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魔法が使えない落ちこぼれ少女、人格持ちの魔杖を拾ったら最強になりました ~クーデレ杖と一緒に魔法学園の頂点を目指します~  作者: 岩柄イズカ


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6話 実技訓練



 翌日、メイガス魔法学園の講義室。


 今日は『魔法戦闘理論』の授業だった。


 ハルはいつもの席に座り、隣にはアリシアが佇んでいる。

 やはり他の生徒たちにはアリシアの姿が見えないようで、見慣れない女の子がいるのに誰も視線を向けることはない。

 代わりにちらほらとハルに向けられる視線と、くすくすと小さな笑い声が聞こえてくる。


「またフェルシアスの落ちこぼれが来てるよ……」

「今さら何を頑張るつもりなんだか」


 そんな言葉がハルの耳に届いた。


(……相変わらず、陰口は尽きないね)


 ハルは聞こえないふりをして視線を前に向ける。

 以前はこういう言葉を聞くたびに落ち込んでいたけれど、今は違う。

 隣を見ると、アリシアの表情がほんのわずかに硬くなっているのが分かった。


(あ……ちょっと不機嫌?)


 ハルは小さく苦笑し、そっとたしなめるように囁いた。


「アリシア、そんな顔しないの。私は別に気にしてないよ?」

『……マスターが不当な評価を受けることは容認しがたいです』

「いいの。私が落ちこぼれなのは確かだし、気にしたら負けだよ?」

『…………理解しました。ですが納得はしていません』


 アリシアは心なしかむすっとした表情で陰口を言っている生徒の方を睨んでいる。

 最初はずいぶん無表情な子だなと思ってたけど、こうして落ち着いて見るとずいぶん印象が変わる。

 昨日美味しいものを食べて表情を緩めたり、今こうして自分の悪口に不機嫌そうになったり。


(あまり表に出そうとしないだけで、ちゃんと喜んだり怒ったりするんだ)


 ハルはそんなアリシアを微笑ましく思いながら、つい小さく笑ってしまう。


『……何か?』

「ううん、なんでも」


 

 そうして講義が始まる。

 ハルはすぐに気持ちを切り替え、ノートを取りながら真剣に講義を聞いた。

 時折アリシアがそっと横から補足情報をささやいてくれるのが心強い。

 今までも授業は真面目に受けていた。でもどこかで『自分には関係ない』なんて感じていた。


 けれど今は違う。今や自分も魔法を使える魔法使い。いつもよりいっそう勉強に力が入って、わからないところはアリシアに聞いてみたりした。

 ひそひそ話してるのを隣の席の子が気味悪そうに見ていたけれど、今さら悪評の一つや二つ増えたところで気にしない。


 そうしていると、講師が教壇の前で言った。


「では、次の時間は魔力放射について。実際に訓練場でやってみようか」


 その言葉に、ハルは身体が強張るのを感じた。


(実技……)


 小さく深呼吸をして気持ちを落ち着けようとする。

 これまでの実技の講義は、ずっと惨めな記憶ばかりだった。

 どれだけ努力しても魔法が使えず、いつも嘲笑の的。失敗するたびに周囲から浴びせられた冷たい視線が脳裏に蘇る。


『マスター』


 ハルの不安を察してか、アリシアが声をかけてくれた。


『案ずることはありません。魔力放射であれば問題なくこなせるはずです』

「う、うん。それはわかってるんだけど……」


 魔力放射ならすでにレイスとの戦いで使った事がある。アリシアの力を借りれば問題なくこなせるはず。

 そう思っているのに、どうしても『失敗したらどうしよう』なんて考えて身を固くしてしまう。


『……少なくとも、ここにいる生徒の中でレイスと戦ったことがある者はいないでしょう』

「……へ?」


 その言葉にぱちりとアリシアの方を見る。

 アリシアは少しだけ優しい顔をしていた。


『マスターはレイスと授業、どちらが怖いですか?』

「……それもそうだね」


 思わず笑ってしまった。一気に身体が軽くなった。確かに、あれと比べたら授業なんて怖くもなんともない。

 アリシアにお礼を言って、訓練場に向かった。



 野外訓練場。


 広々とした訓練場には空飛ぶ的や魔力を測定するクリスタルなどが設置され、魔法の練習を行える環境が整っている。


 今日のテーマは「魔力放射」。魔法の基礎中の基礎――だが、それだけに力量の差が顕著に出る訓練だった。


「それじゃあ、順番に的に向かって魔力を撃ち出してみろ。威力と安定性を評価する」


 教師の合図で生徒たちが持ち場に散っていく。その中に、相変わらずひそひそ声が紛れ込む。


「見ろよ。ゼロシアスがまた授業に出てるぜ」

「どうせ魔法使えないんだから、授業出なければいいのに」

「ところであの杖どうしたんだ? 宝の持ち腐れだろ」

「親に泣きついて買ってもらったんじゃないか? おと~さ~ん、おねが~いって」


 くすくすと笑い声が聞こえる。


 ──ピキッ


 ハルの隣で、アリシアの額に明らかな怒りマークが浮かんでいた。


「ア、アリシア? そんなに怒らなくても大丈夫だよ?」

『怒ってません。怒ってませんが……魔力放射、あいつらに向けて撃ってはいけませんか?』

「間違っても撃たないでね!? マジで退学だからねそれ!?」


 焦るハルをよそに、アリシアは明らかに不機嫌そうな顔でふいっと目線をそらす。……でも、アリシアが自分のことで怒ってれてるのがちょっとだけ嬉しい。


 そうしているうちに、順番がどんどん進んでいく。


 生徒たちが次々に魔力を標的である大岩へ撃ち込み、その威力を競い合っていた。

 大岩を破壊するほどの威力を見せる者もいれば、魔力の放出が安定せず的を外す生徒もちらほらいる。小さな歓声と失笑が交互に訓練場に響いていた。


 そして──


「次、ハル・フェルシアス。……やるか?」

「やります」


 教師が小さくため息をつき、所定の位置につくのを促す。まったくできると思われてないのがありありと伝わってくる。

 同時に、周囲の生徒たちの視線も一斉に集まってきた。


「おっ、来たぞ!」

「うまくいくかどうか賭ける?」

「いやいや、それじゃ賭けにならないだろ」


 笑い声が響く。……でも、もう気にしない。

 ハルは前へ進み出る。隣に寄り添ってくれているアリシアは明らかに不機嫌そうだった。


『目に物見せてやりましょう』


 深呼吸。呼吸を整え、杖を握りしめる。先端を標的である大岩に向ける。

 体の奥底から溢れ出す魔力の流れを杖に集中。それをアリシアがさらに増幅し、収束していく。


「──行けっ!」


 魔力を解放した瞬間、白い閃光が走った。


「きゃあっ!?」


 閃光の太さも反動もレイスに向けて撃った時より数段上。撃った衝撃波で砂塵が舞い上がり、ハルはたまらず尻餅をつく。

 しかし閃光はアリシアの調整もあって見事に標的の大岩に直撃し――木っ端微塵に吹き飛ばした。


「なっ……!?」

「え……嘘だろ……?」


 静まり返る訓練場。吹き飛ばされた破片がパラパラと落下してくる。

 さっきまでハルを嘲笑っていた生徒たちも言葉を失っている。生徒も教師も……ついでにハルも予想していなかった光景に口を開けてしまっていた。


(な、なんかレイスと戦った時よりめちゃくちゃ凄くなってない!?)


 隣を見るとアリシアが腕組みしていた。気持ちドヤ顔だった。


『マスターの魔力路が馴染んできたのでちょっと本気出しました』

「そ、そっか。アリシアってすごいんだね……」


 ざわめきが広がっていく。

 教師も驚いたように目を細め、魔力測定のクリスタルを確認する。


「……すごいな」


 そう呟くとハルへと視線を向けた。


「ハル・フェルシアス、見事だ」

「えっ……?」


 思わずハルは目を瞬く。


「この魔力放射の威力は、一年生の中ではおそらく最強クラスだろう」

「……!」


 ──先生に褒められた。

 今まで、魔法で誰にも褒めてもらえたことがなかった。先生はもちろん、親にも、兄姉達にも。

 これまでどれだけ努力しても報われなかった。だけど今、ようやく……。


「あ、ありがとうございます! へへ……えへへへへ♪」


 全部アリシアのおかげだとわかってはいるけど、つい顔が緩んでふにゃふにゃになってしまう。

 そんなハルを見つめるアリシアの顔はほんの少し優しい気がした。



 訓練が終わり、解散となった後のこと。

 ハルが教室へ戻ろうと歩いていると、周囲の視線を感じた。


(……なんか、いつもと違う)


 今までは、冷ややかな目や嘲笑ばかりだった。

 けれど今日の視線はどこか違う。

 驚き、興味、少しの警戒。


 たった一度魔法を使えただけで、周囲の反応が大きく変わった。

 なんだか地に足がつかないふわふわした感覚。そうして歩いていると……。


「ハル!!」


 元気な声とともに、ミルカが駆け寄ってきた。

 治癒魔法使いであるミルカは通常、別の授業を受けている。それなのに話を聞いて急いで戻ってきてくれたらしい。


「聞いたよ! 魔力放射の授業で凄かったんだって!? すごいよハル!!」

「うん! ありがとう!」


 二人は満面の笑顔で喜び合う。

 だが──


「……まあ、どうせあの杖のおかげなんだろ?」

「きっと家のコネで高級な魔道具を用意したんだ」

「結局、家柄がいいだけの卑怯者じゃん」


 今までハルを馬鹿にしていた連中の陰口が、ちらほらと聞こえてきた。

 ミルカの表情が一気に険しくなる。


「……ごめんハル、ちょっとあいつら黙らせてくる」

「い、いいよミルカ!」

「でも……ハルが今までどれだけ頑張ったかも知らないで……!」

「まあ実際、アリシアのおかげだしね」


 ミルカが何か言いかけたが、ハルは笑って首を振った。


「大丈夫! もう気にならないよ」


 そう言うハルの顔は、どこか晴れやかだった。

 ミルカは少しの間じっとハルを見つめた後、ふぅっとため息をつく。


「……ハル、変わったね」

「ふふっ、そうかな?」


 そうしてあらためて、二人は今日のことを喜び合うのだった。



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