僕ここに、ジャケットを忘れていませんでしたか?」


 気を取り直すように、和寿が本題を持ち出して、佳音も現実に引き戻される。


「ああ、お忘れでした。ちょっと、待っててください」


 佳音はダイニングへ走り、壁に掛けてあったジャケットを手に戻ってきた。


「ありがとうございます」


 と、和寿の方も頭を下げて、それを受け取る。和寿の用事はこれで済んだ。これで、心置きなく帰れるはずだ。


 顔を上げた和寿は、佳音と目が合うとほのかに笑いかけてくれた。その余韻の漂うような眼差しに、佳音も心が残ってしまう。


「……あの、昼間に持ってきて下さったケーキ、食べて行きませんか?」


 佳音は思い切って、そう持ちかけた。こんな時間に引き留めてしまうなんて非常識かもしれないと思ったが、あのケーキは和寿と一緒に食べなければ意味のないものだった。


「ああ…!あの、ケーキ」


 和寿の顔に、パッと明るい笑顔が灯った。


「独り占めできる絶好の機会だったから、てっきり全部食べてしまってると思ってました」


 そして、少し冗談を含ませて、和寿はそう続けた。佳音にも、自然と明るい笑みが湧き出てくる。


「私はそんなに食いしん坊じゃありません」


 呆れたようにそう返してくれる佳音に、和寿はもっと楽しそうな顔になる。佳音に促されるまでもなくダイニングへと向かい、自然な動きでテーブルに着いて、まるでそこが自分の居場所のように落ち着いた。

 

 和寿が買ってきてくれたケーキは、洗練されているのに趣向も凝らされていて、芸術品のような一品だった。

 佳音がケーキを載せた皿と紅茶を出し、楽しい雰囲気で向かい合う。しかし、いざとなると、佳音は食べてしまうのがもったいなくて、フォークが入れられない。


「……ケーキ、ホントは好きじゃなかったですか?」


 和寿が心配そうに覗き込んでくる。


「いいえ…!そういうわけではありません。ケーキは大好きです」


 とっさに佳音も首を横に振って、和寿の心配を打ち消した。


「それじゃ、森園さんは好きなものは最後まで食べずに取っておくタイプですか?」


「は……?」


 和寿から思いも寄らない質問をされて、佳音が和寿を見つめ返すと、和寿はその表情に面白そうな笑みを浮かべていた。そんなふうに自分のことを分析されて、途端に佳音の顔に火がついた。


「…そ、そうじゃありません。あんまりケーキが綺麗だったから食べるのがもったいなくって……」


 佳音はそう言いながら、ぎこちなくフォークを持ってケーキをひと口頬張る。本当にケーキが綺麗だと思っているのに、こんな言い方をすると焦って言い訳をしているみたいだと思った。

 けれども、和寿のこの指摘は、佳音に一つの記憶を呼び起こさせる。


「そういえば……、小学生の時給食で出たプリンをなかなか食べられないことがあって……」


 佳音が口を開いたので、和寿も相づちを打つ。


「プリンが嫌いだったんですか?」


「いえ、その逆で大好きだったので、やっぱり食べるのがもったいなくって……」


「でも、給食だから……。結局、食べたんですよね?」


「……クラスの男子に取られました。『これ、食えないんだったら食ってやる』って……」


「ハハハハハ!」


 佳音の話の顛末を聞いて、和寿は声を立てて笑った。朗らかに、本当に楽しそうに……。


 佳音は自分のことを笑われているのにかかわらず、和寿のその笑顔を見て、恥ずかしく感じるどころか嬉しくなった。


「それじゃ、そのケーキも早く食べないと。あなたの分も、僕が食べてしまいますよ」


 楽しい気分に乗って、冗談交じりに和寿がそう言ってきたので、佳音も笑いを漏らす。


「古川さんは、クラスの男子みたいなことはしないでしょう?」


「いいえ、男子は誰だって、可愛い子にはちょっかいを出したくなるものです」


 その言葉に、佳音の胸がドキンと鼓動を打って反応した。『可愛い子』というのは、自分のことだろうか…。深い意味はないのだと思うけれど、こんなことを言われ慣れていない佳音は、ささいな冗談にさえも過敏になった。


 佳音が何も言葉を返せずケーキを食べ始めると、途端に会話が続かなくなる。先に食べ終わった和寿は、いつも針仕事をする佳音を見つめるように、じっと佳音がケーキを口に運ぶ様を見ていたが、やがて黙ったまま工房の方へと目を移した。


 こんなふうになってしまうと、佳音は緊張して固まってしまう。人に対して、どうやって気遣ったらいいのか分からなくて、本当に情けなくなる。

 こんな自分と気まずい思いでケーキを食べなければならないなんて、引き留められて和寿は迷惑だったのではないか…。佳音がそんなことを思い始めた時、和寿が口を開いた。


「今日の昼間は、突然飛び出して行ってしまって、失礼しました」


 会話の窓が開かれて、佳音はホッとする。本当ならば、大変な思いをしている和寿に対して、自分の方から気遣う言葉をかけてあげるべきだった。


「…いいえ、あんなに急いで戻らなければならないなんて、重大なことが起こってしまったんですね?」


「まあ、そうです。取引先とのことで不手際があって……。その対応に追われました……」


 和寿はその大変さを物語るように、肩をすくめて、目をくるりとさせた。


「それで、もう大丈夫なんですか?」


「ええ、なんとかなりました。何人もの部下を抱えて仕事をしていると、こんなことはよくあります」


 佳音が心配してかけた言葉に、和寿は“にっこり”と笑ってみせる。

 和寿のこの笑顔は、会社という組織の中でかたち作られたものなのだろうか…。にこやかだけれど感情を隠した笑顔を見て、佳音の胸にチクンと小さな痛みが走った。


 会社というものについては、佳音にとって全く未知の領域だ。話の相手ができるとは思えなかったが、それでも、会社の中にいる和寿について、知りたくなった。


「古川さんは、責任のあるお立場なんですね。お若いのに部下もいらっしゃるなんて」


 佳音からそう言われて、和寿は苦笑いする。


「分不相応だとは、自分でも思ってます。与えられた仕事を一生懸命やってきただけなんですが…」


「それじゃ、古川さんは優秀なんですね。会社に入ったら誰でも与えられた場所で、仕事は一生懸命やるものだと思いますから」


 佳音のこの言葉に、和寿は意表を突かれたように目を丸くした。


 どうやら佳音は、この狭い工房の中に閉じこもってばかりいても、現実を見極められる能力を持っているようだ。白い肌に映える大きく澄んだ瞳から注がれる眼差しはとても深くて、見つめられると和寿は、すべてを見透かされているような気持ちにさえなった。


 和寿の表情の上の苦笑が消えていき、真面目な顔で佳音と向き直る。


「……入社してまだ2年目のことです。僕が提案した企画を副社長が目に留めてくれて、大抜擢を受けました。それから5年の間に一足飛びに昇進して、今は経営企画室の室長補佐をしています」


 和寿がそんなふうに身の上を話してくれて、佳音は少し嬉しくなる。和寿について、自分の知らないパーツの一つひとつを埋めていくことは、佳音の数少ない楽しみのひとつだった。

 けれども、その話の中で少し気になることがあった。本当はそのことについては知りたくないのに、佳音は思わず聞いてしまう。


「副社長さんは、よほど古川さんを見込まれたんですね。将来は会社を背負って立つ人間になさろうとしているんですから」


 佳音の言っていることは、暗に幸世との結婚のことを指し示していた。現実を指摘されて、和寿は考えるように言葉をおいた。

 幸世のことを持ち出されると、和寿の表情は、いつも感情を押し隠しているような複雑さを漂わせる。そして、思い切ったように切り出した。


「幸世さんとは、お察しの通り、副社長の計らいでお見合いをしました。もちろん、僕に彼女がいないことなどを確認された上でのことで、無理にさせられたわけではありません。とりあえず付き合ってみることになって、特に何もお互いに対して問題もなかったので、順当に結婚することになりました」


『問題もない』から結婚するというのは、佳音の感覚からすると少し引っかかるものがあったが、ただ頷くだけで話の続きを待った。


「結婚することが決まったと同時に、僕は室長補佐に昇進し、結婚した後は専務取締役に就くことが内々に決まっています。……どこをどう見込まれたのか……。分不相応のことをしているわけですから、本当に必死になって、それに見合った人間になろうと努力しているわけです」


 そして、そう言って和寿は笑ってみせた。

 和寿にとって、幸世と結婚して新たな人生を歩み始めることも、必死になって努力することなのだろうか……。和寿の笑顔が、先ほどの朗らかなものと違って、佳音の目にはなんとも言えず寂しそうに映った。その寂しさを感じ取って、佳音の心も苦しくなってくる。


 佳音は、和寿の幸せそうな笑顔が見たかった。その笑顔さえ見られれば、常に寂しさを抱えている自分の心も、パッと明かりが灯って暖かく満たされるような気がするから。


「……古川さんの、“夢”って、なんですか?」


 不意に、その問いが佳音の口をついて出てきた。夢を語ることで、少しでも未来に対して、明るい展望を見い出してほしかった。


「……夢、ですか……?」


 しかし、佳音の思惑はよそに、和寿は困ったような複雑な表情を浮かべる。そのまま黙ってしまった和寿を、佳音は祈るような気持ちで見守った。


 そして、しばらくして和寿は静かに口を開いた。


「夢は、遠い昔はあったんですが……。今はそんなことも、思い描かなくなってしまいました」


 それを聞いて、佳音も言葉を逸する。これでは、和寿に明るい気分になってもらうどころか、いっそう消沈した雰囲気になってしまった。


 佳音は必死で言葉を探した。自分といる時の和寿には、穏やかな気持ちで笑っていてほしかった。何とかして、この沈んだ空気を払しょくしたかった。


「あの…!私の夢は……」


 気づけば、佳音の口は勝手にそう動いていた。和寿は表情を緩めて、佳音と視線を合わせてくれた。


「私は、昔は夢なんかなかったんです。私は何のために生きているのか分からない、ただの人形のような人間でした。……だけど、高校生の時に先生のウェディングドレスを作って……。私の中に夢という明かりが灯りました。でも、どうせ叶うはずがないって、最初はあきらめて流されるまま生きていました」


「……だけど、その夢をあきらめきれずに、大学を辞めたんですね?それから努力をして、この工房を立ち上げた。立派に夢を実現しましたね」


 和寿は優しい声でそう言って、穏やかに笑ってくれた。その笑顔を見て、佳音は一筋の光を見たような気にさえなった。佳音は少し息を抜いて肩をすくめ、言葉を続ける。


「夢が実現できても、今の生活はやっぱり苦しいですし、それを続けていくことも大変なことです。でも、夢にしていた好きなことだから、大変な思いをして苦労をしても続けていけるんです」


 佳音の言葉に聞き入って、和寿はしみじみと頷く。それから、自分の内面と向い合っているのか、和寿は黙り込んでしまう。

 やはり愁いを含んだような表情に戻ってしまう和寿に、佳音は思い切って投げかけてみた。


「……古川さんが昔に抱いていた夢は、何だったんですか?今からでは実現できないんですか?」


 この問いかけを聞いて、和寿は虚を突かれたように佳音を見つめた。

 佳音と目が合うと、うろたえたように目を逸らし、おもむろに立ち上がった。


「そろそろ帰ります。こんな遅い時間に、長居してしまいました」


 佳音の質問には答えないまま、和寿は一礼すると玄関へと向かい始める。


「……今日は失礼なことを言ってしまって、すみませんでした」


 玄関先で、和寿は見送ってくれる佳音に向き直り、改まって謝った。

 先ほどの会話の中で〝失礼なこと〟が思い当たらず、佳音が首をかしげて見つめ返す。


「…その、『佳音』と呼び捨てにしてしまったり、…『僕の彼女』だって言ってしまったり…」


 そのことを思い出して、佳音の顔が反射的に赤くなった。長い髪を左右に揺らしながら、急いで首を左右に振った。


「いいえ、とんでもない。私は気にしていませんから、古川さんもどうぞお気になさらないでください」


 佳音がそう言って答えると、和寿も何か言葉を返そうと口を開きかけたが、結局思い止まった。まだ愁いを含んだような和寿の表情に、佳音が投げかける。


「ケーキ、ご馳走してくださって、ありがとうございました」


 それを聞いて、和寿の顔にほんのりと明るい笑みが浮かんだ。和寿は再び会釈をすると、背を向けて階段を降りていった。


 その姿を見送って、ドアを閉めて鍵をかける。

 居心地のいいこの工房の中で一人になれて、ホッと落ち着いているはずなのに、佳音は自分の胸がドキドキと大きく鼓動を打っていることに気がついた。


『佳音は僕の彼女』……。

 とっさについた嘘だと分かっていても、和寿の放ったその言葉は、いつまでも佳音の心の中でこだましていた。


 次第に、のど元に苦しさがせり上がってくる。この感覚は、ずっと前にも経験したことがある。高校生の頃、担任だった古庄が心に過ると、苦しくて切なくて…それでいて少し甘くて…、佳音はいつもこんな感覚になっていた。


 佳音は自分の中に湧き起こってくるものを押し止めようと、必死になった。その感情に気づいてしまうと、きっともっと苦しまなければならなくなる。

 自分から求めても、相手がそれに応えてくれないと寂しくなる。寂しくなるだけではなく、自分のことを全否定されているように感じて、生きていくことが辛くなる。


 古庄のことを心の底から求めていたのに、古庄にはすでに真琴という愛する人がいて、佳音の想いを絶対に受け容れてくれなかった。

 あの時の絶望感を思い出すと、人を好きになるのが怖かった。あんな混沌とした闇の中でもがき苦しむような思いは、もう二度と味わいたくない。


 だからこそ、初めから相手に何も期待をせず、何も求めなくなった。初めから関わりを持たなければ、見放されることもない……。今のようにこうやって一人ぼっちでいることが、一番心穏やかに生きていけることなのだと、佳音は信じて疑わなかった。




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