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第5話〜レアードの災厄、再び〜前編

 今週も再びやってきた週末の土曜日。

 学校がない日はドクターの特訓も休みになるから実質、三連休ということになる。

 もちろん、それでは修行の意味がないので休日の日はギルバートに主に本格的な戦闘の手ほどきを受けている。そのおかげで、実戦における判断力とかも少しずつ向上していると思う。グラッツ先生達の試験を受ける以前に比べて格段に動きはよくなっているはずだ。

「行くぞ、セシル!この銃弾の嵐を切り抜けてみろ!」

男子寮から少し離れた林の中で僕とギルバートの一対一の特訓が続いている。

「サンダーチェイン!」

 すっかりお馴染み、僕が得意とする雷の魔法だ。今回は弾数が多いときによく使う鎖の形だ。

 鎖の攻撃というと直線的なイメージがあるが、これは魔力の操作一つでしなやかに曲がる。

 バチバチと音を立てながらギルバートの撃った銃弾を逆に撃ち落とした。

「珍しいな、鎖の形か。初めて使うのではないか?」

「いや、そんなことはないよ。今までも乱戦になったときとか、君が勝手にずんずん前に出てしまったときの後処理に使っているよ」

「むぅ、若干耳が痛いことをサラリと言いおって…」

 ギルバートは気まずそうに頭を掻きながら「それにしても」と続けた。反省の欠片はまるでないね。

「普段、貴様やマリノ達と戦っているだけに初級魔術士の魔法実技の授業が実に退屈でしょうがないのだが…」

 おっと、久々に出た。

 最近はあまり愚痴をこぼさなくなったと思っていたのに。

「わからないではないよ。だけど、初級、中級クラスで基礎を固めることは大事なことだよ」

「しかし、お前は確か中級クラスは飛び級したのであろう?それは技術だけでも乗り切れるといういい証拠ではないか」

「その通りさ。だから今こんなに苦労しているんじゃないか」

 僕は親指で自分の胸を指した。

「確かにギルバートは僕達、上級クラス以上と一緒に戦っているから、形についてはだいぶやり方を飲み込んでいるかもしれない。だけど、技術だけじゃ賢者にはなれないよ」

「…別に我輩は賢者になろうとは思わないのだがな。戦闘で使える技術が見つかればそれでいい」

「そういえば、ギルバートはどうしてこの学校に編入してきたんだい?いろいろ事件があったからずっと聞いていなかったけど」

「言ってなかったか?戦士養成学校からの命令で…」

「それは聞いたよ。そうじゃなくて、どういう命令を受けたんだろうなと思って」

「………」

 僕の質問にギルバートは難しい顔をする。何だか、考えているというより怒っているという感じに見えるけど、別に彼を怒らせるようなことはしていないよな?

「もしかして、嫌なことだったら話さなくてもいいよ」

 僕は場の気まずさを感じて、そう付け加えた。

 誰にだって、嫌な過去の一つや二つあるだろう。それを根掘り葉掘り聞くことはあまりに無神経だ。

「………」

 ギルバートはまだ難しい顔をしている。

「ギルバート、無理しないでいいってば」

 僕がそう言っても、ギルバートは低い声で唸ったまま表情を変えない。

「……実は」

 少し経って、彼はようやく普段の顔に戻り、そして申し訳なさそうにつぶやいた。

「実は、命令の細かい内容については我輩もよく聞かされていないのだ」

 衝撃の事実だった。

 まさか彼自身も内容をよく知らなかっただなんて。

「我輩はただ、我輩の担当教官殿にここに行くようにと命令されただけなんだ。その時も教官殿は細かい詳細などは一切おっしゃらなかった」

「そうだったんだ。でも、何も聞かされていなかったのによく命令に従う気になるね」

「教官殿は我輩にとって理想だからな。あの方がここに行けと言うのなら黙って従うさ。それに…」

「それに?」

「少なくとも教官殿は意味のない命令をする人ではなかった。必ず、最後には我々養成学校の生徒達に何かを掴ませてくれた」

「ふ〜ん…」

 もし、ギルバートのいう教官の人物像が正しかったなら、教官はどうしてファトシュレーンを選んだのだろうか。

 確かに魔法学校の中では実力主義といわれてはいるが、それだけで今まで魔法を知らなかった者を送り出すものなのだろうか。

「わからないなぁ…」

 渋い顔をして唸る僕の肩をギルバートは笑って叩いた。

「そう唸るなセシルよ。確かに我輩は内容もよく知らぬ命でここに来たが、今はすっかり落ち着いているではないか。クラスに慣れるにはもうしばらく時間が必要だがな」

 ギルバートは豪快に笑いながらバシバシと僕の肩を叩くと、そのまま林の中に紛れて去っていった。

 まぁ、本人が気にしていないのならそれでいいか。




 土曜の昼下がり。

 僕は特にすることなく自室で賢者認定試験対策の問題集を解いていた。

(こことそことこっちは合ってる…と)

 大魔導士になってから何度もやっている問題集のうちの一冊。復習も何十回したかわからないから、ほとんどわからない問題はなかった。

(やっぱり、同じ問題を反復したら正解率が上がるのは当然だよなぁ。新しい問題集がほしいけど、賢者用の試験対策問題集はボリュームがあるから高いんだよなぁ)

 といってもバイトを二つ掛け持ちしている僕には問題もない値段なのも事実である。

(しょうがないよ、こればかりは)

 いくら早く賢者になれても、家族の今の生活を潰してしまうわけにはいかなかった。少し前に母親から何とかパートで生計を立てているという話は手紙で知ったが、それでも育ち盛りの妹がいるし、彼女の学校のこともある。やっぱり僕が支援をしなければ一日食べるのも苦労するだろう。

 僕は問題集用のノートの上に赤ペンを転がした。

 点数は九十八点。

 何度もやった問題なのだから百点を取れないとおかしいはずなんだけど、意外とそうはいかないのが人間の記憶の不思議なところだ。必ず、どこか一問はケアレスミスをしてしまう。

「ふぅ…」

 ため息をつきながら机の背もたれにだらしなくもたれかかる。

 窓から見える太陽はまだ高い位置にある。

 今日も熱い一日だ。

 もうすぐ、また夏がやってくる。

暑い夏が……。



 ドゴォーン!!

 思わず背もたれから落ちそうになるような大爆発が街のほうから聞こえた。

「な、何だ!?」

 僕は窓から状況を確認しようとするが、ここからだと林に阻まれて街から昇る黒煙しか見えない。

 僕は部屋から出ると、そのまま寮の外へ、街へ向かって走った。

 既にファトシュレーン内でもいくつかの戦闘が起きていて、生徒達が懸命に戦っている。

「セシル!」

「セシル君!」

 僕と反対側から走ってきたのはマリノちゃんとリプルちゃんだ。

「よかった。二人とも、無事だったんだね」

「うん!」

「あったり前でしょ!それより、何があったの?街で急に爆発が…」

 ドゴォォ!

 僕達の会話を遮るように再び大きな爆発音。

「こりゃ、実際に見に行くほうが早そうだ」

 僕の一言にマリノちゃんトリプルちゃんは小さく頷いた。

「ところでギルちゃんは?」

「わからない。僕が寮を出て行った時にはもう姿が見えなくて…」

「大丈夫だよリプルちゃん。あたしらの中で一番頑丈なあいつがやられるわけないでしょ?」

「う、うん。そうだよね!」

 リプルちゃんは走りながらほんの一瞬だけ微笑んだ。

「そういえばノエルちゃんはどうしたの?今日は一緒じゃないのかい?」

「あの子、今日は一日お店の手伝いをするって言ってたから遊ぶ約束とかはしてなかったよ」

「じゃ、まずはノエルちゃんのお店に向かおう。路地裏だから襲撃されたら逃げ場がない!」

『了解!』

 僕達は戦場と化したレアードの街を走りぬけ、ノエルちゃんの店がある裏路地に向かった。幸い、裏路地はどこも手がつけられておらずノエルちゃんの家も無事だった。

「貴方達は確か、ノエルのお友達の…」

 店に入ってすぐに出てきたのはノエルちゃんのお母さんだった。

「お母さんは無事だったんですね!」

「ええ、貴方達も。それより早く教会に向かってちょうだい。ノエルはそこに向かったわ」

『わかりました!』

 僕達はノエルちゃんのお母さんに頭を下げると、ノエルちゃんがいるという教会へと向かった。あそこには子供達もいるし、この間みたいに被害がないことを祈るばかりだ。


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