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第7話〜ドキドキ。初めてのお迎え〜前編

 相変わらず今日も学校は休校だ。

 少し日が経って、瓦礫の数はだいぶ少なくなってきたけど、相変わらず校舎のほとんどはまだまだ大幅に修復が必要だ。

 寮から学校へ行くための道には板でできた簡易掲示板が設けられ、学校再開の目処やその他諸連絡が毎日更新されている。

 僕はいつものようにドクターエックスの特訓を終えて、この掲示板を見に来ていた。

(昨日とあまり内容は変わっていないな。相変わらず生徒会の人達は大変そうだし)

 寮長さんの具合もだいぶよくなってきていて、あと二日もすれば完全に復帰できるそうだ。

そういえば、寮長さんの治療を行っていたのは生徒会長さんだったらしいけど、それらしい人を男子寮で見かけた覚えはない。

(いったいどんな人なんだろう?)

 よくよく考えてみると朝礼や始業式、終業式の類のときにも生徒会長の姿を見ることはない。司会進行はいつも副会長が行っていたし、大きな連絡ごととかも他の生徒会員達を通じているみたいだった。

(姿を現したくない理由でもあるのかな?)

 姿を現したくない理由……。

(実は思いきりブスだとか?)

 それはあるかもしれない……て、そんなことを考えるのは失礼だよな。本人にしかない何か重要な理由があるのかもしれないし。

「クスクス…」

「!?」

 僕はハッと後ろを振り返った。しかし、僕の後ろには誰もいない。

「……?」

 おかしいな。確かにさっき、後ろで笑われたような気がしたんだけど。

「……気のせいかな」

 でも、前にも一度こんな風に誰かに笑われた覚えがあるんだよなぁ。

 誰なんだろう。僕のファンだったら大歓迎だけど、逆にストーカーとかだったら嫌だなぁ。

「セシル君、そこにいたんですね」

「ロバート先生、おはようございます」

「おはよう」

 ロバート先生は優しく微笑みながら挨拶を返す。

 僕のクラスの担任の先生でどちらかというと存在感はあまりない。

「こらこら、心の中で事実を言うんじゃないよ」

「うわ、読まれてました?」

「そんな顔で見られたら心を探る間でもなくそう思いますよ」

 ロバート先生はため息混じりに言った。

 少し傷つけちゃったかな。

「ところで、少しセシル君に頼みたいことがあるのですがよろしいですか?」

「僕にですか?かまいませんけど…」

「実は今日、ファトシュレーンに新しく実戦授業の先生が赴任してくるのですが、この間の授業で先生方はどなたも迎えに行くことができません。代わりにセシル君に行ってもらおうと思いまして」

「全然オッケーですよ。場所はどこですか?」

「レアードから少し南下したところにある馬車の停留所です。中央通りの停留所は見ての通り、修復にはもう少し時間がかかりますので」

「わかりました」

「まぁ、軽い実戦のつもりでお願いしますね」

 ロバート先生はそう言って僕に一枚のメモを渡した。

 メモには新しい先生の名前と待ち合わせの時刻が書いてあった。

(女の先生なんだ。実戦の先生って言うくらいだから男だとばかり思っていた)

 戦いに慣れにくい女子へのフォローなのかもしれないな。

 いったいどんな先生なのか楽しみだな。

「よぅセシル、メモ紙一枚見つめてどうしたんだ?」

 後ろから僕の肩を叩いてきたのはすっかりお馴染みのウェスリーだ。

「おはようウェスリー。実はさ…」

 僕はウェスリーにメモ紙を渡し、ことの経緯を話した。

「へぇ、新しい先生か。何もこんな状態のときにこなくてもねぇ…」

「仕方ないよ。まさかこんなことになるとは皆思ってなかったんだから」

「まぁ、そうだよな。それで、いつ行くんだ?」

「へ?まさかウェスリー、ついてくるつもり?」

「当たり前だろ。男の先生だったら興味ないけど、女の先生だったら少しくらい興味があるじゃんか」

「はぁ…」

 ウェスリーの言いたいことが大体わかってきたぞ。

「断らせないぜ。学校が休みで街の店もほとんど休みだろ。やることがないんだよ」

「…素直に自室で勉強しようとは思わない?」

「思わない!」

 きっぱりと断言されて、僕はこれ以上言及する気がなくなった。まったく、こんな奴が僕と同じ大魔導士だなんて数ヶ月経った今でもちょっと信じられない。




「……で、何でこんな大所帯になっているのかな?」

 誰に言うわけでもなくつぶやく。

「いいじゃないの。何か文句あるの?」

「……ありません」

 マリノちゃんに睨まれ、僕は小さくなってそう言う。

「リプルちゃんはともかく、ノエルちゃんはマリノちゃんに強引に連れてこられたんでしょ?お店のほうは大丈夫?」

「うん、ちゃんとお母さんの了承は取ってきたから」

 ノエルちゃんのお店は今も、中央通りで露天販売もしているから余計に忙しいはずだろうに。

「そうでもないよ。お店のほうは相変わらずだけど、中央通りでお菓子を買ってくれた人が何人かお店に来てくれることもあるし」

 ノエルちゃんは本当に嬉しそうに話す。

「ウェスリーさんにもお世話になりました」

「あ、ああ。別に改まらなくてもいいッスよ」

 ウェスリーは照れくさそうに頭を掻く。

「何をしたんだ?」

 僕が聞いてもウェスリーは照れながら「ああ、ちょっとな」と言うだけだった。

「家の前に落ちてきた瓦礫を壊すのを手伝ってくれたのよ」

 ウェスリーの代わりにノエルちゃんが笑顔で答える。

「まぁ、そういうことだ…」

 ウェスリーは咳払いをしながら言う。

 何かさっきから態度がおかしいなぁ。

「さっきから思ってたんだけどぉ…」

 リプルちゃんが「ねぇねぇ」と次の話を切り出す。

「ギルちゃんはどうしたの?」

「そういえば、何か静かだなとは思ってたのよねぇ」

 マリノちゃんがきょろきょろと周囲を見回しながら言う。

「ギルバートなら今朝からずっと姿を見てないな」

「僕も…。朝食のときも来なかったし…」

「いいんじゃないの。静かにこしたことはないし」

「マリノぉ、そういう言い方は駄目だよ」

「ギルちゃんはいい子だよぉ」

 リプルちゃんが上目遣いでマリノちゃんを見上げる。

「あら、セシルさんじゃないですかぁ!」

 ちょうど素通りしようとしていた露店から間延びした声で僕の名が呼ばれた。

「エリスさんじゃない」

「マリノさん達もこんにちは」

「こんなところで何しているんですか?」

「ほぇ?見てわかりませんか。臨時購買ですよ」

「臨時購買…て、意味なくないですか?今は休校中なのに…」

「そんなことないですよ。生徒会の皆さんや先生方は使用してくださいますから」

 エリスさんはそう言ってにっこりと微笑む。

 ちゃっかりしているというか、怖いもの知らずというか……。

「ところで皆さんはどこへ出かけるんですか?」

「ロバート先生の頼みでサントロ街道の停留所まで新任の先生を迎えに」

「新任ですか?そんなの掲示板に出てましたっけ?」

「僕も今朝ロバート先生から頼まれたんですよ」

「はぁ、なるほど。でも、その人数で行くんですか?」

 やっぱり疑問に思うよなぁ、そこ。

 僕が返答に困っているとエリスさんは「セシルさんの人柄の成せる業ですね」と言って優しく笑った。

「ところで、少し見て行きませんか。こんな状況ですから今だけ一時的に武器防具の販売も許可されているんですよ」

「マジで!?」

「あんた、驚きすぎだろ…」

 信じられないと言わんばかりに大袈裟に驚くマリノちゃんにウェスリーが突っ込みを入れる。

「いくらするんですか?」

 店頭での金銭交渉は買い物の基本。

 安く買えるものはギリギリまで値を下げさせて買うのが利口なのだ。

「うは、確かにいい武器だけどこりゃあ高すぎるぜ」

 ウェスリーが手に取っていたのは魔術士用の杖だ。軽量でそれなりに材質もいいから戦いのお供にはもってこいだが…。

「この杖、街の武器屋で買ったらもっと安くつくよね?」

 早速エリスさんに勝負を挑む。

「ええ。でも、しょうがないんですよ。武器は本来売ってはいけないことになっていしますから。武器屋さんが休業してしまっているので皆さんにはお気の毒としか言いようがないのですが…」

 ふふん、この程度ではまだ値を下げる気にはならないか。何も考えてなさそうな顔をして意外とやり手かもしれないな。

 僕達は(というか主に僕が)十数分の闘いの末、何とか自分達の武器と防具を揃えることに成功した。財布の中身は何とか無事だ。

「セシルさん、意外と金銭交渉になれてらっしゃいますねぇ」

「伊達に貧乏生活を何年も続けてないからね。エリスさんとはもっともっとお付き合いが必要なようだね」

「フフフ、望むところですよぉ」

 このとき、仲間達は僕とセリカさんの頭上にハブとマングースの姿を見たらしい。

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