#11
人の目を気にしなくていい。
セクシャルマイノリティが……いや、カテゴリーなど関係なく誰もが自分らしく生きられる。自身が選択し、夢を持って笑うことができる。
そうだ。
自由な街と聞いたから、ここに住みたくて就職先を決めた。興味のあった会社には社宅がついていた、というそれだけでの理由で入社した。
こんなはっちゃけた街に来たからには恋愛もしたいと思っていた。ドラマチックな出逢いや刺激は求めてない。地味な付き合いでいいから好きな人を見つけたかった。
それらの思いがちょっとずつ削り取られている。蓮沼から聞いた話が決定打だった。謎の流行病に、年老いたら追い出される街。普通じゃない、馬鹿げている。何が住みやすい街だ……住民の幸福度の低さが全てを物語っている。
若い人間しか入れたくない街。新鮮なときが終わったら用済みって、まるで生鮮食品だ。
この街に来なければ、稔にも司にも会うことはなかった。浮かれては沈んで、周りを巻き込んで。ここへ来たのは全部全部、間違いだったか。
風が吹く。薄紫の雲か流れる。
小さな路地を右に曲がった時だった。突き刺さるような視線を感じた。
踵が鳴る。辺りを見回して、誰もいないことを確認した。
何だろう。
夜道に気をつけろ、と言った蓮沼を思い出した。でも周りは静かだ。酔ってるから逆に過敏になってるのかもしれない。
鞄を抱きかかえて再び歩き出す。その時、足元の影が倍は大きくなった。振り返る時間は与えられなかった。口を手で塞がれ、すぐ脇の庭に引きずり込まれる。強い力で倒され、上から押さえつけられた。暗がりのせいで顔が分からないが、間違いなく男。尋常じゃなく息が荒く、刺激臭が鼻についた。
正気じゃない……。彼の冷たい手がシャツを捲り上げたときに確信した。こいつは男色の廃人だ。
「ん、んーっ……!!」
嫌な手つきで胸を撫で回される。ひたすら気持ち悪くて寒気立った。蹴り飛ばそうにも太腿の上に馬乗りされてる為、暴れることもできない。
ジッパーを下ろされ、萎縮した中心を鷲掴みにされた。しかしどれだけ擦られようと、硬くなることはない。嫌悪感しか湧かず、呻き声しか上げられなかった。
嫌だ、嫌……逃げなきゃ。
本当は気持ち悪くて嫌だったけど、口に当てられている彼の掌を思い切り噛んだ。男は痛みで絶叫する。一瞬の隙をついて逃げ出した。
男は呻きながらも追いかけてきた。それに気付き、慌てて前を直し住宅路に出る。逃げて、逃げて……なのに人がひとりもいないことが不思議でしょうがなかった。もしかして自分をハメる為のゴーストタウンに切り替わったのでは、なんて妄想をした。
誰もいない。歩道橋に上って月を見た時、あぁ、と声がもれた。
今だ。今こそ飛び降りたい、ただの肉の塊になりたい。
それができなければ……いっそ、あの男を突き落としてやりたい。




