そして私は離婚する
こんな修羅場、まさか自分が体験するとは思わなかった。
実感がなくて逆に冷静になれる。
(養育費払うってことは…誠を引き取りたいとはちっとも思ってないの。誠だって、あなたの子なのに。)
ふと、手にはまる結婚指輪が目に入る。お互い仕事が落ち着いてきてやっと結婚が決まった時、買ってもらった指輪だ。
土下座中の夫の指を見れば、指輪ははまってなかった。
まあ、当たり前か。浮気相手と会うのに付けっぱなしにはしないか。
そんな風に考えたとき、まるで胸の中に氷を埋め込んだような感覚に襲われる。
私の夫への思いが完全に消え去った瞬間だった。
「分かりました。」
「美由紀っ!」
夫が喜びに満ちた目で顔を上げる。
「ただし!条件があります。」
そういえば、眉を寄せる夫。浮気相手に至っては睨んでくる始末だ。
「そうだよな…。条件はなんだ?」
おいおい、そんなに露骨に嫌そうにしないでよ。何かしらぺナルティーがつくことくらい予想してたでしょう?
「一つ、誠の養育費ともちろん慰謝料は払ってもらうから。二つ、誠とは会うなら誠が高校生になってから。三つ、離婚したら私達ここを引っ越すからその代金を払って。四つ、私の前で絶対にそこの彼女の名前を呼ばない、私に教えないこと。五つ、誠はあなたの両親のところには行かないから。六つ、離婚したことは貴方だけでご自分の両親に言ってね。…以上よ。どう、飲める?」
四つめはささやかな自己満足に近い。
今後彼女と接点は間違っても持ちたくないし、名前も知りたくない。
幸い顔を覚えるのは苦手な方なので1・2週間もすれば忘れるだろう。
「……わかった。さ、いや、君もいいかい?」
「ええ。しかたないわね。」
さも私が我儘を言った風にため息をつくのはやめていただきたい。空気が汚れる。
さすがに離婚話が成立した手前この家にいられないようで、夫たちはは話が終わると出て行った。きっと彼女の家にでも止まるのだろう。
不思議と気分はさっぱりしている。涙は出てこない。
無性に息子の顔が見たくなって、寝ている顔をのぞきに行く。
布団からはみ出る足をしまい、頭を撫でた。
誠、お母さんは頑張るよ。
後日、手続きやもろもろは順調に進み私は無事離婚した。




