#7
何か喋った方が良い気がする。相手や状況によっては黙ってた方が得する時もあるけど、蓮沼の足取りは軽快。上機嫌に見える。
上司は煽てて損はないと司から教わった。ゴマすり上手が出世する。だから俺も役職に上がれたんだよ、と笑っていた。けど彼の活躍は他社にまで轟いている。結局いつもの冗談だろう。
「蓮沼さんってすごいですよね。どんな難しい案件もすぐにこなされて」
考えた末、とても陳腐な褒め言葉が飛び出した。笑って話したけど、これはほとんど自分に対する苦笑だ。
ゴマすりも含め自己嫌悪に陥る。しかし蓮沼は笑顔で振り返った。
「そう? 俺すごいミスしてるよ」
「ええ、ミスなんてしてます?」
「もうやばいやばい。上手く隠してるだけだよ。バレる前に修正してるんだ」
「そうなんですか」
なるほど、叱責する立場も大変だ。他人事のような相槌を返してしまったけど、滅多に見ない彼の困り顔がしばらく頭の中に張り付いていた。
「花岡は入社して四、五ヶ月か。……この街は慣れた?」
「慣れたような、慣れないような。あ、会社の雰囲気はさすがに慣れました」
「はは、そうか。何か困ってることは?」
たくさんあるけど、上司に相談できる内容はひとつもないので首を振る。代わりに別の質問を引っ張り出した。
「静か……この街って子どもが全然いませんね。公園はあるけど遊具がない。おもちゃ屋もない。学校とかあるんですか?」
「学校? そりゃあるよ。でも少子化はこの街じゃ大して問題提起されてないから、減ることはあっても増えることはないかもな。みんな街の外からやって来て、いずれ他所の街へ移る。ここは同性愛者のいっときの楽園だろ」
住みやすい都市開発って、完全に同性愛者の為のものだったのか。ニュースを見てるだけじゃ内情は分からない。増してや、自分のように外から入ってきた一般人には。
子どもがいないことばかり気を取られたけど、蓮沼にもうひとつ気付いたことがないか訊かれた。分からないと答えると、彼は老人もいないだろ? と笑った。確かに……お年寄りもあまり見ない。ここはオフィス街だけど、自宅の近辺でも見かけない。散歩におあつらえ向きの自然公園、図書館、役所、病院。お年寄りがいそうな場所も、思い返すと微妙なところだ。
「弱者に厳しいんだ。若い世代だけ置いて、常に輝いてる未来の街に見せたいんだよ」
子どもは初めから入れないし、お年寄りは追い出すシステムだそう。まったく良い具合に狂ってる。




