#8
「面白い……空想ですね」
鼻で笑った。息が詰まりそうだったからかもしれない。彼を怒らせてもいいから、この重たい空気を払拭したかった。
「司さんは意外にメルヘンっていうか、非科学的なものを信じるんですね」
「ふふ……」
話を変えたい。思い返せば自分から切り出した話題だけど、もうたくさんだ。
「ちなみに、どうでもいい話をするとね。廃人さんってエンジニアが多いんだ」
森を抜けた。景色が開ける。しかし外はすっかり闇に染まっていて、森の中を走っているときと変わらない暗さだった。ここを抜けたらもう少し明るい街を見れると思ったのに残念だ。
「変な神様だよね。何でITに精通してる人ばかりなんだろう。由貴君はどうしてだと思う?」
「司さん……ちょっと落ち着いて」
子どものように目を輝かせている司を見ると、呆れてため息しか出てこない。彼の株は最近上がったり下がったりだ。昔はもちろん、常に最低ラインに位置していたが。
「俺がおかしいみたいに言って。ショックだなぁ、由貴君なら少しは食いついてくれると思ったのに」
「他の人にも言ったんですか」
「あぁ、弟にね。俺も気が弛んでるのかな、仕事でもミスばかり。ぼーっとしちゃって、最近おかしいって言われたよ。本当におかしくなった。うん。何でこんなに空っぽなんだろう」
「良い病院捜しましょうか」
「由貴君、ふざけてるでしょ」
「まぁ、はい」
元気に返すと、彼は可笑しそうに笑った。なんだ、やっぱり笑えるじゃないか。
こうしてふざけ合う分には、おかしなところなど見当たらない。仕事でミスをしてると言うけど、それは蓮沼が言っていたように他人が気付かない程度のミスなのだろう。凡人には非凡の気持ちが分からない。
仮初の恋人でもなくなった赤の他人だから、尚さら距離は遠のいた。
由貴のアパートの駐車場に到着する。停車するときはいつもより僅かに乱暴だった。砂利に乗り上げた時に後部座席の荷物が落ちた音がした。猫がいたら轢いてしまいそうなスピードだ。
どうかしたのか。こっそり横目で窺いながらシートベルトを外す。
「……あ! 司さん、この前珈琲粉持って帰らなかったでしょう。責任とって俺の家で全部飲んでいってください」
「全部って。カフェイン中毒にする気?」
笑って誤魔化すと、彼はシートベルトを外した。すんなり上がっていってくれるようだ。もしかしたら……他人だからこそ、自然体で関わることができている。自分の勝手な思い込みかもしれないけど、少し嬉しかった。
ウッと思いつつ珈琲の準備をして、テーブルの前に座る司に差し出す。もうこれだけの関係で良いんじゃないか。……そんなことを思った。




