第9話:それから問題もやってくる
王城へと向かう坂というのは少しばかり、いやかなり急勾配だ。暑い日なんかに登れば汗だくになって疲労感は凄まじいことだろう。
運動不足の人間が登るものなら足腰が痛くなるのは歩かなくとも分かることだ。
そんな坂をジークフリートはだるそうに死にそうになりながら登っている。彼の様子をヨハンは隣で歩きながら見ていたのだが、この人は大丈夫だろうかと心配になった。
アリィーとラッシュは少し大きくなったチャーチグリムの背に乗っていて、楽しそうにきゃあきゃあ騒いでいる。
子供とはなんとのんきなものなのだろうかと思ってしまうぐらいには危機感の無い様子だ。
「殺す気か、この坂!」
「初めてじゃないでしょうが」
「そうだけどな! 毎回、思うだよ、この坂は殺す気かってな!」
王に召集されるたびに毎度毎度、文句を言っているらしく「土地の問題だ」と返されるのだとジークフリートは愚痴る。
土地の問題をどうこう言われても困るなとヨハンは毎度、文句を言われている人に同情した。
そんなヨハンに気づいてか、「お前まで言うか」とジークフリートは眉を下げている。「まぁ、言いますね」と甘やかすことなく返すヨハンに彼は「ひでぇ」と口を尖らせていた。
暫く坂を登ると門が見えてきた。人の背丈以上もある頑丈な門扉が王城前を厳しく守っている。
両脇には兵士が立ち、周囲を警戒するように目を光らせていた。一人の兵士がジークフリートに気づくと、驚いたように目を瞬かせながら駆け寄ってくる。
「如何なさいましたか、ジークフリート様!」
「こいつの父親は何処だ」
ジークフリートはチャーチグリムの背に乗っているラッシュを指さす。
すると、今度は別の兵士が「ラッシュ!」と大声を上げて慌てた様子で近寄ってきた。
「あ、おとうさん!」
「ラッシュ! 何をやったんだ!」
「この子は何もしてませんよ。迷子になっていただけです」
ラッシュをチャーチグリムから降ろして抱きかかえる兵士にヨハンが経緯を話すと、彼は「ご迷惑をおかけしまして……」と頭を下げる。
ジークフリートは「謝辞はいいからさっさと息子を家に連れて帰れ」と腕を組んだ。
疲れた様子を見てか、もう一人の兵士が「休まれていきますか?」と提案する。門番は交代制で近くに待機所があるのでそこで休まれてくださいと言われて、ジークフリートは何とも渋い表情を浮かべた。
「俺が王城にいるとなると召喚士の奴らが集まってくるからなぁ」
「そりゃあ、ジークフリート様は数少ない王直々に認められた召喚士様ですから」
「とりあえず、俺が来たのは内緒にしてくれ」
「わかりました」
ラッシュは父親に連れていかれたので問題はないだろう。父に叱られたというのに懲りている様子はなく、「おじさんとおにいさんバイバーイ」と手を振っていた。
あれは図太い人間になりそうだなとヨハンは手を振り返しながら思う。
残った兵士に「丁度、交代の時間なんで」と言われて彼についていくと、門の奥の端に小屋が建っていた。小屋とはいえ、王城の敷地内にあるだけあってレンガ造りの立派な建物だ。
室内に入れば丁度、交代に出ようとしていた兵士が扉の前にいた。ジークフリートを見て驚いていたが訳を話せば、「あいつの息子はやんちゃだって言ってたな」と笑う。
「狭いところですが休んでいってください」
「召喚士のやつらには内緒な」
「はい、承知しました」
兵士にそう声をかけてからジークフリートはやっと休めると待機所に置かれたソファに座ろうとした時だった――咆哮が響いた。
「なんだ!」
兵士たちと共に外に出れば、王城の裏手から煙が昇っている。何かあったのかと騒がしくなる王城内だったが、何人かの魔導士たちが慌ててやってきた。
彼は「今年の生徒たちは覚えが悪すぎる!」と頭を抱えている。
なんだろうかとヨハンがその魔導士たちを見ていると、彼らが一斉にこちらを向く。ジークフリートを見つけるやいなや、「ジークフリート様!」と飛んできた。
「ジークフリート様、ご協力を!」
「どーせ、面倒なことだろう!」
「頼みますよ! 今年の召喚士予備生が酷くって!」
魔導士たちは縋りつきながらジークフリートに頼んでいる。どうやら、あの煙は召喚士として訓練をしている予備生が起こしているらしい。
ヨハンは召喚獣が暴走でもしたのだろうかと煙のほうを見た。
「便利屋でしょ!」
「あー! そういう時だけ言いやがって! わかったよ、ちゃんと依頼料払えよ!」
どうやら、ジークフリートは依頼としてその頼みを聞くようだ。「いくぞ!」と彼に呼ばれてヨハンは王城の裏手へと入っていった。




