#6
とても不思議なことが起きている。
近くに停めていた司のセダンに大人しく乗り込み、シートベルトを締めた。
最後に彼の車に乗ったのは、あのセックスの日以来で……それはまぁ気まずかった。ところが司は至って普通で、むしろ鼻歌を唄っている。あまりの温度差にため息が出そうになる。
司は発車する前、グローブボックスに手を入れてなにか探していた。
「おかしいな。ガムが入ってるはずなんだけど……」
「あっ、俺が探しましょうか」
代わりに手を入れて、中の物を確かめる。何かのプラグや車検証が入っていた。途中指先に小さなものが当たり、隅に弾いてしまった。わざわざ外に取り出すことはしなかったけど、掌に包み込んで確かめた。
この形、厚み。なにかのアダプタやレシーバー……いや、USBメモリか?
「ない?」
「ガムは~……ありませんね。あ、俺タブレットなら持ってますよ」
ひとまず“それ”から手を離し、胸ポケットに入ってるミントのタブレットを取り出した。それを司の掌に二粒出す。彼はありがとうと言って口に入れた。口寂しいんだろうが、それでも車内で煙草は我慢してるようだ。
「由貴君、この前の廃人の件は誰かに話した?」
「いえ、誰にも」
「だよねぇ。だから来たんだ」
低いエンジン音が吠える。フロントは夕影が反射していた。ちょっと眩しかった。
「誰かにSOSを発信することは大事だよ。自分を心配してくれてる人に助けを求めるのは悪いことじゃない」
「発信……してませんけど、司さんは? 司さんも困り事とか隠すタイプでしょう。それなら俺も言いません! 大人ですから!」
「子どもだなぁ」
市街を抜けてから加速した。明かりも一気に減るため街中を抜けると雰囲気が変わる。お伽噺の中に入り込んでしまったようだ。深々とした森が広がり、昼間も夜のように暗い。この森の中にも、もしかしたら廃人が住んでいるんだろうか。
最奥部には廃人だけの集落が出来上がっていて、たまたま通った人間を襲ったりとか……、自分の馬鹿げた妄想にブルっと震えた。
「司さんはこの街に住んで一年でしたっけ」
「あぁ、もうすぐ一年半」
彼は確か部署異動でこの街に来た。期限付きかどうかは知らない。何故かあまり訊きたくなかった。
「司さん、この街好きですか?」
「普通だね」
「普通? 好きでも嫌いでもない?」
「うん。でも由貴君は華奢だし気をつけた方がいいね。ここの警察はあんまし頼りにならないから……この前も警官が飲酒運転して、人撥ねた事件があったよ。撥ねられたのは廃人だったから、表沙汰に広まらなかったみたいだけど」




