#4
部屋の照明を点け、真っ先に暖房をオンにする。司のジャケットをハンガーにかけた後、自分のベッドに寝かせた。直後、しまった、スプレーしてから寝かせれば良かった……と後悔したけど後の祭りだ。気付かないふりをして、彼の気が紛れるようにテレビを小音で点ける。急いで白湯と体温計を持って、彼に渡した。
熱は三十七度ジャスト。これから上がる可能性もあるけど、ひとまず安心した。
「司さん。俺ちょっと買い物行ってきます。腹に優しいものが冷蔵庫に何もないので……すいませんが寝ていてください」
ジェスチャーを交えて踵を返した。ところが服を掴まれ、後ろによろめいてしまう。
「行かなくていい」
「でも……」
「今由貴君がひとりで出掛けたら、俺が送った意味ないでしょ?」
司は白い顔で微笑む。
彼の言った意味はすぐに分かった。まだ遅い時間じゃないけど、さっきの事件を考えると確かに危険だ。ベッドの隣に丸椅子を置いて腰掛けた。
「本当に大丈夫ですか? 司さん、なにか持病とかありましたっけ」
「何にも。健康優良児だよ、俺は」
自分で言うところがさすがだ。少し笑うと、頬を優しく撫でられた。
長くて細い指。だけどしっかりした大きな掌。改めて自分と見比べると大人と子どもみたいにサイズが違くて少し恥ずかしくなった。
彼はこの手で、きっとたくさんの人を助けてきたんだろう。自分のように誰かを殺そうとしたことなんて、絶対にない。
「なにか欲しいものありませんか」
「今は何も」
何でこの人と出逢ってしまったのか、運命を呪う。
「君がいたら、それで充分なんだ……」
瞼を伏せる彼は、人形のように美しかった。
吐き出す言葉も胸焼けしそうなほど甘くて、優しい。
まだ二十三年しか生きてないけど、酷い人生だった。誰かを本気で好きになったことは一度しかない。稔を愛していたけど、突然別れを切り出されて、その好意は悪意に変わった。自分も手のひら返しが早いタイプだと思う。
そもそも、今だって何やってるんだろう。
司を騙して、また自分の気持ちを推し殺そうとしている。
「今だから言えるんだけど、怒らないで聞いてくれる?」
司はゆっくり瞼を開けた。しかしこちらを見ようとしない。目の前の壁を見ながら片手を上げた。
「俺、由貴君が大人になってから一番長く続いた恋人なんだよ」
「そんなバレる嘘やめてくださいって。二ヶ月ですよ」
「そ。二ヶ月が最長」




