#3
「ところで、何かあったの?」
「あ……」
司は人だかりに気付いて首を傾げた。しかしもうパトカーしか残っていないので、乱闘騒ぎがあったと嘘をついた。
廃人絡みの事件だと正直に話したら、優しい彼のことだ。心配して送り迎えを延ばしてくれるかもしれない……けど彼の心労を増やすことは避けたかった。
「俺達も気をつけませんとね。さ、行きましょ!」
「ん……うん、そうだね」
司の車で慣れた道を進む。何でも、ルーティン化すると短く感じる。初めは三十分くらいに感じていたドライブが、今では十分ほどにしか感じなかった。「まだ着かないのか」とため息をついていた頃が嘘のように、今は「もう着いてしまった」と思う。まだ降りたくない。乗っていたい。
シートベルトを外し、ドアを開けて外へ出た。空は闇に包まれ、星の粒が見える。
「司さん、ほら、星が見えますよ」
空の光を指さすと、司は辛そうに目を細めた。
「あ~……ほんとだ、すごいきれー」
「司さん、見えてないでしょ」
「バレた? ごめん、目が悪くてね……ほんとは眼鏡掛けないと運転しちゃいけないレベルなんだけどさ」
うわっ、そんな状態で運転していたのか。いつ事故ってもおかしくないじゃないか。
「まぁ、街中じゃ光害で見えませんもんね。ここらへんは何も無いからなぁ」
「何にも無いけど何でもある、ってやつだね」
「司さんが最後に星を見たのはいつですか?」
「スルーか……俺はねえ、うーんと……あれ、つい最近見たんだけどな。何だっけなぁ」
司はドアを閉めてロックする。そして悩ましげに口元を押さえた。
「家で……」
「家? 司さんの家からも星が見えるんですか?」
「ううん。俺の家じゃない。あれは……」
そこまで言って、彼はこちらに背中を向けた。何か黄昏てるのかと思い、顔を覗きに行く。もし自分の世界に浸っているならめいっぱい揶揄ってやろうと思ったが、その考えは一瞬にして消え失せた。
「司さん、大丈夫ですか!? 顔色がすごい悪い……!」
司は顔面蒼白で車に寄り掛かっていた。指先もわずかに震えていて、先程とまるで違う。このまま病院に行こうか尋ねると、彼は首を横に振った。
「今だけだよ。大丈夫」
「今だけって……じ、じゃあ落ち着くまで中で休んでください!」
このまま帰したら、それこそ事故って帰らぬ人になりそうだ。半ば強引に引っ張って、由貴は司を家に入れた。




