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Free City  作者: 七賀ごふん
Venom

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29/50

#6



とても不思議なことが起きている。


近くに停めていた司のセダンに大人しく乗り込み、シートベルトを締めた。

最後に彼の車に乗ったのは、あのセックスの日以来で……それはまぁ気まずかった。ところが司は至って普通で、むしろ鼻歌を唄っている。あまりの温度差にため息が出そうになる。

司は発車する前、グローブボックスに手を入れてなにか探していた。

「おかしいな。ガムが入ってるはずなんだけど……」

「あっ、俺が探しましょうか」

代わりに手を入れて、中の物を確かめる。何かのプラグや車検証が入っていた。途中指先に小さなものが当たり、隅に弾いてしまった。わざわざ外に取り出すことはしなかったけど、掌に包み込んで確かめた。

この形、厚み。なにかのアダプタやレシーバー……いや、USBメモリか?

「ない?」

「ガムは~……ありませんね。あ、俺タブレットなら持ってますよ」

ひとまず“それ”から手を離し、胸ポケットに入ってるミントのタブレットを取り出した。それを司の掌に二粒出す。彼はありがとうと言って口に入れた。口寂しいんだろうが、それでも車内で煙草は我慢してるようだ。


「由貴君、この前の廃人の件は誰かに話した?」

「いえ、誰にも」

「だよねぇ。だから来たんだ」


低いエンジン音が吠える。フロントは夕影が反射していた。ちょっと眩しかった。

「誰かにSOSを発信することは大事だよ。自分を心配してくれてる人に助けを求めるのは悪いことじゃない」

「発信……してませんけど、司さんは? 司さんも困り事とか隠すタイプでしょう。それなら俺も言いません! 大人ですから!」

「子どもだなぁ」

市街を抜けてから加速した。明かりも一気に減るため街中を抜けると雰囲気が変わる。お伽噺の中に入り込んでしまったようだ。深々とした森が広がり、昼間も夜のように暗い。この森の中にも、もしかしたら廃人が住んでいるんだろうか。

最奥部には廃人だけの集落が出来上がっていて、たまたま通った人間を襲ったりとか……、自分の馬鹿げた妄想にブルっと震えた。


「司さんはこの街に住んで一年でしたっけ」

「あぁ、もうすぐ一年半」


彼は確か部署異動でこの街に来た。期限付きかどうかは知らない。何故かあまり訊きたくなかった。

「司さん、この街好きですか?」

「普通だね」

「普通? 好きでも嫌いでもない?」

「うん。でも由貴君は華奢だし気をつけた方がいいね。ここの警察はあんまし頼りにならないから……この前も警官が飲酒運転して、人撥ねた事件があったよ。撥ねられたのは廃人だったから、表沙汰に広まらなかったみたいだけど」




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