#5
窓の外の月は紅く見えた。
夜が更けるにつれ緊張していた心が次第にほぐれていく。音のない小さな部屋で二人きり。初めて会った頃のようなこそばゆい感覚。邪魔は入らないし、今なら何でも言える気がした。
「司さん」
「うん?」
声を掛けると彼は笑顔で振り返った。もう、いっそ訊いてしまおうかと思った。
東川稔を知ってますか? 知っていたら、彼とどういう関係ですか、……と。
例えはぐらかされたとしても、一瞬の反応を見たい。その後のことなんて全部忘れて、会った時からずっと手に持て余している自爆スイッチを押したかった。
でも押せない。
自分だけ高い場所から飛び降りるのとはまた違う。今爆発したら、隣にいる司を巻き込む。
復讐してやろうと思っていたのに、それを実行する勇気と元気がない。大体何の証拠も掴めてないから、彼を傷付ける理由が見つからなかった。
情けないが一歩前で躊躇してる自分がいる。真実を知ることが怖いと喚いてるんだ。
「……すいません。何でもないです」
頭を軽く下げ、話を閉じた。これほど臆病になった原因はひとつ。
司を他人と思えなくなってしまっている。それに気付いたら一層恐怖が高まった。
恐ろしい夜だ。独りだったらおかしくなってしまいそうな時間を、彼に抱かれながら過ごした。
「そうだ。由貴君、珈琲はいつでも待ってるよ」
翌朝、司はそれだけ言い残して帰っていった。
自分もそうだが、本当に変わった人だ。元彼に変わらないテンションで関わって、……まだ関わるつもりでいるとは。
今日は休日。顔を洗ってから、買い物ついでに散歩へ行くことにした。
「はあぁ……」
クレイジーな人に違いはない。……それとも、この街の人は皆そうなのか。生に奔放だから性にも奔放とか。いや、上手くないな。
愛に溢れた街と言っても、“それ”は地面に落っこちてるわけじゃない。さがしてすぐ見つけられるのは浮浪者だけだ。浮浪者と、廃人。
遊歩道を歩いてると早速、誰かが絶叫して車道に飛び出した。




