#2
「ふふ……」
司は笑った。
「由貴君、あんまり子どもみたいなこと言っちゃ駄目だよ。俺だから良いけど、新しい恋人ができたら自分から引くことも覚えて。押して押してじゃ気後れする人もたくさんいるからね」
「……申し訳ないけど、俺はガキです。特に、司さん相手ならいくらでも子どもになる」
それまで真っ直ぐ道を走っていたのに、突然ハンドルを切って路肩に停車する。街中から離れた林道だった為、辺りも車内も闇の中。隣にいる司の顔すらよく見えない。
何故停まったのかも分からないし、黙っている彼に少なからず恐怖心が募る。しかし逃げる気はこれっぽっちもなかった。司が逃げることはあっても、自分から逃げることはまずない。むしろこの数週間は彼を捕まえるための期間だった。
とはいえ、長い沈黙は悪い兆候だ。
「……怒りましたか」
「怒らないよ。むしろ可愛いなぁと思った。由貴君はわんぱくっていうか、怒られるために人を怒らせるんだね」
「それはどういう……」
意味、と訊こうとした。しかしその為に開いた口は塞がれる。隣へ乗り出してきた司に身体を引き寄せられ激しい口付けを交わした。
妙な体勢で身体が捻れ、おまけにシートベルトが胸に食い込む。それは司も同じはずだが、お構いなしにキスは続いた。
「由貴君も、俺に何か隠してるでしょ」
「ふ……あ」
淫らな糸を引く。やっと表情を確認できるまで離れたものの、暗がりの中で光る唾液が熱を上げた。
ここしばらく誰にも触れられなかった。身体の中に篭った熱がここから出せと暴れ回る。絆されそうになりながら、必死に首を横に振った。
「隠してることなんてありません」
「俺の目を見て言える?」
「いっ……言えます」
でも、目を合したのは一瞬だった。今は動揺が勝ってしまっている。
稔の為に近付いたこと。バレてないはずだけど、彼の目は全て見透かしているように強い光を灯していた。今ついた嘘さえも暴かれてしまいそうで怖い。
それに、自分は罪悪感に打ちのめされている。司は今まで、仕事が終われば直行で会いにきてくれていた。誰かと長電話をしたり、スマホを手放さないなんてこともない。稔どころか男好きの尻尾すら掴めない二ヶ月だった。
この人は誰とも付き合ってない。稔とも関係を持ってない。……今はそう思えてならない。
だから怖くて仕方なかった。浮気性な人だと思いたかった。いや……。
せめて、悪い人なら良かった。




