#7
「廃人さんは人権がないって顕著に言ってるんだ。一般人に危害を加えて初めてその存在を認識される。逮捕されたらそのまま郊外の収容所に連れていかれて、衰弱するまで放ったらかしにされる」
「良くはならないんですか? 専門家の適切な治療を受けて、また普通の生活に戻れたりは」
「俺は聞いたことないね。この街の神様の噂は知ってる?」
由貴は頷いた。二個目のタブレットを取り出す。
「神様の家に侵入……失敗したら人生終了で、成功したら好きな人と一生を過ごせる。素敵だよね」
「ちょ、本気で言ってるんですか?」
「冗談。成功したらの話。失敗したら、そりゃ、最悪じゃ済まないよ」
また加速する。エンジン音が高くなった。鳥の声……いや、愉快な口笛みたいだ。
「でもやっぱりどっちも最悪かな。成功して好きな人と結ばれても、自由を失うことになるから」
「え?」
「その侵入大作戦はね、結局罰が下るってことさ。由貴君は何が自由だと思う? ……いや違うな、“どの”自由が一番大事だと思う? 時間? お金? 趣味? それか精神的な自由か、肉体的な自由か」
由貴は閉口した。答えられないというより、司が矢継ぎ早に話すことに驚いたからだ。こちらに質問しているように見えて、実際は自分が喋りたいのだろう。
好き勝手に喋ることで相手の不満を極限まで募らせ、最後に爆発させる。そうすることで本音を引きずり出せる。
それは司から教わったことだった。どんな時も相手を観察しろと言われていた。それが今は嘘のようだ。司に、自分は見えてない。
「自由の定義は人によって違う。プライオリティも違う。お金が一番大事でケチケチ倹約する人と、経験を大事として金に糸目をつけない人が結婚したら、いずれすれ違うでしょ」
「はぁ……確かに」
「……いやごめんね、脱線した。それはいいんだ。つまり、お金を制限なく使えることが自由だと思ってる人は、経済的に苦しめられる。自分らしく生きることが自由だと思ってる人は、その個性を神様に奪われる。愛を手に入れる代わりにその人なりの自由を手放すんだ。それが神様の家から脱出した人間の宿命」
こんなに淀みなく話し続ける彼は初めてだ。そればかり気になって肝心の内容が頭に入ってこなかった。
だって分からない。何をそんな高揚しているのか。




