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世話焼き召喚士の便利屋生活  作者: 巴 雪夜
第二章:誰が嫁じゃい

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第7話:迷子探しも便利屋の仕事

 二階の窓から陽ざしが射しこみ、心地良い風が吹き抜ける。昼を少し過ぎた頃、ヨハンはキッチンに立っていた。カリカリに焼かれたベーコンと目玉焼きを皿に盛りつけて、テーブルへと置く。


 こんがりと火の通ったソーセージに溶けたチーズをかければ食欲をそそる匂いが漂う。テーブルの上にサラダと一緒に置けば、昼食の完成だ。


 パンも焼き上がったばかりで温かい。ヨハンは椅子に座りながら本を読むジークフリートに淹れたてのコーヒーを差し出した。


 掃除中に見つけた懐かしい書物にジークフリートが読みふけっている。


 見つけては目を通して夢中になるを繰り返しているので、なかなか掃除が進まないのだがヨハンはもう慣れてしまった。



「食事中は読まないでくださいね。本が汚れたらいけないので」


「すまんすまん。にしても、相変わらず美味しそうな料理を作るなぁ」



 本を閉じてジークフリートはフォークを手にソーセージを頬張る。美味しそうなとはいうけれど、それほど難しい料理ではない。


 素人でも作れるのではないだろうか、なんて言っても「俺には無理」と返されてしまう。



「やはり美味い」



 美味しいと言いながら食べるジークフリートの姿にヨハンはまんざらでもなかった。どんな料理でも彼は美味しいと言って食べてくれるから作り甲斐があるのだ。



「いろんな本がありますけど、研究とかしてるんですか?」



 とは言わずに、たくさんある書物の話題を振る。ジークフリートは「研究なんてしてないな」と即答した。自分はそういった難しいことに興味はないと。



「読むのは好きだが、実際にしたいとは思わん。専門書もあるが、生態図鑑や逸話、創作された物語なんかが多い」


「読書家なんですね」


「読んでみると面白いものだぞ」



 生態図鑑ならば、多種多様な生き物たちのことを知れる。創作された物語ならば、空想に浸って楽しむことができる。


 専門書ならその分野の知識を身につけることができるのだ。それが面白いのだとジークフリートは教えてくれた。


 ヨハンも本は読んだことがある。創作された物語にどっぷりとハマった経験はあるので、わくわくした気持ちは分からなくもなかった。



「しかし、少年は料理もできて、掃除もできるとなるといつでも嫁に行けるなぁ」


「なんで嫁に行く前提なんですか」



 せめて婿だろう。ヨハンの突っ込みにジークフリートは呼びやすいじゃないかと返す。


 そういう問題じゃないと言うけれど、彼は「女性に人気だったんじゃないか?」と話を進める。



「これだけできる男なんだから、女性に人気だろう」


「そうでもないですよ」



 貴族階級持ちは自分で何かするというこは殆どない。もちろん、爵位が低い家系はそうではないけれど、侯爵家であるヨハンの周囲は召使いや料理人がいた。この家事スキルも自分の趣味みたいなものだ。


 暇つぶしに料理を覚えてみたり、掃除をしてみたり。そうやって身につけて趣味として語れば、周囲は「それは召使いがやることだろう」と嘲笑う。


 料理に関しては「わたくしもお菓子作りが趣味」と言ってくれる令嬢はいたが、掃除に関しては理解してもらえることが少ない。


 交流のあった令嬢令息からは「世話焼きだよね」と遠回しにからかわれてしまう。


 ヨハンが「全くと言っていいほど受けは良くないです」と断言すれば、ジークフリートは貴族の考えはよくわからんと片眉を下げた。



「少年は普通の考え方を持っているから接しやすいがなぁ」


「別に女性に人気なんてなくていいですよ。結婚できなくても生きていけますしぃ」



 跡継ぎは兄が勝手にやってくれるのだから、自分は急いで結婚相手を探す必要はない。


 好きになった人が現れた時に考えればいい。ヨハンの考えにジークフリートは「そうだな」と頷く。



「急ぐ必要はないな。というか、今抜けられたら困る、俺が」



 美味しいご飯が食べられなくなるのは困るとジークフリートが真面目な顔で言うものだから、「貴方は嫁を探しなさい」とヨハンは突っ込んだ。



「貴方こそ、探すべきでしょ」


「ほら、相手を知るにも時間がかかるだろ?」


「面倒くさいだけでは?」


「ほら、あれだ。少年が嫁ってこと」


「誰が嫁じゃい」



 いつから嫁になった。ヨハンが突っ込めば、ジークフリートは「名案だと思ったんだがなぁ」と残念そうにベーコンを口に頬張った。


 残念にされるとそれはそれで困る。本気なのか、冗談なのか分からなくなるじゃないかとヨハンが眉を下げた時だ。



「だれか、いますかー!」



 大きな声が一階からした。それはもう声量がある。びっくりしてしまったが、呼ぶということは依頼かもしれない。ヨハンは急いで一階へと降りていく。


 店舗と繋がる扉を開けてみれば、半泣きの少女が立っていた。白いワンピースが良く似合う少女は祈るように手を握りながら涙を堪えている。


 何事かとヨハンが「どうかしましたか?」と駆け寄った。



「何かありましたか?」


「わ、わたしの妹がいなくなって……」


「妹さんが?」



 少女は涙を拭いながら話し始めた。時は数刻前、少女とその妹は母にお使いを頼まれて市場へ向かった。


 頼まれた食材を買ってさぁ、帰ろうとしたところ妹の姿がなくなっていたのだという。


 市場中を探したけれど見つからず、人にも聞いたが見ていないと言われたらしい。


 母親に心配かけたくなくて妹と一緒に外で遊んでくると伝えて出てきたのだと少女は泣き出してしまった。


 早く見つけないと母親が心配してしまう、けれど自分では探すのにも限界がある。


 そこで便利屋を頼ったのだと言われてヨハンはこれは憲兵がする仕事ではと思ってしまった。


 便利屋の仕事の範疇ではないような気がしてヨハンが悩んでいれば、後ろからジークフリートが「あー、迷子探しな」と特に気にしていないといったふうに返事を返す。



「妹の私物は持ってきているか?」


「ハンカチが、ありますっ……」


「いや、これご両親にお話するべきことでは?」


「そりゃあ、言うだろ」


「お母さんに言ったら、心配しちゃう……」



 迷子となれば危険な目に遭う可能性がある。それを親に黙って探すということはできないとジークフリートに言われて、少女は「でも……」と不安げな声を出す。



「黙っているほうがもっと心配かけるだけだぞ。お兄さんが一緒に行ってやるからちゃんと話しなさい」



 ジークフリートに諭されて少女は泣きながらも頷いた。


 一応は納得してくれてほっと息をつくも、少女を親元に帰して妹を探すとして、これは便利屋がすることなのだろうかとヨハンは疑問を抱く。



「と、いうかこれって便利屋の仕事ですか?」


「うちはなんでもやるぞ。ペット探しもやったし、家探しもした」


「召喚獣の無駄使いだ……」


「いーんだよ、無駄遣いで。戦争の道具よりかマシだろうが」



 ジークフリートは本棚に埋もれるようにある書物机の上から書類を取り出してから、「ほら、さっさとお前も準備しろ」とヨハンを促した。


 この便利屋の経営者である彼が受けるというのだから、従業員の自分には断る理由もないかとヨハンは納得して本棚の傍に立てかけていたロッドを手に持った。


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