#1
恋人と証明できるものは何もない。しかし「知り合い」よりは格上げされたのかもしれない。この関係に相応しい名称は思い付かないが、初心な発想をするなら“友達から始めましょう”……。
ところが、ここにきて不安なことがある。司の顔色がまた悪くなっていた。
「長居してごめんね、由貴君」
司は独りで呟き、自分のジャケットを羽織った。
「司さん、帰るんですか? 無理しないで泊まってくださいよ……! まだ具合悪そうだし」
「ありがとう。でも家に帰らないと、弟が心配するんだ。最近俺がぼけっとしてるから、いつか外で野垂れ死ぬんじゃないかって言ってさ。ただでさえ帰りが遅いから、今日は家に帰ってやりたいと思って」
事情は分かったものの、やはり司の声は覇気がない。無理して笑っているようにも感じ取れて、考えるより先に上着を取った。
「じゃあ俺が司さんの家まで運転します。だから助手席で休んでください。大丈夫です、絶対安全運転でいきますから」
「でもそれだと由貴君の帰る足がないじゃない」
「大丈夫ですよっ。いざとなったらタクシー呼びますし」
今の司はとにかく見ていて不安だ。
出過ぎた真似かもしれないが、できることはなるべく率先してやりたい。司と一緒に家を出て、運転席に座った。助手席に司が乗り、ナビに住所を入力する。
普段と違うポジションに少し緊張したが、ミラーを調節してギアを握った。
「司さん、着くまで寝ててください」
「本当に大丈夫? 由貴君だって腰痛いでしょ」
「……大丈夫です。逆に具合が良いです」
ということにして、アクセルを踏む。久しぶりの運転は不安だったが、トルクによる圧力で高揚を覚えた。低速から瞬時に加速、走行性の良さは抜群だ。これならずっとドライブしていたい。
案内ルートに従って黒い道を走る。隣が静かなので少しミラーで盗み見ると、彼は瞼を伏せていた。寝ているのかどうか微妙だが、声は掛けないでおいた。
しかし、弟が心配してるのに俺を家まで送ろうとしていたのか。本当に……怖いくらい、お人好しなひとだ。
市街を抜けて真っ暗な坂を登る。暗がりの中だとどれだけ高いのか分からないが、感覚的には軽く山だ。司の家はこんな場所にあるのか。
コーナリングが多いためハンドルを握る手に力が入る。開けた道に出たとき、ちょうど音声案内が終わった。
わざわざ画面を見なくても分かる、大きな家のシルエット。ブレーキを踏んで司に声を掛けた。
「司さん、ここですか?」
「ん……あぁ、そう。わざわざありがとう」




