#5
由々しき事態だ。
稔の影どころか浮気症の尻尾すら掴めないと、今自分が何の為に司と付き合ってるのか分からなくなる。本当に無関係だとしたら騙して巻き込んでいるだけだし、罪悪感が募る一方。一刻も早く真実を手に入れ、手を切った方がいい。
……というのが昨日までの話。ややこしいものの、それらの不安を上回る大事件が起きた。涙ぐましい努力や復讐がどうでもなるぐらいの事件が。
昨夜突如司から呼び出され、良い雰囲気で飲んでいたさなかに別れ話を切り出された。
雷に打たれたような衝撃を受けた。嫌われるようなことをした覚えはない。
夜の失敗、という可能性もない。二ヶ月も付き合っているが、彼とはまだ一度もセックスしたことがなかった。
気休め程度の愛撫なら何度かしている。ところがいざ本番に誘うと、彼は風邪だ何だと、適当な理由をつけてやんわり逃げていた。あれは全てこの前兆だったんだろうか……。
そもそも遊び人として名が知れ渡ってるのに、全然手を出してこないことがおかしかったんだ。何でそれに気付かない? 俺はアホなのか? と自問自答しても始まらない。既に事態は暗転している。
何一つ真実を突き止めていないのに、二度の失恋なんて情けないにもほどがある。ていうかまだ恋してない……司にフラれ社宅に帰ってから、浴びるように酒を飲んだ。
俺の何がいけなかったんだ……!?(多分色々あると思うけど!)
一から十まで自業自得に違いないが、現実を認められない由貴は翌日の夜も司を呼び出した。
街中の行きつけのバーが彼と一番過ごした場所。初めて連れられた時は緊張した。何を頼めばいいか分からなかった自分にモスコミュールを頼んでくれたことを思い出す。やはり年の功というか、大人の男性にしか出せない色気があるのだと知った。
稔は歳のわりにやんちゃな青年で、ロマンチックな雰囲気をつくりだせるタイプではなかった。そこが決定的に司と違う。
誘いの断り方、振る舞い方、司から教わったことは数えきれない。大人として身に付けるべき力を、彼は自分にくれた。それが少し心苦しい……。
習慣のように頼んだモスコミュールを飲み終え、二杯目にバイオレット・フィズを作ってもらった。鮮やかな紫を眺めていると、隣に誰かが腰を下ろした。
「悪いね。待った?」
昨日と何ら変わらない。その眩さに目を細めたくなる美青年、守門司。
「いえ、全然。……むしろ来てくれてありがとうございます」
「はは、別れたからっていきなり音信不通になったりしないよ」




