#3
「由貴君は良い子だけど、攻撃されたらつい倍返ししちゃうんだよね。さっきの人も、あと少しで君に殺されるところだった」
司は子どものようにあどけない顔で笑った。
「君が手を汚す必要はない。この街の刑務所は劣悪だよ。だから本当に殺したくなったら俺に言って。俺がその人を殺してあげる。君は幸せだし、俺は不幸せだし、一石二鳥だ」
何で別れた相手にそんなことを言うんだろう。
聞けば聞くほど頭がこんがらがる。司の言葉は壊れたラジオのようだ。
「司さん……不幸になりたいんですよね?」
「あぁ」
「じゃあやっぱり、俺と一緒にいてください。俺は司さんを不幸にする自信がある。誰よりもあります。だから一緒にいて……このまま、離さないで」
身体を彼に預ける。もう繋がった部分はドロドロで、感覚が麻痺していた。このまま彼に貪られて、彼のものになるのも悪くない。好き嫌いの物差しじゃない。生きる為に必要なものを手に入れようとしてるだけ。一種の祈りに近かった。
仕事に行きたくない、独りで帰りたくない。たっぷり眠りたい。もう全部嫌になって、我儘な子どもに返った。
最低な自分の面倒を見てほしいのだ。面倒を押し付けようとしている。なんて浅ましい欲望。
それを見透かされたのか、司は微笑んだ。
「もう子どもっていうより、赤ん坊みたいだね」
しかし司はそれら全て叶えてくれる、恐ろしい人だ。
黒ずんだ笑みは言葉じゃ表せない愉悦を呼び起こす。
今自分の心を埋めてくれるのは彼しかいない。もし彼を崖から落とそうとする人間がいたら、自分はその人間の後ろに回って突き飛ばしてやる。そして最後に自分も飛び降りたら、爽快だ。
だが、司はどうして不幸になりたいのか。
本当はその考えを改めてほしいけど、自分は彼を不幸にする力があると思う。彼の病んだ望みを叶えられると思う。
もう大人なんだ。
どれだけ子どもだと笑われても、赤ん坊は人を殺そうとしたりしないから。




