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第7話〜ドキドキ。初めてのお迎え〜後編

 エリスさんとの無言の戦闘を終え、レアードの入り口付近で作業をしている先生達に断りをいれてから僕達はサントロ街道を南下して馬車の停留所を目指す。と言っても、そんなに距離はないから往復で小一時間ほどの短い冒険だ。

「セシル君、時間は大丈夫なの?」

 歩きながらノエルちゃんが尋ねる。

 僕は持っていた懐中時計を見たが、待ち合わせの時間にはまだ間に合う時間である。

「おぉーい、お前らー!」

「あれ、フレッドお兄ちゃん?」

 一番に気づいたリプルちゃんが後ろから走ってくる陰を指差して言う。

「本当だ。おーい!」

 マリノちゃんは走ってくるフレッドさんに向けて手を振った。フレッドさんは僕達に追いつくと、息を吐きながら僕にメモを手渡した。そのメモにはロバート先生の字で『セシル君、申し訳ない。新任の先生が来るのは南側ではなく、北側の停留所らしい。もう出発しているとは思うが、急いで北側に向かってください!』と書かれていた。

「えぇー!」

「何それー!」

「そんなぁー!」

 僕達は思わず絶叫してしまう。いくら時間に余裕があるといっても今からきたの停留所に行くなんて遠すぎるよ。

「何かの手違いがあったみたいなんだ。とにかく急いでいくようにとのことだ」

「わかりました!」

「わかりましたってお前、今からじゃどう考えたって間にあわねぇぜ!」

「風の魔法で追い風を作りながら走れば少しは早くつく!」

 僕は急いで詠唱すると、追い風という形で風の魔法を発動させた。

「フレッドさんにはあたしがかけてあげますね」

「あ、ああ。ありがとうマリノ」

 何かいつの間にかフレッドさんも着いていくことになっちゃったけど、今はそんなことを気にしている場合じゃない。とにかく急がないと!

 



「なるほど、そういうわけか…」

 北の停留所に着いた僕達の理由を新任の先生は腕組みをして聞いていた。

「理由はわかったが、その中には君達の予測不足が含まれていることも忘れるな。戦いの場は常に相手との読みあいで決着がつくのだぞ」

「は、はい…」

 僕達はしょんぼりと頭を下げた。

 今のやり取りでだいたいわかっていただけただろうか。

 今度ファトシュレーンにやってくる新任の先生というのはバリバリ軍人肌の女性で、その思考はなんとなくギルバートを思い起こさせた。

「とにかく学校に連れていってくれ。君たちはそのために来たのだろう?」

 先生に言われ、僕達は終始無言でもと来た道を引き返し、ファトシュレーンへと帰ろうとしたのだが――

「せ、セシル君…」

 リプルちゃんが怯えたように僕の服の端を掴む。

「い、いつの間に囲まれていたんだ?」

 ウェスリーもまったく気づいていなかったようだ。

「すまんな」

 唐突に先生が詫びの言葉を入れた。

「停留所で君達を待っている途中に囲まれたことに気づいてはいたが、どうせなら君達の実力をこの目で確かめようと思ったのだ。噂の事件以来、ファトシュレーンは集団戦闘もカリキュラムに含まれているのだろう?」

「おいおい、冗談きついな…」

 フレッドさんが頭を掻きながらつぶやく。

「さぁ、君達の実力を見せてもらおうか。私はここでじっくり見物しているとしよう」

 先生はそう言うと、円のちょうど真ん中にどっかりと座り込んでしまった。

「ちょっとぉ〜。マジで勘弁してよぉ…」

 マリノちゃんが泣きそうになりながら言う。でも、こうなっては今更泣いても遅すぎる。

だったらやるしかない!

 僕は新しく買った剣を抜き、素早く剣に雷を付加させる。剣先を少し当てるだけでも剣全体に帯びた雷が野盗達のダメージを与える。

「ブレイズサークル!」

「ロッキーアイス!」

 ノエルちゃんの円状の炎は地面と接触した瞬間に、その場で勢いよく炎を吹き、ウェスリーの氷は空中からあられの様に降り注ぎ野盗達を上手く蹴散らしている。

「せぇーの、浮き上がれー!」

 浮遊魔法が得意なマリノちゃんは敵を浮かせて同士討ちにする作戦を取っているようだ。これにより、もし敵に囲まれても一人を盾にして攻撃することができる。

 リプルちゃんは主にダメージの回復や僕とフレッドさんの補助に徹している。

 特訓しているときは全然気がつかなかったけど、僕達ってすごくバランスが取れたパーティになりつつあると思う。

 本当ならこれにギルバートが加わり中距離からの攻撃をしてくれるようになる。しかし、これでもバランスは十分だ。敵の弓攻撃も距離を選ばない魔法ならその持ち味を発揮できない。

 僕達はすぐに野盗を追い払うことに成功した。

「ふぅ、何とかなったみたいだな」

 フレッドさんが逃げていく野盗を目で追いながら息をついた。

「先生、怪我はありませんか?」

 僕は戦闘中ずっと戦場のど真ん中で座っていた先生に声をかけた。

「見てのとおりだ。それよりも…」

 先生はチラリと自分の腕時計に目をやった。

「七分四十秒というところか。六人であの人数を撃退するにはもう少し時間が短いほうがいいな」

 先生は安堵している僕達に向かってそんなことを言った。

「とりあえずよくやった。さぁ、先を急ぐとしよう」

 先生はそう言うと、僕達に背中を向けて一人さっさと歩いていってしまった。

「な、何かムカつくんですけど…」

「とても厳しそうな先生だね…」

 マリノちゃんとノエルちゃんが率直な感想を述べる。

「あ〜あ、女の先生って言うから期待していたのになぁ」

 ウェスリーの感想は論外として。

「しかし、あの先生は相当な実力者だな。俺、戦いの合間に座っている彼女を見ていたが、奴らは彼女の眼力に怯え近づこうともしなかった」

「たまたまそう見えただけじゃないんですか?闘う相手は僕達だったわけだし」

「あの先生も最初に言っていただろう。奴らは自分を狙っていたって。襲う目標が変わって、かえって狙いやすかったはずなのにもかかわらず狙わなかったのはあの人がそれなりの威圧感を持っているということだよ」

 フレッドさんはやけにあの先生のことを褒めているな。やっぱり騎士同士でわかりあえるものでもあるのかもしれない。

「おーい、置いていくぞー!」

 はるか向こうで先生が叫んでいる。

「しょうがない。もう怒られるのは勘弁だからさっさと行こうぜ」

 ウェスリーがやれやれといった表情で走り出した。

「う〜ん、なんか忘れているような気がするんだけどなぁ…」

「どうしたのマリノちゃん?」

 走りながら尋ねると、彼女は首を捻って「何か忘れてない?」と問いかけた。

「何も忘れてなんかないと思うよ。マリノちゃん、何か落としたりしたの?」

「そうじゃないんだけど……ん〜」

 マリノちゃんは走っている間中ずっと首を捻りっぱなしだった。

いったい何を思い出そうとしているのだろう。

 僕にはわかるはずもなかった。


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