#4
ふぅと息を漏らすと、白い湯気が方々に散った。小さなソファに二人で腰掛け、肩はずっと触れている。数週間前を振り返ると現実味がなくて、自分から司にずいずいと寄りかかった。振り払う素振りはない。やっぱり、優しいんだ。
「あなたといると自分の性悪を自覚できます。俺も含めて、今まで自分勝手な人しか見たことなかった。周りの意見を公平に聞いて、後で上手く纏めて、みたいな人間が一番嫌われたんです。狡い立ち位置だって」
瞼を伏せた。倦怠感もあり、寝ようと思えば瞬時に眠ることができた。
「でもそれって本当に狡いのかな。言われっぱなしは納得できないから、何か言い返したくて。大抵怒られる時は俺が悪いんだけど、ほら……正論ほどムカつく時ってあるじゃないですか。言葉にはちゃんと言葉で返して、非を認めて、罰を受けて……って思うんですけど、子どもなんでどうにも……」
「そういう時はどうするの?」
「飛び降りますね。ビルの階段を駆け上がって、最上階から飛び降りる妄想をします」
ミルクティーを飲みきって、空になったカップをテーブルに置いた。
「それから、地面に落ちて肉が弾け飛ぶところまでちゃんとイメージするんです。すると何かすごい落ち着くんですよ。うじうじ悩んでる俺が死んだなって安心する。……って、こんなこと話したの司さんが初めて。マジで頭おかしいんで、できればあんまり人に言わないで……内緒にしてもらえると助かります」
「言わないよ」
司は笑って珈琲を飲む。一方的に喋ったことで心配したけど、退屈はしてないみたいだ。すっかり寛いで脚を組んでいる。
変な時間、変な空間。これはいつまで続くんだろう。
壁にかかった時計を見ると、もう二十二時を回っていた。
「あ。不幸になりたいってことは、司さんもそういう想像するんですか? 自分がいつか、惨い死に方をする想像」
恐ろしく失礼なことを訊いた。どんな良い人でも不快に思う質問だ。しかし、司はそれすら表情を変えずに答える。
「しないよ」
ガラス玉のような瞳。くっきりと出た笑窪。非の打ち所がない笑顔。
なにかに似てるな。確か、あの……妹が誕生日に買ってもらってた大きなドール。無機質で、笑顔を浮かべる為だけに作られたモノ。
人を笑わせる為に笑ってる。何だかあやつり人形みたいだった。




