#6
「関係は前と違っちゃうけど、友人としてならいつでも駆け付けるよ。何より君に問題があってあんなことを言ったんじゃないから」
司は頬杖をつき、インペリアル・フィズをマスターに頼んだ。昔、彼がそれを頼んだときカクテル言葉を教えてもらったことがある。意味は確か、“楽しい会話”。
昨日フッた元彼を前に、楽しい会話? 何考えてんだこのインテリめ。
心中で毒を吐いていた時、ふと自分の前に置かれているバイオレット・フィズが目に入って心臓が止まりそうになる。この酒の言葉は“私を忘れないで”。
まるで、未練たらたらの狙ったような選択をしてしまった。彼が気付かないことを祈り、酒は自分の方にそーっと寄せた。
「それで由貴君、今日は何の用?」
「あ……今、あなたが言った話です。俺のことを嫌いになったわけじゃないなら、どうして別れなきゃいけないんですか? 俺は司さんのことが好きです。別れたく……ない」
少なくとも真実を確かめるまでは別れたくない。完全に隣を向いて、彼の方に身を乗り出した。
「もしかして、何か困ってるんですか? ご両親から反対されてるとか、多額の借金ができたとか!」
「いや、困ってることは何もないよ。ただね、たまにこうなる時があるんだ。幸せに生きてることが無性に怖くなる。不幸になりたい自分がいるんだよね」
……ドMか?
「それに由貴君はまだ若いし、俺より良い人が絶対にいる。だから俺のことはもう忘れて、新しい恋を見つけなさい」
目眩がしてフラっと倒れそうになった。新しい恋を見つけられないから、自分はここにいる。稔との恋をいつまでも引き摺って、この男に執着している。
こんな自分が、本当は一番嫌いだ。
「い……以前、付き合ってた人がいました。でもその人も俺の為と言って、隠し事をしたまま去っていった。嫌な話してすみません。でも、何とかしたいんです。俺に原因があるかもしれないのに、何も知らないまま終わるのは嫌だ……!」
演技半分、……本意が半分。
復讐するつもりの青年にすがりついた。
「由貴君は、本当に純粋だよね……」
「え」
「大丈夫だよ。君なら絶対幸せになれる。じゃあそういうことで」
「いやあぁぁっ無理です! 司さんがいないともうっ……その……何か色々無理です! 死にます! 別れるぐらいなら俺は死ぬ!」
必死過ぎて人目も気にせず叫んだ。相手の事情を考えず自分の主張ばかりする、迷惑な恋人を代表した気分だった。




