乙女ゲーの人気攻略キャラだった俺様系王子が、私のせいでマゾっ気体質になってしまった……
稚拙な文章ですが……書いてみました尻切れトンボですみませんm(__)m
「捕まえたぞ、リィナ。もう逃がさない」
「……あのー、これってどういうことですか?」
私、リエルティナ・フェイルン侯爵令嬢は、只今この国の第1王子であるエイル・ヴィリエルに抱き締められている。
ちなみにこの人とは婚約者でもなければ恋人でもない。ただの他人だ。というか他人だと信じている。
あのさ、今日って学園の高等部の入学式その日なわけでさ、こんなことしている暇じゃないんだよね。
しかも暑い! クソッ、王子だから邪険に扱えない! 私のことは放っておけよ! 折角───
「折角、イベントを回避し続けたのにぃ……!」
「は? イベント? そうか、そんなに嬉しいか」
「……」
否定したい。でも否定すると何か良からぬことが起こる気がする。あぁ、面倒な……。
私なんて無視しておけよぉ……! 私は平和に生きたいんだよぉ! 泣いていい!? いいよな!?
───ヒソヒソ、と周りから小さな声が耳に入ってきた。小さくても私に聞こえるような大きさで、しかも悪口……。
そりゃ悪口の1つも言いたくなるよな、王子に抱き締められているんだし。でも私は悪くないんだ。だって王子がぎゅうぎゅう抱き締めてくるから逃げられないだけだし。
しかもここ、高等部の校門のど真ん中。そして王子、生徒会長。歴代で最も優秀だとさ。生徒会の仕事をしなよ、王子様。
うん、逃げよう。もう私のMPが終わる。
「あの、王子殿下、このような場所でこんな───」
「どうした? 9年前とは随分と態度が違うな?」
「あ、あの時は無礼を……」
「よい。無礼などではなかった」
「ありがとうございます。……ところで、離していただけませんか? 入学式が始まってしまいますし、他の方々に誤解を招いてしまいますゆえ。それに、生徒会の仕事があるのでは?」
王子は渋々といった様子で私を解放してくれた。仕事も終わっていなかったようで、校舎に戻っていった。
───私の耳許で「またすぐ会いに来る」と囁いてから。
キャーラーがーちーがーうーっ! 俺様キャラがでれでれのあまあまキャラになってるーっ! 怖いんですけど! ときめくどころか恐怖で寒気が!
あとさ、何で私に抱きついた!? 私は悪役令嬢なのに! ゲーム通りにいけば、あの時間はヒロインと遭遇していたはずなのに!
もう駄目だ……。私の人生はオワタ……。
だがしかしッ!
そんな簡単に諦めてしまうリエルティナではない!
生まれ変わったんだから!
ハッピーエンドじゃなくてもいい!
バッドエンドは嫌だ!
でもあの王子とだけはくっつきたくない!
私は高等部の校門の前で、人目を気にせず力強く拳を握りしめた。その胸に決意を宿しながら。
────私は、バッドエンドを回避する! そして商人になって、商会をつくって、波乱万丈な人生を送ってやるんだッ!
私には弟がいるので跡継ぎの問題はない。だったら人生、自由に、freedomに生きてもいいじゃないか! 私の夢なんだよこれは!
そうさ、ヒロインと王子との関わりを限りなく薄くして、badなendを迎えないようにするんだ! そのために7年前から努力しているんだ!
この高等部でのイベントを回避しまくれば私はfree! 自由! freeな女神だよ!
さぁさぁ、イベントは全て私の頭の中に入っている。回避なんて、今まで通りにお茶の子さいさいだ! ヒロインは王子とか他の男共の逆ハーでもつくっていてくれ、私には関係ない!
イケる。これならイケる! 地の果てまでも、底までもイケる!
「ふっふっふ……」
あぁ、笑いが込み上げてきた。堪えきれない!
「アーッハッハッハッハッハッ! フファーッハッハッハァッ!」
周りの人の目線? 何それどうでもいい。私は私だ。生まれ変わってたことでコミュ障でなくなった、ただの侯爵令嬢だ! 王子とくっついているところは見られたくないけど(自分でも抱き締められているなんて信じたくないし)、他はいい! 令嬢なんて立場はすぐなくなるからな! いや、私が捨てるのだッ!
今までのフラグは全滅! これからのフラグも滅ぼす! なんて愉快なんだ! あ、でもさっき王子が意味分からないことやってきたな。新しいフラグか?
でもそんなの私は気にしない! 王子もろとも滅ぼすッ! それだけのことだ!
「さぁ行くか! 私の戦場へ!」
散々笑ってスッキリしたので、いい加減入学式に急いだ。あー周りの人の目が痛い……。
─────────
「───諸君には、この学園に入学することの出来た実力がある。そのことに誇りを持ち───」
あー長い。校長ってどこの世界でも話長いよなー。生徒に嫌われちゃうぞー?
さぁてと、ここまでの流れを説明しよう!
私の名はリエルティナ・フェイルン。侯爵令嬢だ。これはさっきも言った。年齢は16歳。高等部1年生。身長と体重はどうでもいいから覚えていない。好きなことはフラグを滅すること。嫌いなことは傍観すること。
そんな私は転生者である。分かると思うけど。乙女ゲーの中に悪役令嬢として転生なんていう、最早ありきたりなパティーン。
転生したと分かったのは6歳のとき。今朝、校門の前で私を抱き締めやがった王子の絵画を見たのが原因である。
当時の王子は9才。私の3つ上だ。その絵画は今の王子の面影を残していた。金髪碧眼の超王道、自分中心の俺様系な、『君の恋は俺のモノ』、略して『君恋』の人気攻略キャラの面影を!
ちなみに『君恋』は、ヒロインをやる前に悪役令嬢をやらなくてはいけないという、何とも不思議なゲームだった。悪役令嬢として選んだ相手を、ヒロインに取られるって……悔しいよ、本当に!
悪役令嬢の後はヒロインになる。その前に悪役令嬢として選んだ相手をヒロインとしてオとすのだ。
何故か人気の出たこのゲーム……。悪役令嬢の気持ちを知れるからかね? でもよかったよ、悪役令嬢をやれていてさ。フラグがいつどこにあるか分かるし。悪役にもフラグあるんだもんなぁ、あれ……。
思い出してしまった私は自分が悪役令嬢だと分かった。処刑か暗殺か生け贄か実験台かヤンデレ変態ジジイに嫁ぐかのルートしかない悪役令嬢だ。
どのルートも地獄だと思った私は、これから存在し続けるフラグを滅ぼすと誓った。
まずは1年後のフラグから、と滅ぼしたのが第1王子のフラグ。あの俺様さんはゲームだと一番人気だった。しかし私は嫌いだった。
俺様キャラが嫌いなのだ、私は。
他のキャラなら何でもイケる。だが俺様キャラだけは無理! あんな偉そうな奴、ぶっ潰してやりたくなる!
そんな訳で、滅したフラグの1つ。詳しく説明するのであれば───
あれは、貴族のお茶会でのことだった。大人は大人。子供は子供で集まり、談話していた。その時に聞こえてきた、令嬢たちの甲高く黄色い悲鳴。
『王子殿下だわ!』
『王子殿下カッコいい!』
『キャー抱いて!』
その目線の先にあるのは、叫ばれまくっているチビ王子。
乙女ゲーの設定では、ここで悪役令嬢が王子に恋に落ちていた。だから落ちないように、そして私自身の腹いせのために王子を罵ることにしていた。
令嬢共の群がる中心に、俺様系笑顔を浮かべる餓鬼んちょ。まだ10歳のくせに、女を見れば俺様系の口調で口説いていた。
『ふっ、うるさい令嬢たちだ。だが……心地よいな。心地よいその声は、俺だけのために聞かせろ』
『『『『キャーーーーッ!』』』』
うるさい。お茶会なんだ、優雅にしろやボケ。
内心では暴言を吐きつつ、外面ではにこやかな笑顔で王子に近づいていった。
『ごきげんよう、王子殿下。お招きいただきありがとうございます』
『あぁ、そうか』
期限よく振り向いた王子に、もう一言。
『それと、茶会の風紀を乱すのはやめてくださいましボンクラ。折角のお茶と菓子が不味く感じえてしまいます。えぇ、勿論他の令嬢方の喚き声とテメェのイキッテいる発言のおかげです』
ポカーン……。正にこんな表現が似合う空気になった。
あ、一言じゃ抑えきれなかったなと私は反省していた。あともう少し乱暴に言えばよかったかな、とかも思った。
なので私はもう少し言葉を続けた。
『あら、私が何て言ったか理解できませんでしたか? うるさいから黙れと言っているのです。そ・れ・に、俺様系なんて顔と権力がイイモノであれば誰でも成り立ちますわ。つまりテメェは顔と権力だけを振りかざしている、その他は何もイイところなし、つまりはただの親の脛かじりです。王位につくまでは───あ、つければの話ですが、つくまでにはその煩悩をどうにかしてください。そうでないと私共や平民に迷惑がかかりますので』
王子に有りのままをぶちまけた私の気分はとても高揚していて、なんかイっちゃっている感じだった。
あぁヤバい、興奮してる。そう自覚はできたので、これ以上王子を罵ってしまう前に退場することにした。
ちなみに、お茶会での私は素顔が分からないように厚化粧していたので、顔からどこの令嬢か探そうとしても不可能だ。
しかし主催である王妃様に訊けば私のことは分かる。王妃様は、自分が主催するお茶会の参加する者の全員を記憶しているから、当然だ。
だがプライドの高い王子が、『侮辱された』だのといった女々しい言葉で王妃様に頼るとは思えない。
いや、例え女々しい言葉でなくとも、俺様系の王子が誰かを頼るとは思えない。それが親であっても、だ。
完璧なフラグ滅ぼしの後、私は更に襲い来るフラグを蹴倒しに行った───。
とまぁ、こんなふうに私はあの馬鹿王子のフラグを滅した。あれが上手くいかなかったら私はあいつの婚約者になっていた。
その後は案外楽勝だった。ゲームの中の私は男の前だとぶりっこなビッチで、そのぶりっこに騙された男と関わっていくのだが……私はぶりっこなどできないし、むしろ罵倒する方が好きだったので罵りまくった。
罵って罵って罵りまくった故に───フラグは簡単に滅びた。皆、サドっ気のある令嬢なんてお断りなのだ。都合がいいことに。
おかげで私は今日この日まで来ることができたわけで。
───ふっふっふ。この学園生活でヒロインと王子とその他もろもろと関わらなければ、私は自由! 商人になるという夢が叶うのだ!
高笑いしたい! だができない! 今もまだ校長が長い話を続けているから! クソッ、あの校長はのんびり屋のくせに有能だから罵れない! あれが好好爺という人種か!
だが、まぁいい。フラグを滅するの、学園だとたくさんあるからな! ストレス解消にもってこいだ! 楽しみだなぁ、早くフラグを滅ぼしたいなぁ!
─────────
そんな意気込みのまま半年後。半年もすれば嫌でも実感してしまう。何を、って?
───王子が、明らかに乙女ゲーと性格が変わってしまっているということを。
私がフラグを滅してきたのは現生徒会のメンバーのイケメン達。俺様系と弟系と毒舌系とお兄さん系とチャラい系。フラグを滅した影響か、王子以外はみんな私を嫌っている。そう、王子"以外"なのだ。
ヒロインのイベントは滞りなく発生している。私が苛めるイベントと王子が助けるイベントは発生していないようだが。
私が苛めないというのは当然だ。私はバッドエンドなんてごめんだからヒロインを苛めないし、まず関わりがない。私が苛めないぶんは他の令嬢がやってくれている。
だが王子が助けるイベントがないというのは……想定外だ。他のキャラ達はヒロインに惚れ込んでいるのに、何故王子だけ違う?
しかも王子は意味不明な言動ばかり取る。入学式の日もそうだ。私を抱き締めたりまとわりついてきたり……。
あまりにもウザいので鳩尾に1発入れたこともある。手加減しなかったのに、王子はにやりと笑って、
『やはりリィナはこうでないとな。ますます惚れた』
と、頭が狂っているような発言をした。
『ますます惚れた』って何!? 惚れられてたの!? っていうか殴られて惚れたって、あれなの!? マゾなの!?
その時初めて私は悟ったのだ。───私のせいで、俺様系王子がマゾっ気体質になってしまったのだ、と。
まさかこうなるとは思っていなかった。ヒロインはマゾでも王子を好きになるだろうか? うーん、ヒロインが好きになっても、王子はヒロインを好きにならないな。あの子、見た感じサドじゃないし。マゾにはサドだろう。バランスよく。
原作とこんなにも変わってしまって、フラグまで変わっていないか私は不安だよ。簡単に滅ぼせるからよかったのに、難しくなったら面倒なことになる。
「はぁ~……憂鬱だ」
「あら、大丈夫ですか、リィナ様? 具合が悪いならお帰りになられた方が……」
「えっ?」
思わず呟いてしまったが、後ろに誰かがいるとは気づけなかった。いかんいかん、お嬢様口調にならなければ。
「おほほほっ、心配してくださるのね。でも大丈夫よ。ちょっと考え事をしていただけですから」
自分で聞いていて気持ち悪い、この口調。ただの敬語の方がまだマシだ。
私に話しかけてきたのは友人の一人、マリアンナ・ベルフィンという伯爵令嬢。お淑やかで優しい、令嬢の鏡だ。
誤魔化すと彼女はにこりと微笑んだ。
「そうですか。お邪魔して申し訳ありませんわ。ごきげんよう」
「えぇ、ごきげんよう」
……。いなくなった。図書館で会話するのはよくないしな、一人が一番だ。ヒロインはたまに王子以外の攻略キャラと一緒に来るらしいが……はっきり言ってうるさい。
「ま、いいや。今日はもう寮に帰ろう」
この学園は全寮制。そこに身分差はなく、全員が同じような部屋だ。そこに私物を持ち込むのが貴族というものだけど。
私は何も持ち込んでいない。必要ないからな。
「カラスが鳴くからかーえろっ」
どこで覚えたのか忘れた言葉を言いつつ、私は図書館を出た。寮までは近くないが遠くもなく、ちょっとした散歩にはもってこいの距離だ。
真っ直ぐな一本道を歩いていく。私の足は止まらない。何があっても止まらない。そう、例え行く先にエイル王子がいたとしても止まらな───
「リィナ!」
「……やめろよ、本当に」
ボソッと漏れた。というか漏らした。王子に敬語を使うのが馬鹿らしくて、いつしか素の私の口調で接するようになっている。
王子はそんな私に『敬語を使え』と罵ることもなく、ただ笑う。マゾはある意味心が広くなっている人物のことではないか、と私は思う。
今回もそうだ。呼びかけてきた王子に『やめろ』と言っても、聞こえているはずなのに王子は嬉しそうに笑っている。
「リィナ、今日こそ良い返事を聞かせてもらうぞ!」
「断る! 私は権力などに興味はない!」
「俺と結婚してくれ!」
「断ると言っている!」
鳩尾に1発入れた日から、私は王子にプロポーズされまくっているのだった。何でだ。
王族になれる? どうでもいい。私の夢は大商人だ。王族関係ない。それに面倒だしな、王妃とか。
だから私はプロポーズされる度に断っているのだが、いかんせん上手くいかない。
そうだ、今日は何か質問してみようか。それで、上手く断る理由を探そう。
「なぁ王子」
「何だ?」
「どうやって私を見つけたんだ? 見つけて、しかもプロポーズしてるし。あれだけ罵ったよなぁ?」
王子はにこにこと笑っている。笑うなイケメン。流石に間近でその顔は心臓に悪い。
「いくら化粧で顔を偽ろうとも、性格までは偽れないものだ。王族として情報を集めればすぐに分かったぞ。
プロポーズする理由は、そうだな、あの後、リィナが言ったことが正しいと気付いたのだ。俺にはそれまであんなふうに言ってくれる人間がいなかった。俺に欠けている部分をリィナが補ってくれると思ったから、プロポーズしている」
「ほほう?」
「あと、好きだからな」
「その言葉はいらん」
「それに、今年中に良い返事を貰えないと、俺は卒業してしまうから」
「あ、そっか。王子もう四年生かー。あとちょっとで20歳かー」
この学園の高等部は16歳から19歳までが通う、四学年の制度だ。私と王子は3つ離れているので、私が2年生になると同時に卒業だ。
王子は王子なので卒業すれば国のことを更に学ばなければいけないのだろう。つまり私を口説きに来る時間がない。
そうかそうか。あと半年間の辛抱で私は自由になるのか。
「くくっ……! いいじゃないか。さっさと卒業してしまえ。私が王子に嫁ぐなんて有り得ないからな」
卒業かぁ。最後のフラグも卒業式でだったな。ヒロインを苛めた罪で、生徒全員の前で、今の生徒会メンバーに断罪されるのだ。
だが私は苛めなどしていないし、誰かとフラグが立っているわけでもない。このままいけば断罪イベントは無しになる!
「ふふふふ……! もうすぐ私は自由になるっ……! 王子の卒業式、存分に祝ってやるよ」
卒業式でイベントが発生しなければ、きっと心の底から卒業式を祝ってやれるだろう。
イベントが発生してしまったら……どうしようかなぁ。逃げるか。
当日を待ち遠しく思う私の頭に、王子が微笑みながらポンと手を置いた。……は?
「お、おい……」
何をするんだ、と聞こうとするがそれより早く耳許で低く囁かれた。
「───卒業式までには、お前に俺を見させてやる」
「……………。────はっ!?」
いけない、フリーズしていた。
動けるようになったときには、そこに王子はいなかった。
何だったんだろう、あれは。あんな低くて甘ったるい声なんぞ聞いたことがない。それを耳許で囁かれるなんて……。
「ああああっ……! 顔が熱い! 何コレ!? 意味分かんないよ……!」
心臓がバクバク言っているんだけど……どゆこと?
もしや、これが恋……!?
────いや、それはないな。だってあいつ俺様系で……あああっ、もうキャラ崩壊しているんだったよ!
いやいやいや、恋なんて有り得ない!
耳許で囁かれた程度でオちるなんて、私チョロすぎ。ンなの恋じゃない。囁かれただけでそれはナイ。さすがにナイ。
慣れないことをされたから気が動転しているだけだ。きっとそうだ。攻略キャラに恋するなんてどう考えたってオカシイ。
まだ王子はヒロインに振り向いていないが……まだであるだけだ。あと半年間でどうなるか分からない。
そう考えたら火照っていた顔も冷めてきた。うん、やっぱり恋じゃない。
おk。恋じゃない。私は平常心。平常心のままなのだッ!
─────次の日になって、王子に会いました。
昨日のお礼に、思い切り蹴飛ばしてあげました、弱点を。
悦ばれました。
ああ、やはり王子はマゾになってしまったのだな、と私は心の中で頷いた。
このまま半年過ぎればいい。
私は、マゾに恋はしたくないしな。
……王子がマゾになったからって、罪人扱いされはしないよね!? されたら泣くぞッ!
このまま順調にいけば私はバッドエンドを迎えずにすむ。それまで何も起こらないでくれないかなぁ。
あ、でも明後日にフラグが存在しているんだった。壊そ壊そ。
「リィナ、俺とけっこ───」
「黙れ! マゾが!」
「いや、マゾじゃないぞ! 愛ゆえだ!」
「……意味が分からん。とにかく結婚なんかしない! 王族なんて地位は逆に邪魔だしな!」
「へぇ、じゃあ弟に王位継承権を渡して、リィナに付いていこうか?」
「はぁ!?」
……私は、バッドエンドに関して以外のことで、初めて悩みを知ることとなった。
どうしよう、王位継承権を弟に渡すとか言い出しちゃったよ。
こんな奴がいて、私の体は半年間もの間、保ってくれるのだろうか。
ああ、早く時が過ぎてほしい。
お読みいただきありがとうございますm(__)m
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