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世話焼き召喚士の便利屋生活  作者: 巴 雪夜
第一章:だらしない系天才召喚士の世話を焼く

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第6話:誰かの手助けをするのも悪くはない

 いくつかの薬草を食卓のテーブルに置いて、すり鉢から煎じた薬を取り出す。


 それから調合に使う機器を使って混ぜ合わせること数分。イザベルに「できたわよ」と呼ばれた。



「はい、これで薬は完成。毎日、朝と夜に飲ませるんよ」


「ありがとうございます!」



 イザベルは調合して小分けにした薬を幼子の父親に差し出した。彼は何度も頭を下げて礼を言うので、イザベルは「気にせんでいいのよぉ」と笑みを見せる。


 依頼はこれで完了したのでジークフリートが「俺らはそろそろ帰るぞ」と声をかければ、幼子の父親は依頼料をと言って朝に採っただろう野菜を籠に入れて渡してきた。



「本当にこれだけで良いのでしょうか……」


「それでいい。ないもん要求したりしないさ。イザベルは麦でいいんだな?」


「構わんよぉ」



 イザベルは「麦も十分良いものだからねぇ」と嬉しそうにしていた。幼子の父親はまだこれで良いのだろうかと不安そうにしている。


 が、ジークフリートが籠をさっさと受け取って家を出たので、それ以上は口にしなかった。


 ジークフリートは「ペガサスを馬車にするか」と言って詠唱する。貴重な召喚獣の無駄遣いではないだろうかとヨハンは思ったけれど、彼は召喚したペガサスに荷車をつけだしたので突っ込むのをやめた。


 ペガサスもペガサスで嫌がることもなくジークフリートに従順な様子なので問題はないのだろう。


 その様子をヨハンが眺めていれば、ちょいちょいと服の裾を引っ張られた。


 なんだろうかと下を見遣れば幼子が「あの」と声をかけてくる。何かあったのかとヨハンが視線を合わせるようにしゃがみ込むと、幼子は手に持っていたぬいぐるみを差し出す。



「あのね、ありがとう。おれい」



 お母さんを助けてくれて、自分を魔物から助けてくれたお礼だと幼子はぬいぐるみを突き出す。


 それは大切に手入れされているように綺麗な兎のぬいぐるみだった。



「ぼくにわたせるのはたからもののうさたんしかないから……おれにになるかはわからないけど……」


「あぁ、なるほど……」



 幼子の意図を察してかヨハンは頷く。彼は自分も感謝を伝えてお礼がしたかったのだろう、大事な母親を助けてくれた人に。


 けれど、子供である自分にできることなど限られていて、渡せるものは大切にしている宝物の兎のぬいぐるみだけだった。



「お礼ならばお父さんから貰いましたら大丈夫です」


「でもね、でも、ぼくもおれいをしたんだ」



 助けてもらったのはぼくなんだから。見上げながら目を合わせてはっきりと言う幼子にヨハンは目を瞬かせる。



「おれいはちゃんと言わなきゃだめなんだよって。だから……」



 幼子の想いにヨハンは優しげに目を細めると「大丈夫ですよ」と微笑む。



「貴方のありがとうという感謝の言葉だけで十分ですよ」



 ヨハンの言葉に幼子は目を丸くさせながら首を傾げる。そんな様子にヨハンは彼の頭を優しく撫でた。



「その大切なうさたんと一緒にお母さんを見守ってください」



 それは貴方に必要なものでしょうからとヨハンは言って立ち上がると、準備ができた様子のジークフリートの元へと向かう。


 その背を幼子は見つめてからはっと我に返って「あの!」と声を上げた。



「ありがとう、おにいちゃん!」



 幼子に軽く手を振ってヨハンは荷車に乗った。全員が乗ったことを確認してペガサスはジークフリートの指示にゆっくりと翼をはためかせる。


 すうっと空を駆けていくペガサスに幼子は見えなくなるまで手を振っていた。



「なんだった?」


「お礼を言われましたね」


「それでどうだったよ」


「……誰かの手助けをするというのも悪くないなぁと思いました」



 便利屋なんてただの雑用みたいなものだろうと思っていたけれど、誰かに感謝されるというのは悪くないのだなとヨハンは感じていた。それは幼子の心からの感謝があって気づいたことだ。


 そんなヨハンにジークフリートは「そうだろうよ」と笑う。便利屋も悪い仕事ではないと言うように。



「金じゃ買えない気持ちっていうのはあるもんだ」


「そうですね」


「にしても、あんたさんは欲がないけどねぇ」


「俺は特に欲しいもんがねぇからなぁ」



 イザベルに「もうちょっと欲があってもいいと思うわぁ」と言われて、ジークフリートは「無理だな」と即答する。


 それほどに今はこれといって欲しいものというのはないようだ。そんなジークフリートだからこの便利屋をやっていけるのだろう。



「帰ったら昼飯だな。その後は……」


「掃除をやりましょうね」



 掃除と聞いて嫌そうに顔をしかめるジークフリートにヨハンはにこっと笑みを返す。店舗部分はまだまだ終わりそうにないのだから、少しずつ進めますよというように。



「今日はもういいだろぉ」


「駄目です。だいたい、なんであそこまで散らかすことができるんですか! 本棚に仕舞えないからといって、床に置くっていうのもやめてください」


「嫁さんみたいな小言を言うなよ、少年」


「誰が嫁ですか!」



 べしっとジークフリートの肩を叩くも、彼は笑うだけだ。全くとヨハンが息を吐き出せば、イザベルに「あらいいじゃない」と言われてしまう。


 あなたはだらしないのだから、これぐらい引っ張ってくれる人が丁度いいわよなんて。



「私にも選ぶ権利はありますよ、イザベルさん」


「うーん。そこは目をつぶってやね」


「お前ら、何気に酷い事を言ってないか?」



 俺だって頑張ってんだぞとジークフリートが主張するも、イザベルに「生活能力がねぇ」と返されてしまい、彼は拗ねたふうに口を尖らせる。


 拗ねさせてしまったか。少しからかいすぎてしまったかなとヨハンは今日の昼は彼の好きなものでも作ってあげることにした。機嫌を取るわけではないけれど。



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