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最終話〜新たなる活路〜後編

 早朝、僕の元に一件の念話が届いた。

『皆のもの、早朝特訓はワシの事情で中止とする』

 ドクターエックスの声で、特訓の中止連絡だった。

(困ったなぁ…)

 僕は窓から朝日を見ながら頭を掻いた。実はもう一時間も前から起きていて、いまさらベッドに入っても眠くならないのだ。とはいうものの、朝食まではあと一時間以上ある。

(少し掲示板でも見に行くか)

 こんな朝早くから更新はされていないだろうと思いつつも、やることがないので僕は寮の階段を下りて掲示板を見に向かった。

 まだ朝も早いし掲示板には誰もいないだろうと思っていたのだが、いざ来てみると少し人だかりができていた。

 いつものこの時間は掲示板なんて見に来ている生徒はほとんどいないのに珍しいこともあるものだ。

 そんなに貴重な掲示でもしてあるのかと思いながら、僕も掲示板をのぞいてみる。

「!!」

 掲示板の中央にはでかでかと魔法文字で『明日より、学校再開!』と書かれていた。

「あ、セシル!」

 僕を後ろから呼ぶのはマリノちゃんとノエルちゃんだった。ノエルちゃん、もしかして今日もマリノちゃんの部屋に泊まっていたのかな。

「見たんだ、その掲示」

「驚いたね。明日から学校再開だなんて。確かに例年通りだったら今日からテスト一週間前に入るけど…」

 ノエルちゃんの言葉で思い出す。そういえば、来週からはテスト期間になるのだ。

「いいよねぇ、セシルは。大魔導士の昇級試験は……」

 マリノちゃんは言いかけてハッと口を押さえる。

「いいんだよ。多分、次の昇級試験も見送る羽目になりそうだし…」

 僕は特に気にすることなく笑った。

 大魔導士から賢者への認定試験は毎年二回、この地方では聖王都バレルで行われる。しかし、僕はその第一回目の六月の試験をパスしていたのだ。半分は魔獣達の侵攻のことが気になっていたというのもあるが、そもそも僕は賢者に昇格するためのもう一つの資格である高等魔術の習得をクリアしていないからバレルに行っても仕方ないのだが。

「それよりマリノちゃんは大丈夫なの?ノエルちゃんはともかくとして」

「なぁによ、その『ノエルちゃんはともかく』てぇのは」

「だって、いつも勢いはいいんだけど、消沈するのが早いんだもの」

「う、うるさいわねぇ!今回は本気なんだからね!見てなさいよ、飛び級のアンタなんかに負けないんだからね!」

 一人、勝手に燃え上がるマリノちゃん。

 ほんと、この勢いがテストの日まで続けば問題ないんだけどなぁ。




「そっか、いよいよ学校が再開か…」

 その日の昼下がり、僕はいつものメンバーとすっかり修復された談話教室の一角で学校再会の話をしていた。

「まぁ、校内テストがない俺たちにはあまり関係がないけどな」

「ウェスリー、他人事みたいに軽く片付けないでよ」

 そう言うマリノちゃんの手には今朝の段階では見られなかった参考書が握られていた。

「くそぅ、ダイゴ殿め。あやつはこのことを知っていたから我輩の賭けに考えなしに乗ったのか…」

 つまり、そういうことなんだろうな。普通だったら、絶対そんな賭けにのる人なんていない。

「リプルちゃんはテスト大丈夫?」

「う〜ん、自信はないけど頑張るよ!」

 リプルちゃんはいつでも健気で元気いっぱいだ。

「やぁ、そこにいたのか」

「こんにちは皆さん」

 僕達のテーブルにやってきたのは寮長さんとラウナちゃんだ。

「ここ、いいかい?」

「はい、どうぞ」

 ノエルちゃんは小さく頷き席をつめる。

「学校再開……君たちはどう思う?」

「どうって…ねぇ?」

 昨日のことを知らないマリノちゃんとノエルちゃんは質問の意味がわからず首を傾げる。

「多分、先生達も苦渋の選択だったとは思います」

 少し考え、言った。

「それはわかっているが、今この段階でまた奴らに攻め込まれたらどうする気なんだ?それこそ、テストどころではなくなる。街そのものが危うくなるぞ」

「先生達がどういう話し合いを経て、学校再開を決定したのかはわかりません。ですが、今のところはまだ大丈夫だと思います」

「そんな楽観的な。セシルさんとリプルちゃんは昨日、例の外道魔術士達と対立したんでしょう?どうして先生達に意義を申し立てに行かなかったんですか?」

「いくら君達が生徒という立場だとしても関わってしまったのだから、先生達も意見を聞く耳くらいはもっていたはずだぞ?」

「そうかもしれない。でも、意見をしたところで絶対に跳ね返してくると思うの」

「どうしてそう思う?」

「昨夜、外道魔術師を捕まえたときのドクターエックスの顔、あれは明らかに何かを知っていた顔でした。彼らをすぐファトシュレーンの生徒だと断定していましたし」

「!?」

「ファトシュレーンの卒業生だったのか!?」

「僕の勘ではそうだと思います。ドクターエックスもあの二人のデータを割り出すと言っていましたから」

「何てことだ…。ファトシュレーンは優秀な生徒ばかりじゃなかったのか?卒業生は皆、偉大な賢者だと聞いて入学したのに…」

「そんな学校など、誰も興味を持たないよ」

 新たにやってきたのはグラッツ先生だ。

「どんなきれいな学校にも汚い部分はあるものさ。ファトシュレーンもまた例外ではなかった」

「グラッツ先生……貴方もその一人だったというじゃありませんか?」

『!?』

 寮長さんの怒りを含んだ声に僕たち全員が驚愕する。

「今はその話はいいだろう。その話がしたければ個人的に部屋に来な、アキト」

「………」

「それより学校再開についてだが、あまり細かいことは気にせず、いつもどおりに過ごすようにしてくれ」

「グラッツ先生、あの二人の身元はわかったんですか?」

「いや、まだだ。何しろ卒業生全てのデータをひっくり返している最中だからな。もうしばらく時間がかかりそうだ」

「そうですか…」

「そんな辛気臭い顔するなよ。お前たちは今までどおり学校生活を楽しんでくれたらそれでいい」

 グラッツ先生はそう言ってニヤリと笑った。

「それにな、もう少ししたら頼もしい援軍がこの街にやってきてくれるだろう」

『援軍!?』

 驚く僕たちにグラッツ先生は自信満々に頷いた。

「ああ!さぁ、いよいよ本番だ。あの二人組のデータを割り出して、敵の懐を一気に叩いてやるぜ!」

 やけに自信満々のグラッツ先生だが、いったいどんな援軍を頼んでいるというのだろう。

今後僕達にどのような波乱が待ち受けているのだろう。

 マリノちゃんたちのテストはどうなってしまうのだろう。

 ゆっくりと動いていた時計の針が、急激に速度を上げて動こうとしていた。


                                 〈END〉


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