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Free City  作者: 七賀ごふん
Venom

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32/50

#9



時々顔を合わせて、軽くお茶して。まるで女同士の付き合いみたいだけど、一番無難な関係だと思う。


「司さん、お腹空いてませんか? 良かったら何か作りますよ」

「俺は大丈夫。今日は昼が遅かったからまだ入らないんだ。でも由貴君は気にしないで食べてよ」

「そうですか……。じゃあ、俺もまだいいです。そこまで空いてないんで」


由貴は座椅子に座り直し、ネクタイを緩めた。我が家に帰ってきた安堵感。世界で最も寛げる空間。

「はー……疲れた」

「お疲れさま」

「司さんもお疲れさまです。運転もありがとうございます」

脱力して天井を仰ぎ見る。司は静かにこちらを見つめていた。その視線に気付いたものの、あえて無視した。

倦怠感から瞼を閉じる。沈黙が続いて、何度か司の存在を忘れてしまった。この部屋には自分しかいないような気になって、眠ってしまいそうになる。

それは彼に気を許している証拠だ。他の人間なら警戒して、寝ることなんてできない。司なら大丈夫だと思っているのだ。決して、自分に危害は加えない……。


どうしてそんな風に思うんだろう。

彼が自分の味方だという保証はどこにもない。人に気を許す瞬間は中々自覚できないでいた。いつだって、気付けば無条件にドアを開いている。司はもう、自分を象る世界の住人だった。

「司さん……別れないで、とはもう言わないんで」

「うん」

「もう一度、ゼロから俺と付き合ってください」

「それ、同じことじゃん」

寝惚けながらした告白は軽くかわされた。もう何も見えないけど、彼の笑い声だけは聞こえる。

「もし迷惑じゃなければ……夕飯食べてってください」

返事はなかった。ただ優しく頭を撫でられて、それが答えなんだと勝手に解釈した。

でもそれは見事な勘違い。

数十分ぶりに目を覚ますと、彼の姿はどこにもなかった。あったのは「また明日」と書かれた一枚のメモ。


目覚ましに顔を洗い、冷蔵庫の中をあさる。ハンバーグでも作ろうとして、やっぱり面倒くさくなって生姜焼きをつくった。簡単だから得意料理ということにしている。稔にはいつもつくって食べさせていた。司には一度もない。


街に比べて家の中は変わらない。新しいニュースはないかと無意識にテレビをつけた。出来上がった白飯と味噌汁、生姜焼きを咀嚼して飲み込む。

子ども向けのアニメから料理番組、夜のニュースにチャンネルを切り替える。

頭の中でも同じことをしていた。

仕事を終えた自分、単純な自分。

最近人を殺そうとした、凶悪な自分。




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