#10
それは本音だった。楽な方へ流されたいわけじゃないが、司はもはや唯一心を許せる相手だ。意地もプライドもかなぐり捨て、はっきりとそう言える。彼の前では、取り繕った自分なんて簡単に崩れ去る。
幸せなことだ。
無意識に張っていたネットを取り払ってくれる人がいるのは。
「司さん……俺のこと、嫌いじゃないなら……離さないで」
大切な人を捕まえる為に手を伸ばした。その手を握り返し、彼は微笑む。
「不幸になるかもよ?」
「はい」
「一緒に死んでって言うかもしれない」
「大丈夫です」
短い問答を繰り返し、互いに笑った。
司は困ったように俯いていたが、やがてため息をついた。
「そこは無理です、って言ってほしかったんだけど。……我儘な子には適わないね」
「あはは」
「……ひとつだけ訂正させて。君を諦めさせる為の嘘だから、一緒に死のうなんて絶対に言わない。死ぬ時は俺一人で死ぬ。好きな人の人生を奪う権利なんてないから」
指を絡めた。小さな箱に凝縮された濃い一夜。
この部屋から見えない夜景は、今日も眩く輝いている。




