#3
由貴は今年で二十三になった。大学卒業後に就職したIT会社で現在までプログラマとして勤務している。
初めての職場ということもあり、入社当時は周囲に驚かれるようなミスもやらかしていた。しかし今はプロジェクトチームの一員として、与えられた役割を果たしている。誰とでも積極的に関わる性格が幸いし、人間関係で悩んだことは少ない。
物心ついた時から負けず嫌いだった為、欲しいと思ったものは苦労してでも手に入れてきた。それは大切な人も同じだ。
大人になってから初めてできた恋人がいる。
由貴より三つ歳上の青年で、東川稔といった。
会社のプロジェクト先で知り合ったSEで、右も左わからない自分のことを誰よりも気に掛け、励ましてくれた優しい青年。いつしか会話がなくても目が合うようになった。
相手の心を読み取るとき、言葉は大きな障害となる。二人は交わった視線だけで互いの秘密に気付いてしまった。
同性が好き。そう打ち明けたタイミングも一緒だった。それから密かに会うようになり、肌を重ねた。由貴にとって人生で一番幸せなときだった。
二ヶ月前、稔から別れ話を切り出されるまでは。
『ごめん、由貴。俺好きな人ができたんだ』
『え』
先日とまったく同じリアクションをとった。
物事はいつだって自分の知らないところで急加速してるものだ。海面から見える緩やかな潮の流れが、まさか海中で巨大な渦を巻き起こしてるなんて……いちいち想像もしない。
ただ、このところ稔と話が噛み合わない場面が増えていた。話していてもどこか上の空で、声を掛けても反応が薄い。おまけに金を貸してほしい、と頼まれることもあった。
特別生活に困ってるようには見えなかった。彼はブランドの服や時計を身に付け、しょっちゅう買い物へ行く。しかし着飾りたいというより、由貴にはそれが特定の人物に対するアピールに思えた。
誰かに良く見られたい。が、その“誰か”は自分じゃない。稔の目には他の誰かが映っている。
それに勘づいてはいたものの、認めたくない気持ちがあった。何より面と向かって決別の言葉を告げられるまで確信を持てなかった。
エイプリルフールじゃない……よな。当然。
一体どこの誰を好きになったのか必死で訊いたが稔は最後まで沈黙を貫いた。
どうしても腑に落ちず、由貴は彼の行きつけのゲイバーに足を運び情報収集に勤しんだ。そこで辿り着いたのが、守門司という同業者の青年だ。
この界隈ではそれなりに有名人らしく、誰もが目を奪われるような美青年だという。




