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こんな夢を観た

こんな夢を観た「高架橋の向こうを目指して」

作者: 夢野彼方
掲載日:2014/08/11

 高架橋のすぐ下の遊歩道を、わたしはずっと歩いている。

 橋桁と橋桁の間はコンクリートでふさがれ、反対側へ渡れないようになっていた。

 わたしは、どうにかして向こう側へ行きたかった。どんな町並みが広がっているのだろう。どういった人たちが暮らしているのだろう。その全てを知りたいと願った。


 高架橋に貼り付くようにして、赤い屋根の保育園が建っている。どうも見覚えがあると思ったら、子供の頃に通っていた園だった。

 通用口から職員の1人が現れる。黒縁眼鏡を掛けた、保母さんだ。

「あら、むぅにぃちゃん」わたしに気づいて、ニコッと笑いかける。

「前川先生、お久しぶりです」わたしも軽く頭を下げた。「この高架橋は、いったいどこまで続くんでしょうか?」

「あなた、まだ向こう側へ行くことをあきらめてなかったの? 昔っから強情だったわよねぇ」前川先生はため息をつく。

「だって、どうしても行ってみたいんです。もしかしたら、あっちの方が面白いことがいっぱい、あるかもしれないじゃないですか」

「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。ごめんなさい、わたしにはわからないわ」

「そうですか。もっと先へ行ってみます。では、失礼します」

 わたしは遊歩道に戻った。


 途中、ベンチに掛けて休んでいる男に出会う。

「あのう、前にどこかでお目に掛かりませんでしたっけ?」わたしが尋ねると、相手はギクッとして目をそらす。「どうかなさいました?」

 観念したように、おそるおそる顔をこちらへ向けて言った。

「あっしは、あんたがまだ10かそこいらの時に、あんたんとこのうちへ盗みにへえった事があるんでさ。あんたも、あんたの親御さんもすやすや寝てたから、知るわけがありませんがね」

 わたしは男の目をまじまじと見つめ返す。確かに、泥棒に入られたことは覚えている。あれは、小学4年の夏だった。その時の泥棒がこの男なのか。

「もう、過ぎたことです。盗んだ物と引き替えに、あなただって、心の痛みをそこに置いてきたじゃないですか。それでおあいこということにしませんか?」

 元泥棒は、袖で鼻をぐしっと拭った。

「ありがてえお話です。あっしなんか、引き倒されても、蹴られても文句は言えねえってのに……」

「先を急ぎますので、これで」

 わたしは歩きだした。


 鉛色のコンクリートは、いっかな途切れることがない。せめて、階段でもあって、乗り越えて行ければいいのだけれど。

 そう言えば、この上を走っているのは新幹線だろうか、それとも高速道路なのだろうか。

 遙か頭上に耳を傾けてみるものの、 物音1つ聞こえてはこない。

 

 後ろから、自転車が走ってきた。振り返ると、郵便配達員がわたしのそばまで来て停まる。

「むぅにぃ様ですね?」と郵便配達員。

「はい、そうですが」

「お届け物です」そう言って、封筒を差し出す。

「ご苦労様です」受け取った封筒を、その場で開けてみた。手紙が1通、入っている。広げると、ピンク色のアサガオの押し花がはらりと落ちた。

 アサガオを拾い、そばのキノコ型のイスに座って、手紙を読む。


 〔君がこれを読んでいるということは、まだ「向こう側」へはたどり着いていない、ということだよね? 焦ることはないさ。信じるものがあるんだったら、そのまま行けばいい。そういうもんなんだよ、人生って〕


 差出人の名前を見て、思わず懐かしさが込み上げてきた。中学2年の春に転校してきて、その年の夏休み中に引っ越していった友人だった。

 ほんの短い間だったが、たくさんのことを話し、数えきれないほどの思い出を作った。

 花が開いたら押し花を作ろうね、と約束したアサガオのこと、まだ覚えていてくれたんだなぁ。


 実は、向こう側へ行くことを半ば、あきらめかけていた。この高架橋は、永遠に続いているのではないか、そう思えてきたからだった。

 けれど、手紙を読んで、また元気を取り戻すことができた。世界がどんなに広くとも、歩ける限りは進んでやろう。

 

 わたしは立ち上がり、ポケットに手紙を押し込んだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] やはり夢でも、全てが自由に行くわけではない、私は良く明晰夢を見ます。あっこれは夢だとわかるんですね。 そうすると夢の中で自由に動けるようになるのです。ただ弱点は眠りが浅くなる事と、夢だと気…
2014/11/20 07:02 退会済み
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