#6
とても今さらだけど、確信したことがある。
「司さんって天然ですよね」
「そう? 由貴君もじゃない?」
「俺は……そうですね。ただのアホですけど」
ずり落ちていた布団を引き上げ、司の胸元に掛けた。
「心配いりませんよ、司さん」
体の向きを変え、司と視線が合うように前へ屈む。
「俺、貴方と会う前から不幸だったんです。だから付き合っても全然変わらない。これ以上は不幸になりようがないんで、その……」
「その?」
「ダメダメな俺と一回別れて、……新しい俺と付き合ってください」
司の手を痛いぐらい強く握った。
それに反応するように彼は目を見開く。
「司さんと出逢った時の俺は、本当に最低野郎でした。今もそうなんですけど、……約束します。ずるずる引きずってる過去は全て捨てる。だから貴方が背負ってる悩みや不安を半分ください。不幸だって、半分こすれば大したことありませんよ」
何の根拠もなく言い切った。
一体どんな感情がそのように言わしめているのか、自分でも不思議で仕方ない。しかし乗り切る自信はあった。
初めて素のままに彼と話せている。恐らくそれが一番嬉しいのだ。高揚している。
「返事は、いつまでも待ってます。だからまずはゆっくり休んで、元気になってください」
「……」
司は軽く頷く。そしてまた手を伸ばしてきた。温かい指が口元に触れる。口角をなぞり、下唇を押すようにして口腔内へ入ってきた。
背筋に電気が流れる。自然と内腿に力が入り、脚を閉じた。抵抗はせずに司の指を受け入れる。硬い爪、指の腹、形を確かめるように舌を這わせる。まるでおしゃぶりをしている気分だ。膝の上に置いている手に、自分の唾液が零れた。
「ふふ。そんなの教えたっけ」
困ったように笑う司に対し、首を横に振った。
「自分で覚えました」
「ははっ」
軽く笑い合って、由貴は口に含んでいた指を放した。
「司さん、色々教えてください。俺はまだ、司さんが珈琲好きってことしか知らないんです。何が好きで何か嫌いなのか教えてほしい。そうすれば、我慢しなきゃいけない不自由もちょっとは減るでしょ」
自分から知ろうとしている。他人に興味を抱く。これが……これこそが、心を開いてから踏み出す一歩かもしれない。
肉体だけの繋がりが虚しく感じたとき、相手の心を奪いたくなるんだ。俺は今、彼の心が欲しい。他は何も望まない。彼が住む世界から消えたくなかった。




