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世話焼き召喚士の便利屋生活  作者: 巴 雪夜
第一章:だらしない系天才召喚士の世話を焼く

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第5話:毎回、役に立とうなんて考えなくていい

 再び森へと戻ったジークフリートはクリスタルウルフを召喚すると、月夜草の匂いを嗅がせて指示を出した。


 生い茂る草木など気にすることもなくクリスタルウルフは匂いを辿っていく。獣道を歩きながらヨハンは周囲を警戒していた。


 魔物だけでなく、獣も生息している場所なのでいつ遭遇するか分からないからだ。


 そうやって歩くこと暫くしてからクリスタルウルフは立ち止まった。


 くんくんと茂みの中を嗅ぐとジークフリートのほうへと顔を向ける。茂みの中を掻き分ければ、ひっそりと月夜草が咲いていた。


 二つほど静かに咲いている月夜草をヨハンが摘む隣で、ジークフリートはクリスタルウルフの頭を撫で褒める。


 クリスタルウルフは嬉しいのか尻尾をぶんぶんと振ってじゃれついてきた。



「落ち着け、クリスタルウルフ」


「よく懐いていますね」


「まぁ、よく召喚するからな」



 クリスタルウルフの嗅覚というのは鋭く、物などを捜索するときに重宝するためよく召喚しているのだという。


 ジークフリートに「あまり会わない奴にはこんな態度をしないのは人間だってそうだろう」と言われて、確かになとヨハンは納得した。


 それほど顔を合わせない相手には他人行儀になるのは種族関係ないのだ。



「生活態度に難はありますけど、召喚獣の扱いはしっかりしてますね」


「それ、褒めてねぇな?」


「本当のことですし」



 生活態度が悪いのは本当のことなのでジークフリートは眉を寄せつつも反論しようとはしなかった。


 自覚はあるのだなとその様子にヨハンは感心しつつ、クリスタルウルフへと目を向ける。ジークフリートに懐いているのは彼にべったりくっついていることで分かった。


 ぴくりとクリスタルウルフは耳を揺らしてジークフリートから離れると森の奥へと目を向けて姿勢を低くする。何かを見つけたその様子に二人は茂みのほうを見た。


 ぬっと顔を出したのは大柄な狼だった。本来の大きさの倍はあるだろうその黒い狼はクリスタルウルフを見つけると牙を見せる。その側には別の狼がいて、ヨハンは見覚えがあった。



「あの狼はクリスタルウルフに遊ばれていたやつでは?」


「あー、リーダー連れてきたかー」



 面倒げにジークフリートは頭を掻く。どうやらあの狼はクリスタルウルフにやられた仕返しにと、リーダーを連れてきたようだ。


 根に持つタイプの魔物だったらしく、ジークフリートは「どうすっかなぁ」とリーダーウルフを見ている。


 そうジークフリートが悩んでいるのに気づいていないのか、クリスタルウルフがばっと飛び駆けていった。



「あぶなっ……」



 ヨハンがそう声を上げる――クリスタルウルフはリーダーウルフに飛び掛かるとじゃれ始めた。


 遊び相手がやってきたというふうにじゃれつき、その勢いにリーダーウルフは困惑しながら地面に転がる。馬乗りになってクリスタルウルフは尻尾を振りながら遊ぶ。


 予想していたことと違った状況にヨハンが目を瞬かせながらジークフリートを見遣ると、彼はこうなるかと分かっていたように頭を掻いていた。


 リーダーウルフが呻るもクリスタルウルフは気にすることはない。


 牙を向けられているというのにそれをものともせずにじゃれつき、甘噛みをし、遊んでいるクリスタルウルフにリーダーウルフはなすがままだ。



「これ、どうするんですか」


「リーダーウルフが根負けするだろ、多分」



 ジークフリートはそう言って二匹の様子を眺める。彼の言う通り、リーダーウルフはクリスタルウルフの行動に気圧されてか牙を向くことはなくなった。


 なんとかクリスタルウルフの拘束から抜け出すと、リーダーウルフは一睨みしてから傍で固まっていた狼を引き連れて逃げていった。



「クリスタルウルフってこんな性格でしたっけ?」


「うちのが特にそうなだけだな。本来なら警戒心が強いんだが、こいつは小さい頃から俺の元にいたから警戒心が薄い」


「大丈夫なんですか、それ」


「同じ図体の犬系魔物相手なら問題ない。流石にそれ以上になったら俺も止める」



 あれぐらいの低級魔物ならクリスタルウルフは負けないとジークフリートは断言する。クリスタルウルフは召喚獣としては優秀な魔物なので低級ならば大したことないのだと。


 ヨハンも知識を頭から引っ張り出してジークフリートが言っていることは間違っていないのを確認する。このクリスタルウルフは行動はちょっと変わっているが、強力であるのは間違いないのだ。



「さー、戻るぞ。早いほうがあの子も安心するだろ」


「心配してましたもんねぇ」


「不安に思ってたら、安心させたくなるだろ」



 幼子だろうと老人だろうと依頼主が不安を抱いているならば、安心ささせてあげたい。ジークフリートに「ただ、仕事をこなすだけじゃ駄目だぞ」と注意される。


 仕事をこなせばいいというものではない。依頼を終わらせたからといって不安感を与えたままでは相手に失礼だ。確かにとヨハンは頷く。



「ジークフリートさんって一人でもやっていけますよねぇ。今回は何もできてないですよ、私」


「一人でやってきた歴が長いからな。でも、少年が役に立ってないってことはない」



 今回は特に問題が起こったわけではなかっただけだ。何かあった時に二人いればそれだけ対応できることは増えるだろう。気にするなとジークフリートに肩を叩かれる。



「何もできてないとか思わなくていいさ」



 明るく言うジークフリートの姿に気遣いだとかそういった感情でないことが伝わってくる。本心から気にしなくていいと。


(良い人だよなぁ)


 本心からやってのけれるジークフリートにヨハンは敵う気がしなかった。



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