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Free City  作者: 七賀ごふん
Venom

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28/45

#5



普通あんな体験をしたら、困惑するか取り乱すかのどちらかだろう。親しい人に相談する、警察に行く、精神科へ行く……いずれにしても、過剰に身の回りを警戒するはず。オーバーにいくならこの街を出るという選択肢もありだ。しかし翌日、由貴はいつもどおり出勤した。

いつもと同じ時間に目覚め、同じコンビニで同じ弁当を買った。


廃人に襲われたことを誰にも言うつもりはなかった。言ってどうにかなることじゃない。大変だったね。ここら辺は物騒だからね。じゃあ帰りは気をつけて、って言われて終わりに決まってるから。か弱い女性でもなし、男を心配する人間なんてそうはいない。性差別なんてこの街にはないが、やはり多少は反応が違う。自衛は義務だと、無言の圧力が掛かる。


俺は子どもだけど、大人だ。誰にも頼らないで生きていかないと。


先日酔い潰れていた蓮沼に平謝りされ、仕事を終えた由貴は会社を出た。暑くて長い一日は脳がふやけてしまいそうだ。気分を切り替えようと深呼吸する。無心で前を歩くと、見覚えのある青年が広場のベンチに腰掛けていた。慌てて駆け寄ると、彼は笑顔で片手を上げて。


「お疲れさま、由貴君。ちょっと待ったよ」

「司さん! お疲れさまです、一体どうしたんですか……!」


司と由貴の職場は駅をまたいで離れている。彼がここに来るのは大事な用があるときだけだ。しかし、彼が口にしたのは重要度の低いものだった。

「一緒に帰ろう」

「は!?」

驚き過ぎて叫んでしまった。何度か瞬きして黙ってしまう。すると彼は手に持っていた珈琲を顔の目の前に差し出した。

「司さん、俺珈琲の香りもそんなに好きじゃないんですよ……」

「頑張って慣れな。今度お勧めのコーヒーショップに連れてってあげるから」

「えぇ……」

司のおかげで以前より慣れたものの、まだ抵抗がある。思わず後ろへ下がるけど、彼は楽しそうに笑っていた。

「もう、司さんて意外に意地悪ですよね」

「そうだね。可愛い子に対しては特に?」

可愛い子。瞬時に理解できなくて首を傾げた。

「あ、お酒は好きなんだからブランデーコーヒーでも作ろうか」

「そんなぁ……ほんとに大丈夫です!」

冗談ではなく苦手なので声が上擦る。そこでようやく司はゴメンゴメンと手を合わせた。

「さてと。それじゃ家までついていくね」

「え!? 何でです?」

「また襲われたら大変だから、しばらく帰りはボディガードとして迎えに来るよ」

どう反応したらいいか分からなかった。とりあえずネクタイを締め直し、誰かに聞かれてないか辺りを見回した。




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