突然の声
(レオ!)
急に頭にサヤカの声が響いた。
次の瞬間、また光の玉が出てきてサヤカが姿を現した。
何故だろう。
すごく薄い?
(アヤネが・・・アヤネが・・・っ)
オレたちは何も考えずにアヤネの元に走った。
気がついたらもう夕暮れ時になってて、薄暗くなってきてた。
川辺に大きな黒い穴みたいなのが開いてた。
「何だ、これっ」
その穴の真ん中でアヤネともう1人、知らない男の子がいた。
何か叫んでる。
でも何故か他の人たちには何も見えてないみたいで普通に通り過ぎてく。
「あの子って・・・もしかして」
ミオウが震える声で言った。
(アヤネを死なせた子の1人)
サヤカが言った。
「サヤカ・・・その体・・・」
ツバキが心配そうに言う。
(今までアヤネを抑えるのに力を使って・・・もうダメ。もうアヤネを止められない。)
サヤカのほほに涙が光ってる。
「どうしよう。このままじゃあの子・・・」
ユズコがおろおろし始めた。
サヤカにはもう助けてもらえない。
それってすごく危険だ。
でも、アヤネをこのままにしておけない。
だって。
あの時オレの腕を掴んだ手は。
オレは気がついたら走り出してた。
アヤネの姿がもう分からないくらいに真っ黒な、泥みたいなものに変わってる。
その真ん中でその泥に取り込まれそうになってもがいてる男の子が1人。
おれはその泥の中に入っていった。
ツバキたちが何か言ってる。
でももうこれっきゃないだろ。
「助けて・・・」
男の子が言ってる。
オレはそいつの手を引っ張って泥から出そうとした。
アヤネが怒ってる。
「いいから、オレに任せろ。アヤネ。」
オレは静かに言った。
自分でも不思議なくらい。
「お前の気持ちは分かるけど。ここでコイツ、殺しちまったらさ、お前もコイツの仲間になっちゃうぜ?」
そういったらアヤネの力が少し緩んだ。
「オレ、お前と友達になりたいんだ。友達のお前を人殺しにしたくない。だからちょっと、オレに任せて。」
そう言って、力を入れた瞬間、足元が滑って転びそうになった。
「う、わっ」
これじゃオレも泥に飲まれちゃうんじゃ?
そう思った瞬間、後ろからオレの腕を掴んだ手があった。
「ったくもー、アンタってヤツはほんっと、手間がかかるね。」
ツバキだ。
「僕だって、一応人一人分の力はあるよ」
ミオウはよく分からないこと言ってるけど、つまり、手伝ってくれるってことだよな。
「私も、そんなに腕力ないけど。」
ユズコまでやってきて、皆でオレの身体を支えてる。
「言ったでしょ。助けるって。アンタも、アヤネもね。それ、引っ張るよ!」
ツバキの掛け声で全員が男の子を引っ張り上げた。
「そりゃー!」
気合一発、皆で転げて何とかなった。
男の子はもう涙でぐしょぐしょの顔をしている。
「お前さ、自分が何でこんなことになってるか、分かってる?」
男の子は首を横に振った。
だろうな。
これじゃなんの意味も無い。
「そこで待ってろ。逃げんなよ。」
男の子は何も言わなかったがツバキがポンッと肩に手を置いて
「黙って見てな。」
って言ったら高速で頷いてた。
ミオウとユズコががしっとそいつの両腕を掴んでる。
オレは少しそいつが気の毒になった。
それからオレはアヤネに向き合った。
アヤネはまだ怒ってるみたいだ。
「アヤネ。」
オレはアヤネに向かって両手を広げた。
「元の姿に戻りなよ。じゃないとお前が何で怒ってるのか、コイツ、分からないぜ?」
アヤネはしばらく迷ってたみたいだ。
でも少しずつ黒い穴は無くなっていった。
そして黒い玉がやがて女の子の姿になって、そこから・・・
「あっ」
男の子が声を上げた。
思い出したらしい。
「ゴメン・・・ホントにゴメン。あんなことになるなんて、思わなかったんだ・・・。まさか死ぬなんて・・・」
そいつは事故の日からずっとそのことを後悔してたらしい。
それは他の仲間も同じだって。
学校に行くことも出来なくなって、家でずっと布団に包まってったって。
何回も夢に見て、眠ることも怖くなってたって。
それで今日、ここに来たんだって。
「この川、なんだね。」
(そう。その橋の上で事故にあって、この川に落ちてそのまま流されたの。アヤネは私より怪我が少なくて済んだけど私を助けようとして結局・・・)
サヤカも姿を元の姿に変えた。
そしてアヤネの方へ走っていった。
オレの目の前で仲良さそうに二匹の仔猫が身体を摺り寄せてる。
白い猫がサヤカ。
黒い猫がアヤネだ。
「ゴメン。ホントに。もう二度としないって約束する。」
男の子はもう地面に額を擦り付けて謝ってる。
ツバキがその子を引きずるように立たせて胸倉を掴み、思いっきりビンタした。
他のみんながぽかーんとなってみてた。
「アヤネやサヤカはもうアンタを殴れないから。代わりにね。それと私が怒ってるのもあるから。」
「もう二度としないで。」
「約束出来るよね?」
3人が詰め寄るのに男の子は涙を滲ませながら頷いた。
「アンタも殴っとく?」
ツバキが怖いことを言ってる。
オレは黙って首を横に振った。
「オレの分も、さっきの一発に入れといて。」
そう言ってオレはまたアヤネに向き合った。
「アヤネ、ありがとう。」
(まっ、まだホントに人間を許したわけじゃないのよ。)
「うん。分かってる。そんな簡単じゃない。」
そう、そんな簡単じゃない。
みんなであれだけ悩んで、考えて、それでも方法なんて分からなかった。
それだけ難しい問題なんだってオレも思う。
だからあんな一瞬で終わるようなことじゃない。
「でももし、少しでもオレ達を気に入ってくれたならさ、オレたち、友達になれないかな。」
ツバキ達も笑ってる。
アヤネはサヤカを見た。
サヤカは笑って頷いてる。
アヤネは少し考えてため息をついた。
(・・・しょーがないわね、考えておくわ。次までに。)
「次?」
(タイムリミット・・・なの。)
サヤカが少し寂しそうに笑った。
(お互いに力を使いすぎてるしね。)
アヤネも同じような顔で笑ってる。
「それって・・・」
「成仏するってこと?」
(人間の世界ではそう言うの?)
(迎えの車が来たってことよ。)
こうして向き合ってみるとアヤネはかなり勝気で元気な女の子みたいだ。
2人(二匹?)の姿が真っ白い光に包まれた。
(じゃあね)
(またね)
迎えの車とやらがどこにいるのか分からないけど、そうやって女の子達は俺達の前から姿を消した。




