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第6話〜流れ込む暗雲〜前編〜

 暗黒の休日が明け、僕はいつものようにドクターエックスの特訓を受けるため、コロシアムに向かっていた。

 一昨日にあんなことがあったばかりなのに特訓なんかしていられるかと思ったが、それを聞き入れてくれるほどドクターエックスは甘い人物ではなかった。今のファトシュレーンにはもっともっとやることがあるはずだ。このような戦闘特訓なんて今は何の意味もなさないはずなのに…。

「おはよう、ギルバート」

 僕は寮の一階で同じように特訓のため下足箱で靴を履き替えていたギルバートに挨拶をかける。

「うむ…」

 顔を見るだけでわかる。

 やはり彼も相当不満なのだ。

「まぁな…」

 そうなのかと尋ねた僕にギルバートはやはり不機嫌そうにつぶやいた。

「このような時に我々だけ特訓を受けていてよいのか?今は戦う以外にもやることがはずだ」

「その理屈はよくわかるよ。とにかく今はドクターのもとに行こう」

 ギルバートはやはり不服そうに頷くと、僕と一緒にコロシアムへと向かった。

 途中でマリノちゃんリプルちゃん、ノエルちゃんとも会ったが、皆が皆揃って同じような顔をしていた。

「私ね、お父さんが病院の先生なの。こういう時、お父さんだったらすぐに患者さんの元に駆けつけていたよ。なのに、娘の私は患者さんのところに行かないでこんなものを持って戦いの場へ行こうとしている…」

『………』

 リプルちゃんの言葉に誰も反応できなかった。

 僕達は助けられる人々を放って、自分達の欲求を満たそうとしている。

 コロシアムにはドクターが一人立っていた。一昨日の襲撃でコロシアムもだいぶ襲撃を受けていたようだ。入り口に立っていた像や闘技場の所々に亀裂が入っている。観客席も瓦礫だらけだ。

「遅いぞ。全員五分の遅刻じゃ」

 ドクターエックスはいつもと変わらない様子で、遅刻したときの体罰である落雷を僕たち全員に落とす。

「大方、遅刻の原因は想像がついておる。学校や街がこんな状況なのに果たしてこの特訓に何の意味があるのかと言いたいのじゃろ?」

「わかっているのならどうして…」

「だからといってそれがどうして特訓をやめる理由になる?」

 ノエルちゃんの言葉を遮ってドクターが問う。

「今、市民はおろか我が校の生徒達もほとんどが重軽傷を追って寝込んでいる者ばかりじゃ。そんな時に誰が戦場に赴いてここを守るというのじゃ?」

「だけど、怪我をしている人をみすみす放っておけないよ!」

「生徒会の人達や保健委員の人達だけでは人手不足なのはドクターも知っているでしょう!?」

 リプルちゃんとノエルちゃんが食い下がる。

「では、お主達がそちらに加わって何が変わるというのじゃ?」

「え?」

「一人が二人になってどうにかなるか?今、やるべきことは皆の傷の手当だけか?」

『………』

「以前までとは違う今こそ、我々一人ひとりがそれぞれつくべき役割につかねばならん。本来なら調査や戦闘関連は生徒会の役割じゃ。しかし、その生徒会も上役一名が重傷を負ってやむなく救護に回っておる。今、生徒会の役割を担えるのはお主らしかおらん。これは、わしもファトシュレーンの教職員達も一致の結果じゃ。数日はしんどいだろうが、今回の事件の調査や残党の処理、その他もろもろの仕事に当たってもらうことになるだろう」

「生徒会の仕事を僕達が…?」

「しかし、この状況で学校など…」

「学校は建物をわしらが修復する間休校じゃ。予想以上のダメージを追っておるから材木からもう一度作り直さんといかんかもしれない。まぁ、材木が集まったら我々がすぐにでも建物を魔法で修復にかかるから、そう長い休みにはならん。残念じゃったな」

 ドクターエックスはそう言って微笑する。

「頼むぞ。この期間中に奴らが再び現れた場合、対抗できる力を持つのはお主らしかおらん」

 僕達しか戦える生徒がいない。

 想像以上に過酷な事実に僕は眩暈さえ覚えそうだった。




 ドクターエックスの特訓が終わり、僕とギルバートは男子寮に戻った。

「………」

 ギルバートと別れ、僕は寮の階段を上り寮長さんの部屋を訪れた。

「寮長さん、おはようございます。入りますよ」

 控えめにノックをしてから扉をそっと開けて中に入る。

「セシルか…。どうだった、特訓は?」

「寮長さん、何で特訓のことを知っているんですか?」

「予想はつくよ。今、この状況であの魔獣達とまともに戦える力を持っているのはお前たちだけだからな」

「……僕たちだけでどこまでできるのでしょうか?」

「さぁ、それはわからないな。でも、俺もまたすぐに復帰するさ。生徒会長に回復魔法をかけてもらっているおかげでだいぶ傷はよくなっている」

「そうですか、よかった。そうだ、さっき食堂のおばちゃんからりんごをもらったんですよ。よければ一個どうぞ」

「ありがとう…」

「寮長さん、早く良くなってくださいね」

「ああ、そうするよ。君達に生徒会の任を背負わせるのは少々不安だからね」

寮長さんは冗談交じりにそう言うと、弱々しく笑った。

 朝食を食べ終え、僕は学校の様子を見て回った。校舎の外には主に教職員達が学校の修復をするために数箇所に分かれて作業をしている。

(ここには僕の出番はなさそうだな)

 ドクターはああ言っていたけど、やっぱり今僕達がすべきことはレアードの人々を助けることだ。

 そうと決まれば、早速困っている人達を助けに向かおう!

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