#5
司は可笑しそうに吹き出した。
「続かないんだよ。マイペースに加えて自由至上主義だからね。旅行先で行動を制限されたり、長電話で時間をとられたり、自分の観たい映画を我慢して、相手の好みを優先したり。何より大切な、選択の自由を失うことが嫌だった。でも恋人にそんなこと言っちゃいけない。自分をセーブしないといけない時が絶対ある……。それも最初のひと月は我慢できるんだけど、だんだん嫌気が差しちゃってね」
片手をひらひらと振りながら話を続ける。もうだいぶ、彼の血色は良く見えた。
「昔は大嫌いだった、セフレなんて存在を持つようになった。カラダだけの関係が定番になってたんだ。由貴君と付き合う前までは」
「じゃあ、俺と付き合ってからやめたんですか? 綺麗さっぱり?」
「うん」
内容のわりにとても軽い返事だった。もう少し重みを持たせても良い気がする。
そこには、彼の強い決意があるはずなんだ。
「……どうして」
「由貴君に会った時、何かビビッときたんだ。この街の神様が舞い降りたみたいで、……俺はこの子に会う為にここへ来たんだって思った」
本気なのか冗談なのか、とりあえず笑って誤魔化した。酔っていれば冗談も言えるかもしれないけど、本気だとしたら……いや、有り得ない。絶対冗談だ。そう頭に叩き込んだ。
「君と一緒にいられるなら、今持ってるものは捨てても良い気がした。縛られることを一番嫌って生きてきた俺の、初めての経験だったよ。これが人を好きになるってことか……って、ロマンチックに考えた」
「ロマンチック?」
「そう。本当に好きな人となら、不自由すら愛しいんだ。自由じゃなくても、こんなに幸せな気持ちになれる」
手を重ねた。司の手は、自分の手よりも暖かくなっていた。
「好きだよ、由貴君」
はっ。
「じゃっ……何で別れようって言うんですか。矛盾してますよ。俺は司さんと別れたくないって何度も言ってんのに」
「うん……」
とても静かな会話だった。互いに抑揚がないせいで、台本かなにかを朗読してるように聞こえる。
しかし次の台詞は中々返ってこない。
「司さん?」
手をさすると、軽く握られた。
「好きだから……自分が不幸になりたいっていうより、君を不幸にさせることの方が怖い」
彼らしかぬ弱音だ。それには正直驚いていた。
彼は本当に変わってしまったみたいだ。出逢った当初の完璧な青年から一変、今は憔悴しきっている。




