第2話:異様な条件
ただのお金の話では、終わらなかった。
指定された喫茶店は、静かで落ち着いた雰囲気の場所だった。
平日の昼間ということもあり、人は少ない。
私は店の前で一度立ち止まる。
「……帰ろうかな」
小さく呟く。
ここで帰れば、何も始まらない。
でも――
(それじゃ、何も解決せえへん…)
借金のことが頭をよぎる。
督促状。支払い期限。減らない残高。
深く息を吸って、私は店の中に入った。
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窓際の席に、その男は座っていた。
「……あの」
声をかけると、ゆっくり顔を上げる。
「初めまして」
どこにでもいそうな中年の男。
スーツも普通。外見も普通。
でも、その視線だけが妙に重く感じた。
「……初めまして」
私は向かいに座る。
店員が水を置いていく。
しばらく沈黙が流れる。
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「今日は来ていただいてありがとうございます」
男が口を開く。
落ち着いた声。
「……いえ」
何を話せばいいのか分からない。
手が少し震えているのが、自分でも分かる。
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「条件の件ですが」
その言葉に、体が強張る。
「事前にお伝えした通りになります」
淡々とした説明。
分かっていたはずなのに、改めて聞くと現実味を帯びる。
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「……あの、それって……本当に全部……?」
恐る恐る聞く。
「はい」
迷いのない返事。
一瞬、言葉を失う。
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頭の中に浮かぶのは、その内容。
普通じゃない条件。
理解している。分かっている。
だからこそ――
「無理です……」
思わず口に出ていた。
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「私には、そんなの……」
言葉が続かない。
視線を落とす。
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「そうですか」
男はあっさりと答える。
責める様子もない。
ただ――
「ただ、この金額は他では難しいと思いますよ」
その一言。
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ピタッと、体が止まる。
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テーブルの上に置かれた金額のメモ。
他とは明らかに違う額。
これなら――
借金を一気に返せる。
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(こんなん……)
分かっている。
危ないことも。
普通じゃないことも。
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それでも。
頭の中で計算してしまう。
返済。生活費。これからのこと。
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「……少し、考えさせてください」
やっとの思いで言葉を出す。
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「もちろんです」
男は静かに頷く。
「無理にとは言いません。ただ、条件に納得していただけるならご連絡ください」
淡々とした口調。
まるでただの取引のように。
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その冷静さが、逆に現実を突きつけてくる。
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「……はい」
立ち上がる。
足が少し重い。
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店を出る。
外の空気が、やけに冷たく感じる。
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「無理や……あんなん……」
そう呟く。
本心のはずなのに。
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でも。
頭の中から消えない。
あの金額。
あの言葉。
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(他では無理……)
その一言が、何度も繰り返される。
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スマホを握る。
連絡先は残ったまま。
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「……どうしたらええん……」
答えは出ない。
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それでも――
選択肢が一つしかないことだけは、分かっていた。
断ったはずなのに、その条件が頭から離れなかった。




