#9
茶番劇は続いている。
愛していた恋人から別れを告げられ、彼を奪ったかもしれない男と付き合って。そして醜いまでに追いかけて、突き放されて。
こんなことでジタバタしてる間も、稔は他の男と楽しく過ごしているかも、と目まぐるしく考えている。あまりにも不毛。馬鹿みたいだ。
由貴は再び歩き出した。そういえば無我夢中で出てきてしまったけど、支払いは……あぁ、司が払ったんだ。財布は……尻ポケットにちゃんと入ってる。
空虚感が世界を覆い尽くしている。
ここが愛に溢れた自由な街だなんて笑ってしまう。
実際は不幸と不自由が蔓延っているじゃないか。人通りの少ない小路に入ったとき、地べたに座っているみすぼらしい姿の男が数人いた。よく見ると女もいた。ホームレスに違いないが、彼らは何かを祈っている。両手を広げたり手を強く握り締めてぶつぶつと唱えている。この街の神に救いでも求めてるんだろうか。そうだとしたら、むしろ幸せだ。現実を忘れて自分の世界に浸っていられる。あいにく、ここの神様は願いを叶える人間を選ぶみたいだけど。
しかも“愛”を与えられる際に“不自由”といういらないおまけまでつけてくるらしい。でも冷静に考えたら当たり前かもしれない。普段は神の存在なんてまるで信じてないのに、都合のいいときだけ神頼みするのは虫がよすぎる。増してや、「タダで幸せにしろ」なんて……逆に怒りを買ってバチが当たってもおかしくない。
心機一転、新しい人生を始める為にこの街にやってきたのに、これではマイナスからのスタートだ。こんな姿はとてもじゃないが地元の友人達に見せられない。由貴は爪を噛み、地面に伏せるホームレス達に見届けられるようにして進んだ。
いつか自分もこうなるのでは。そんな訳ないのに、そんな気がしてならない。
服を脱ぎ散らかして横たわってる男も、足元に転がってる石も大して変わらないように見える。
そして自分は、その石よりよっぽど弱い、ちっぽけな存在に見えた。
分からないことだらけだ。誰も彼も、何もかも。
大人は何でも知ってる顔をしていながら、実際は何も教えちゃくれない。それでも何とか成り立っているのは、教えろとせがむ者がいないからだ。
この街には、子どもが全くいない。




