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魔法が使えない落ちこぼれ少女、人格持ちの魔杖を拾ったら最強になりました ~クーデレ杖と一緒に魔法学園の頂点を目指します~  作者: 岩柄イズカ


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10話 スパルタトレーニングLevel2



 訓練が始まって二週間が経過した。


 ……つまり、もう残りは二週間しかない。


 ハルはこの二週間で見違えるほど成長した。

 毎日、朝から晩までの訓練をこなし、夜には夢の中でも戦い続ける。

 弱音を吐くことはあっても、決して止めたいとは言わなかった。


(……マスターは、本当によく頑張っています)


 今日も訓練に励むハルを見ながらアリシアは思う。本当に、これは賞賛に値する。アリシアもここまで頑張ってくれるとは想定していなかった。


 けれど──


(それでも、まだ足りない)


 他ならともかく、ここは魔法の名門。メイガス魔法学園。

 他の生徒が十年以上にわたって積み上げた場所まで一カ月で追いつくなど容易なはずがなかった。 


 それにハルは試験で『高得点』を取らなければならない。

 つまり追いつくだけでは不十分。回避能力と魔力の対消滅という強みがあってもまだ不確定要素が多すぎる。


 そして今の訓練ではすでに伸びが鈍化し始めている。


(当機は、最強の魔法使いを作らなければ……)


 過去を思い出せない自分の中にある、唯一確かな目的。

 もしもメイガス魔法学園を退学になったら大きな遠回りになるし、もしかしたらハルは魔法を捨ててしまうかもしれない。


 そうでなくても、フェルシアス家の者が自分に気付いたら何もしないとは思えない。


 ……ハルと一緒にいられなくなるかもしれない。


(……?)


 ハルと一緒にいられなくなる。そう考えた途端、胸の奥が痛みを感じた。

 賭け落ちた記憶。何か……以前にも、そういうことが……。

 そこまで考えかけてアリシアはかぶりを振った。今はそれよりも、ハルをもっと強くしなければならない。そのためには……。


 †


『……マスターを殺害しても構わないでしょうか?』

「……は?」


 夜に行っている夢の中での訓練。いつものようにアリシアと手合わせしようとした矢先にそう言われ、ハルは一瞬耳を疑った。


「え、ちょっ、アリシアいま何て!? 夢の中とはいえすごく物騒なこと言わなかった!?」

『殺害しても構わないでしょうか?』

「いや良くないよ!? ……というかそもそも、夢の中でのトレーニングだと私何度か死んじゃってると思うんだけど」

『否定。今までのものは致命傷を負っても一瞬意識が途切れるだけという設定でした』


 そこで言葉を切ると同時、アリシアの纏う空気が一変した。


『ここからは……本当の死を体験してもらいます』


 ハルの全身が総毛立った。


(な、なにこれ……殺気?)


 ――怖い。

 見た目は何も変わらないのに、今から自分はこの子に殺されるんだと理屈ではなく本能が理解してしまう。目の前のアリシアが怖くてたまらない。


『これより、当機に記録されている中で最強の魔法使いの戦闘データを再現します』


 冷たく響く声とともに、アリシアが杖を静かに構えた。その瞬間、紅蓮の炎が渦を巻くようにアリシアを取り巻く。

 ハルの背筋に、ぞわりと鳥肌が立った。


(……やばい、これまでの訓練とは全然違──!)

『戦闘開始』


 その宣言とほぼ同時にハルの胸が穿たれ、大穴が空いた。

 一瞬見えたのは赤い閃光――何も反応できなかった。


(あ……?)


 身体が糸が切れたみたいに動かなくなる。受け身もできずそのまま地面に倒れ込む。


(私、死んだ──?)


 視界が暗転し、そこで意識は途切れた。




「……っ、はぁ……っ!!?」


 次の瞬間、ハルは荒く息をしながら目を覚ました。

 先ほどと同じ夢の中の空間。胸に手をやるが、先ほど空けられた大穴はない。


(そ、そうだ、ここは夢の中……死んでもまた戻ってこられるんだ……)


 そう自分に言い聞かせようとする。だが……


「う、ぐ……っ!」


 胃が引っくり返ったような感覚。口元を押さえて耐えようとしたが、こみ上げる吐き気に激しくえずく。


(本当に、これ……夢なの……?)


 ――死んだ。


 意識が遠くなって、何もない真っ暗な空間にどこまでも落ちていくような感覚。


 ……怖い。


 生物が何故死を恐れるのか理解した。きっと、本能的にあの感覚を知っているのだ。

 怖くて、苦しくて、どうしようもなくて、全身が冷えていく感覚と落ちていく感覚が無限に続いて……。


 †


 地面に突っ伏してえずくハルを、アリシアはじっと見つめていた。


(……誤ったかもしれません)


 アリシアは自らの判断を静かに見直す。

 これまで夢の中で本当の『死』を体験させることは避けてきた。生物が本能的に死を拒否するのは当然で、ハルの精神を折りかねない。


 アリシアは目を伏せ、静かに口を開いた。


『マスター』


 ハルはまだ荒い息を吐きながら、ゆっくりと顔を上げる。


『この訓練は、ここで断って構いません』

「……え?」

『このまま続けると、マスターの負荷が限界を超える恐れがあります。別の訓練方法を考えます』


 ハルが折れてしまっては元も子もないし、できないと言われてもそれでハルが軟弱とは思わない。

 これは成果を焦って訓練の強度を上げすぎた自分のミスだ。もっとハルには適切な訓練を……。

 アリシアはそんなことを考えて別の訓練法を考えていた。だが──


「……もう一回」

『……え?』


 ハルはふらつきながらも立ち上がる。

 眼には恐怖の色が滲んでいたが、それ以上に燃えるような決意が宿っていた。


「もう一回、やる。次こそは避けてみせる」

『……マスター。無理をしなくて構いません』

「……無理は、してるけど、でも頑張りたいんだ」


 まだ苦しげに呼吸しながらも、ハルはまっすぐアリシアを見つめて言った。


「だって、この訓練はアリシアが考えてくれたんだよね? 私がもっと強くなれるようにって」

『それは、そうですが……』

「だったら、やる。アリシアが私のためを思って決めたことなら、きっとそれが一番いい方法のはずだから」

『……マスター』


 アリシアの目がわずかに揺れた。


「私は、ずっと魔法が使えなかった。周りからバカにされて、悔しくて、ずっと辛かった。でも、アリシアが来てくれて、魔法が使えるようになって、今こうやって試験の突破を目指して感張ることができてる」


 ハルはそこでふっと優しく笑った。


「……アリシアのおかげで、私は変われたんだよ。だから、少しでもお返しがしたいの」

『お返し……?』

「そう! アリシアは私を最強の魔法使いにしたいんだよね? なら、私が頑張らないと!」

『しかし、この訓練は本当に──』

「大丈夫」


 ハルははっきりと言い切った。


「私はアリシアのことを信じてる。だから……アリシアも私ができるって信じてて? それだけで、きっと私は頑張れるから

『──っ』


 アリシアは息を飲んだ。


(信じる……)


 トクン、と胸が鼓動を打つ。

 ハルの姿が誰かと重なる。誰だったかは思い出せない。けれどきっと自分にとって大切だった誰か。

 胸が温かくなり、自然と口元にわずかな笑みが浮かんだ。


『……分かりました、マスター』


 アリシアは静かに杖を握り直す。


『では、もう一度──始めましょう』



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