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世話焼き召喚士の便利屋生活  作者: 巴 雪夜
第六章:鈍い感情に気づき、伝える想いの言葉

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第24話:申し訳ないと思いつつ

「さて、兄は大丈夫だろうか……」



 ジャックを宿屋まで送り届けたヨハンは呟く。一緒に謝るとはいえ、父が兄の想いに応えてくれるかは分からない。


 多少なりとも伝わってはいるけれど、跡継ぎにしたいという考えは残っている可能性がある。


 自分も兄の意見を後押しできるようなことを言えたらいいが。なんて考えながら家へ戻ってきたヨハンは扉を開けて、目を瞬かせる。



「あれ、帰ってきてたんですか?」



 昼を過ぎているとはいえ、まだ夕刻ではない。戻ってくるのは夕刻を過ぎると聞いていたので、ヨハンは何かあったのだろうかと聞いてみた。



「……いや、ちょっと必要になった本があってな。ヨハンはどうしたんだ?」



 荷物が置きっぱなしだが。ジークフリートの問いにヨハンは「買い忘れを思い出したんです」と、咄嗟に嘘をついてしまった。


 リューリアがこの場に居たらバレてしまう。ちらりと周囲を見ていれば、リューリアの姿はなかった。家に置いてきたのだが、部屋で昼寝をしているのかもしれない。



「でも、売り切れてたんで戻ってきました」


「……そうか」



 ジークフリートを家族の問題には巻き込みたくはなかったので、ジャックがやってきたことは黙っておく。嘘をつくのは心苦しいけれど。


 このまま話を続けてはぼろが出てしまう。ヨハンは何でもなように書物机の上に置いてあった紙袋を抱えて、二階へと上がる階段の方へと歩いていく。



「あ、また戻るってことですよね? 夕刻過ぎぐらいに夕食を用意しておきますね」


「あぁ、ありがとう。行ってくる」


「いってらっしゃいませー」



 にこりと手を振ってジークフリートを見送る。彼が出ていったのを確認してから、ヨハンは二階へと上がった。


 食材をキッチンに置いて、視線を感じる。ゆっくりと振り返れば、じとりとリューリアが見つめてきていた。


(ば、バレてるぅ)


 二階で寝ていたリューリアはヨハンが帰ってきたのに気づいて出迎えてくれたようだった。けれど、嘘の匂いに渋い表情をしている。



「ご、ごめんね。これには訳があるんだ」



 ヨハンはリューリアにだけ聞こえる小さな声で簡単に訳を話した。ジークフリートには迷惑をかけたくなかったんだと。


 リューリアはむぅとしながらも、ヨハンが嘘をついていないことを感じ取ってか。「仕方ないなぁ」といったふうに頷いた。一先ずは許してくれたので、ほっと胸をなでおろす。


 これでリューリアの信頼をなくしていなくなってしまっては、この子に悪い。それだけ信じてくれていたということだからだ。



「解決したらちゃんと話すから。今は黙っていてほしんだ、リューリア」


「がぅにゃぁ」



 いいよ。そう言うように鳴いてからリューリアはヨハンの頬にぐりぐりと頭を押し付けた。この子の優しさにヨハンは抱きしめる。



「ありがとう、リューリア」



 この子の為にも無事に解決させないと。ヨハンは兄の背を全力で押すことを決めた。


  *


 夕刻を過ぎた頃、ヨハンは夕食を作り終えてテーブルに並べていた。今日はグラタンと焼き立てのパンにキノコのスープだ。


 チーズの焼けた匂いは香ばしく、キノコスープの温かな湯気は食欲をそそる。


 そろそろ帰ってくるだろうとエプロンを外すのと同じく扉が開いた。なんとも疲れたといったふうにジークフリートが「帰った」とテーブルの椅子に座る。



「大丈夫ですか?」


「大丈夫ではあるけどなぁ。今年の予備生は確かに扱いが難しい」



 実力が伴っていないが召喚士としての力はある。少々、、無茶をしてしまうのも相まって、指揮するのが難しいらしい。


 やる気に満ち溢れているのはいいけれど、もう少し落ち着いてほしいというのが、ジークフリートの本音のようだ。


 ハンメルンが苦労する気持ちが分かったとジークフリートは深く息を吐く。これは余程、疲れているみたいだ。ヨハンは「お疲れ様です」と彼を労った。



「少年の料理が楽しみの一つだよ。今日も美味しそうだ」


「味には自信がありますからね!」


「リューリアはどうした?」



 ジークフリートはグラタンを食べながら見渡す。あ、そうだリューリアにもご飯を与えなくては。ヨハンはキッチンで待機していたリューリアを抱きかかえてテーブルの傍にエサ皿を置いた。


 もぐもぐと美味しそうに食べるリューリアの様子をジークフリートは暫し眺めてから「ほう」と呟く。


 なんだろうかとヨハンが顔を上げてみるも、彼はいつもと変わらず美味しそうに料理を食べていた。


 ヨハンも椅子に座って食事をとる。少し熱いグラタンにあちちと冷ますと、ジークフリートが小さく笑った。



「なんだ、猫舌か」


「悪いですかー」


「いいや。可愛いと思っただけだ」


「かっ!」



 不意打ちはやめてほしい、ほんとに。気にしてないわけじゃないんだぞとヨハンは言いたい気持ちを堪える。


 また、心の中にふわふわした感情が現れた。嫌な気はしなくて、でも落ち着かない。はっきりしない感覚だ。



「どうした、少年?」


「な、なんでもないです!」


「そうか。……少年は今日一日、どうだった?」



 間をおいてから問われてヨハンはは数度、瞬きをしてから「特には」と答える。兄が来た事に驚きはしたけれど、それ以外で何か問題は起こっていなかった。


 何かありましたかとヨハンが聞いてみれば、ジークフリートは別にと言ってスープを飲み干す。



「少年に何もなければそれでいい」


「私、一人でも大丈夫ですよ?」


「実力が不安ってわけじゃないぞ、少年。でも、何かに巻き込まれたりしたらといった心配はする」



 この辺りの治安は悪くないけれど、変な依頼を持ってくる人が現れるかもしれない。休みだと断っても引かない人間はいると教えてくれた。


 なるほど、心配してくれているのか。ヨハンは「今日はそんな人は来てないですよ」と伝える。



「ずっと、リューリアと一緒に居ましたから」


「なら、いいんだ」



 何もないならそれで。ジークフリートの呟きにヨハンは違和感を抱く。なんだか、含みがあるように感じたのだ。


 聞いてみてもいいけれど、なんとなくはぐらかされてしまいそう。ヨハンは暫し考えてから「飛行演舞は大丈夫そうですか?」とパレードの演習の話題を振る。



「順調ではあるな。予備生の扱いが難しいが当日にはちゃんと見れたものになるさ」


「それならよかったですね。楽しみなんですよ、パレード」



 建国記念日のパレードを観覧したことがないわけではないが、召喚士の演舞は見ごたえがあるのだ。何度でも見ていられるのでヨハンは楽しみにしていた。



「あぁ、予備生たちも言ってたなぁ。お嫁さんに見てもらえるといいですねって」


「や、やっぱり嫁で定着している……」


「あれは訂正しても無理だな」


「元々、ジークフリートさんは訂正してないでしょ」



 むしろ、嫁さんみたいって言ってるじゃないですかとヨハンは口を尖らせる。そんな表情にジークフリートが「いやぁ、みたいだしなぁ」と笑った。



「格好いいところ見せてあげてくださいよって言われたからな」



 いつもだらしない姿ばかりなんですからと言われたさ。ジークフリートは頭を搔く。まぁ、こんな時ぐらいしか格好良くはできないかと。



「格好良さとか関係なく、しっかり役目は果たすさ」



 一番の見せ所を任されたからにはしっかりとやる。ヨハンは話を聞いて、やっぱり仕事はちゃんとこなす人だよなと改めて思った。


 大舞台だ。王都の上空で行われるドラゴン同士の飛行演舞をやり切るジークフリートの姿はきっと。



「格好いいんだろうなぁ」



 ぽつりと呟いて、はっと我に返る。無意識に言葉に出てしまっていたと口元を抑えて視線を持ち上げれば、ジークフリートがじっと見つめていた。



「少年」


「何でもないですっ! 何でもない!」



 恥ずかしさやら、照れやら。ぐちゃぐちゃになった感情で顔に熱が集まってくる。きっと赤くなっているとヨハンは気づいていたけれど、誤魔化すようにグラタンを頬張った。



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