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クレーター

作者: 淡水

2016/10/02 

この日、一人の青年に訪れた「世界を変える方法」

それを実践する日となったのだ。


第一話:見たもの


俺の名前は藤田啓太。公立高校の2年生である。時は2015年の10月1日。

「あー・・・学校祭めんどうだな・・・。」

「去年、熱で休んだからな・・・よく分からん。」

今日は初めての学校祭。しかし、朝はいつもの時間。故に何も変わらない登校となるわけだ。

お決まりなのは時間だけではなく、音楽もだった。

スリーピースのおしとやかなロックバンド。シンセサイザーはまるで80年代のアコースティックの様な音。

距離にして30キロ。時間では40分。

俺は駅についていた。

この時、アルバム一枚さえ聞けなかったことには多少の苛立ちもあった。

ここからはバスに乗って学校。それさえも変わらず流れた。


そうして、俺はいつの間にか流されついて体育館で体育座りをして開会式を待つ形となった。

「くっ。お前、前髪おかしいぞ。」

「う、うるさい。」

俺は直ぐに前髪をクシャクシャにする。

開会式が終わる・・・と同時に走り出す生徒達。俺はその状況を見守るしかなかった。

後から別の男が「行かないのか?」と声をかけてきて俺も後をゆっくり着いていく。


そこで始まった有志によるバンド。


そういえば、学校じゃ何人かの生徒がギターを持っており別の生徒達が「青木くん。がんばって!」などという声も聞こえた。

始まった曲はMP3としては持っていないが聞いたことがあるという様なロックの曲たち。

一言で言えば「モンスターバンド」の「コピーバンド」だ。

俺はただ聞いた。上手い下手なんて関係無い。純粋にかっこいい。これを自分と同年代。あるいは一つ年上。あるいは年下が奏でている。

一緒のようで違う。同じ生活をしていても違う。


はっきりと確信した。


それまでにもバンドをやるという小さな夢、願望は心の頭の片隅、奥底で燻っていた。

だからこそ何かが突き動いた瞬間でもあった。


それ以降のことは頭に入っていない。覚えていることは要所要所程度だ。

3年生の舞台発表。教室でゲームしたり、吹奏楽の公演を聴いたり。

だが、それでも小さな火は燃えている。消えるのか?消えないのか?そんな瀬戸際だ。


翌日のクラスの仕事も身に入らなかった。好きな子との会話程度だ。

それも友達一緒。


俺はその日の夜、冷静に考えてみた。俺は楽器なんて出来ない。

授業で強制されたもの。家にあるの親父のアコースティックギターのみ。だが、それでもやってみたい。

だが、人なんていない。俺が来年の学校祭までに最低でも4曲程度を完全に完成させる。

それは俺の始めて持ったともいえる夢だった。

しない選択は無かった。俺は今まで興味あることはやり続けた。

だからこそ・・・やってみたい火はこの日一番の大きさを密かに記録していた。


俺は楽器が出来ないのはご理解いただけただろう。だが、そこで敢えてバンドを組む。

これは難しいことこの上無かった。当たり前だが・・・。

だから、最初の一ヶ月は仲間集めとギターの練習に当てることにした。

しかし、俺が今から集めるのはたった二人。その二人もきっと素人に違いない。

そうして、俺の小さくとも大きさを感じる夢の挑戦は本当に小さく幕を開けたのだ。


第二話:素人べーシスト

「よーっす。」

俺が電車に乗るといつもの男が腰掛けていた。

お決まりのゲームだ。俺は話しかけるのに躊躇する。

「なぁ。聞いてほしい曲がある。」

話し相手は田中正平。田中はゲームに接続されたイヤホンをはずす。

そして、俺の手渡した反対のイヤホンをつける。


「ふーん。良い曲だな。」

田中は割りと音楽を聴く。一曲を聴き終わるとイヤホンをはずす。

「・・・・なぁ、昨日のバンド。良かったよな。」

「ん?おう。すごかったな。最後の三年のとか!」

ほらな。この通り熱くなる。


『○○駅~○○駅~』


話を続けようとしたところで電車は到着をする。

「お。降りようぜ!」


□■

4時ごろ。俺は部活へと足を運んでいた。

学校祭が終わる前からそうだが、終わってからは3年の空気が非常に重い。

俺も一年後きっとそうなんだろうと考える。


部活は試合前。テニスの試合は一週間を切っている。

顧問の練習にも熱が入っている。


結局、その日に俺は田中を誘い入れることは出来なかった。


俺は家でかえるの音を必死に奏でた。TAB譜とにらめっこ。


翌日もその翌日も。暫くして。

試合を挟んでその翌日も・・・。

その間も俺は必死にらしいことで誘おうとした。本当に事あるごとに・・・。

だが、いつも神のタイミングで何かに邪魔され続けた。


一週間たったかたたないか。

俺は「バンドやってみたいね。」なんて。本当に簡単に伝えた。

「いいね。」

彼はそういった。


「ベース・・・いないんだろ?」


そうとも言った。ついでに前から気づいてはいた。

そんなことも・・・。

「へ?」

俺からはそんな言葉しか出なかった。

「やらないのか?」

「や、やる・・・。」

「でも、いいの?俺、ベースどころか楽器すら無理だぞ?」

「俺もさ。」

試合も終わって気抜けた生活で訪れた新たな刺激。


第三話:ギターとベース

ティロリティロリ・・・。音が部屋に響く。

ボンボボン。今度は別の小さな音。

「やっと買ったな・・・。」

ドラムを迎えないまま俺達のバンド計画は10月後半を迎えようとしていた。

だが、ギターとベースをそれぞれ手に入れた途端、俺達の生活も一変した。

生活が大きく変わったのだ。それが安く初心者用にしても。

毎日、各人が各人の家で土日は一日中。指が磨り減るほどに練習し続けた。


そんな中、俺たちがバンドをしているという噂がバンドをやっている者同士の中で広まりだした。

自然と俺達の前に現れた加藤俊。勿論、そいつがドラムというわけだ。

加藤はドラムの経験者ということもあって、俺達の統制は簡単につけられた。



そして、11月。

その月。俺達はあることを決めた。

「バンド名とかセットリストとか、どーすんの?」

「ん?あーそうだな。セットリストは決めてある。それに演出をもっとつけたいんだ。」

「バンド名・・・。クレーターなんてどうだ?」

田中がそんなことを呟いた。

「カッコはいいような?」

俺もそう呟き、加藤もよく似たことを言う。

「じゃーそれでいいのか?」

「セットリストは全部同じアーティストだよな?」

「あぁ。」

俺は紙に書いたセットリストの一覧を見せた。

「あー全部タイアップ経験のあるシングルね。」

「何より弾きがいのありそうな曲が良くてな。」

「よし、最初はこの「スターライド」からやるんだな?」

皆が一斉に楽しみ膨らんだ表情となった。俺も勿論その一人である。


第四話:クレーター


12月。最初のスターライドが完成した。

最初こそぎこちないものの俺達は必死に練習をする。

のめり込んだおかげで一気に上手くなった。けじめをつけだす様になってからは勉強で悩むことも無くなった。

唯一心残りなのは相変わらず好きな子には何も出来ないことぐらい。

もっと言うならば、少し広まった程度だったおかげで俺達クレーターがバンドをやってることは誰も知らない。

これは演出に大きく関わってくるものがあった。

俺はその間限られた予算も含めて必死に演出の構想を練り上げた。

月一程度で俺達は目標のセットリストを5月頃には終えていた。

ここからは必死に練習を重ね、勉強に追われてはまた演出に追われることも多かった。

幸いにも部活の引退がその頃にあって俺の肩の荷も少し減った。

「パソコンは何台でも使おう。折角ならアンプ以外にもスピーカーを足して音を楽しんでもらおう。」

「そうするか!」

パソコンを自作だとか上手く扱うのに長けていた俺はそういう面で楽が出来た。

足りない音の補正や修正。その間も練習を必死にした。始める前ぷにぷにだった指は今ではカチカチ。

セットリストは全部で5曲。30分以内に収める予定だ。

最初の登場はインスト曲。DTMと言ってパソコンに音を打ち込みそれを流すだけの感じ。

ライトなどは先生に頭を下げて使わせてもらうように頼んだ。

2.スターライド。3.ワールドアンダー。4.まごころを君に。5.再会の奇跡。は全て楽器。

DTMの準備も終わり、演出のみの設定が困難だった。


夏休みは勉強とバンドに追われた。

さらに嬉しいことに志望大学には95%で受かると模試で書かれた。これも安心したことの一つだ。


2016/09/01

「何で、今日から学校なんだよ~。」

「いいじゃん。学校祭始まるんだから。」「今年で最後か~。」

学校が始まった今日の教室にはやる気の無い人間と学校祭のために維持したテンションが立ち込めていた。

俺はまたそこでいつもどおりの生活をするふりをした。

今年は違う。何もかもな。

「有志バンドをする方はこの後舞台説明を・・・。」

という担任の言葉に思わず心で笑ってしまう。

さらに今年の出店もバンドと被ることは無い。目的の一つに好きな子がどうたらがあるのはここだけの話である。


「全員集まりましたね。」

舞台担当の先生が顔を見ていった。生憎にもバンドをやってる生徒同士にはクレーターの存在は密かにささやかれていた。

今年初めて出演のバンドなんて精々一年生程度だったのもあった。

「お前ら出るんだな。」

吹奏楽部の一人が俺に話しかけてきた。

「あぁ。」

「まぁ、お互いがんばろうぜ。な。」

「あぁ。勝ち負けなんて無いわけだ。皆実力出してやるべきだ。」

終わってからはクラスのことも手伝った。


日だけが過ぎた。


第五話:本番


2016/10/02

「重い・・・。」

日曜日にシンセサイザーを運んで。今日は普通にギターを・・・。さらにそれまでにもノートパソコンを少々。

先生もシンセサイザーが最後とえらく怒っていた。

「え?藤田。バンドやるん?」

俺は教室に入って早々にそういわれた。どうも準備のために少し生徒が早く来ていたらしい。

皆の注目を一斉にいただく。

「ま、まぁ。」

笑ってごまかす。


「藤田くん。がんばって。」「藤田。見に行くからな。」

挙句には拡声器で拡散もされた。


□■

「着てるな・・・。」

田中が扉から顔を覗かせる。この日のために俺はわざわざチームクレーターを結成。照明班。音源班。準備班。

全てをそろえた。

スピーカーは既に配置済み。

一年前。俺はあそこでああやって舞台を見てた・・・とふけった。

どんどん演奏が行われる。何故か俺達は大トリ。



そして、来る。時間が・・・。



□■


第六話:星巡り


舞台の真ん中に今まで誰も使用しなかったスクリーンの姿。

前のバンドが終わると同時に真ん中に写真が映る。そして、あらかじめ録音していたギター・シンセサイザー・ベースの音が適当に流れた。

それが合図だ。

「よし。チームクレーター。今日限りでしょうけど。がんばりましょう!」

「「「「「おう!!!」」」」」

円陣が深くなる。


ブゥゥゥゥン・・・。電気が消えて・・・。

映像が変わる。


足元だけが映る男がパソコンに電源を入れる。

するとOSを起動させるバイオスが文字を流す。

チチ・・・チチチチ・・・チチチ・・・。音が流れる。


スクリーンに0が並び始める。全て並んだところで0が下に落ちる。

すると幾つかの文字が今回のライブタイトル、HOSHI MEGURIと文字を浮かばせる。


01.クレーター


インスト曲。皆の唖然とした表情。

―こいつらは何だ・・・?


それが目に見えて分かった。

今までテンプレで一度は聞いたことのあるであろう名前のバンドの曲にリズムを乗せて聞く。

だが、俺達は違う。スリーピースと限界。そして、カバーする演出。それが何かリスナーの全身におぞましいものを与えている。

そう信じ、感じようとした。


02.スターライド

クレーターとは異なりかなり恋愛向きの曲。しかし、とてもバンドとは思えない様な音の出し方。

補正に入れたピアノがさらに際立てた。


その後も曲は続く。

沿って演出は続く。俺は歌う。

人々はその音たちに・・・全身の内臓にも届きそうな音に慣れる。

その身にリズムが宿る。


音は人を呼ぶ。その度に人々は凌駕の面を見せてそして何かを感じる。




これがクレーターの音だ・・・・・・。




その俺の勝手な考えが一心に伝わる。

それは決して今まで俺達というバンドを知らなかったものだけではない。

どんな人ですら驚いた。


そうして25分の演奏は終わった・・・。



溢れる喝采の直後に求むアンコール。

俺達はそれさえも歌いきった。大トリにしての役目を終えた瞬間でもあった。

決して激しい音ではない。ロックとはかけはなれた常識外れの音。そうシンセサイザーの音一つ取っても80年代のアコースティックギターの音。

俺はその内の一曲を親父のアコースティックギターで歌いきった。

何か宿ったそれで・・・。


クレーターはその日から無期限の活動休止をしてしまう。

まぁ、当然でもあるのだが。

それでも俺のその夢は叶ったのだ。緊張も半ばだったが。


結局受験に押されて好きな子へどうのこうのではなかった。様にも見えた。


2017/03/31

「好きです・・・・・・。」


□■

あとがき。小さな短編小説です。もっとこういろいろと葛藤だとかあってよ!みたいなのはありますよねw。

これはノンフィクションです。私自身の経験ではありませんが・・・。


実は私はこのバンドのチーム音響班に所属していました。主人公のモデルは現在大学生です。

このときは本当に驚きました。やっぱりバンプとかRADとかのモンスターバンドが主流になるんですよ。

そんな中にモデルの「メレンゲ」というスリーピースバンドをコピーしてきたのがクレーターのモデルバンドです。

メレンゲさんのことは私自身も勿論知ってましたのでおかげでしっかりと協力させていただきました!この時は楽しかったです。

因みに拡声器による拡散も事実ですw。


では。アルティック:ファクターの連載がんばります!

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