#2
自由な街というのは真っ赤な嘘になりつつある。下手したら日本一不自由な街だ。
黒一面の空を見上げる。珈琲を買ってカフェを出ると、車道を挟んだ向かい側に救急車が停まっていた。顔は見えなかったけど、ちょうどストラッチャーが中に入ったところだった。見れば近くにパトカーも停まっていて、周りに警官が数人立っている。
状況がさっぱり分からないが、人だかりに行くと大まかな経緯は聞き取ることができた。
「通りすがりのひとが突然襲われたんだって。多分、また廃人の仕業」
「怖いなー。これじゃ日中だって安心して外歩けないじゃん。規制しなくたって危ないの分かってるから夜中は歩かないっつーのに……やることが的外れなんだよな」
事件だ。また廃人……。
やっぱり自分以外にも被害者は大勢いるようだ。恐怖しているのは自分だけじゃないと安堵するべきか、常に襲われる危険があると嘆くべきか。
今病院に運ばれた男性が、命に別状がないことを祈る。
男性を襲った廃人は、これから刑務所に連行される。ただの刑務所ではなく、廃人だけが集められている収容所だ。中は身内しか入れない為どんな構造になってるか分からない。けど、まともじゃない精神状態の者ばかりだ。一般の囚人のような刑務作業はないだろう。閉じ込められて精神安定剤を服用させられるだけ。病院と変わらないような気もする。
司は神の家から脱出した成功者が自由を失うと言っていたけど、廃人も同じだ。人として生きる全ての自由を失う、被害者だ。
ならば、加害者は誰なのか。
「ゆーきくんっ!」
「うわああぁぁぁ!」
うなじに冷たいものを当てられ絶叫した。慌てて振り返ると、缶ジュースを持った司が笑顔で立っていた。スーツだから、彼も仕事帰りのようだ。
「司さん、心臓に悪いことしないでくださいよ!」
「ごめんね。でも俺より若いから大丈夫だよ」
何も大丈夫じゃない。ほんのわずかに殺意を覚えていると、彼は俺の珈琲を取って代わりに缶ジュースを渡した。
「はい、交換」
子どものように無邪気な笑顔。悔しいけど、この顔を見ると大抵のことはどうでもよくなってしまう。
ここ数日は司と帰ることが暗黙の了解になっていた。以前は自分が司のことを待っていたけど、あれはただのストーキングだ。でも今は司の方から連絡してくれる。そして、それを嬉々として受け入れてる自分がいた。
願わくばいつまでも続いてほしい。無理だと分かってるけど、心は正直だ。彼に必死でついていこうとしている。振り向かせたいと思ってる。それによって何を得るのか、まるで分かってないくせに。




