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世話焼き召喚士の便利屋生活  作者: 巴 雪夜
第六章:鈍い感情に気づき、伝える想いの言葉

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第23話:勘違いを呼ぶ

 表参道から少し外れた静かなカフェをヨハンは選んだ。人気のカフェと違い人は多くなくて、こっそりと話すには丁度いい。


 シックな内装の店内の奥の席に座り、今後の話をヨハンはジャックと話す。店員が持ってきたアイスコーヒーを飲みながら。



「絶対に探しに来ますよ。間違いなく、私の所に」


「そうだよなぁぁ。オレが頼れるのはお前だけだもん」



 自由に生きるとは言ったものの、後先など考えていなかった。勉学に励んでいたとはいえ、箱入りだった自覚はある。


 世間を知っているかと問われれば、限られているとしか答えられない。


 先に出ていったヨハンを頼るのは想像がつく話した。手紙を持ち出したなら特に。ジャックははぁと深い溜息を吐き出した。


 溜息をつきたいのはこちらだとヨハンは突っ込みたいが、ぐっと言葉を飲み込む。



「まぁ、兄様が行動に移したことで、父も気持ちを理解するかもしれませんけどね」



 ジャックがどれだけ跡を継ぎたくないのか、魔道司書官になりたい本気度が多少なりとも伝わった可能性はある。父も分からず屋というわけではないのだ。


 とはいえ、問題行動をした事実は変わらないわけで。説教されるのは目に見えているから、どう許してもらうか考えてなくてはいけなかった。



「まず謝罪はするとして、その後ですよ」



 自分の気持ちはちゃんと伝えるべきだ。跡を継ぐのはアランに任せたい、自分もヨハンと同じように自由に生きたい。


 なりたかった国立図書館の魔道司書官を目指したい事を強く、はっきりと、自分の口で。


 もちろん、それだけで許可が下りるとは限らず。いくつかの反応を想像して、対策を考えるのだ。ヨハンは「兄様自身の事なんですからね」とびしっと指をさした。



「それはそうなんだけどさぁ。ヨハンはどうやって許可を取ったんだよ」


「私は素直に言いましたね」



 ヨハンは父と話した時の事を思い出す。それは満月の夜だった。寝る前の挨拶をしてからヨハンは父に切り出した。


『私、召喚士として自由に生きたいんです』


 召喚士の資格を取り、実力を認められて成人した今、外に出て自由に生きたい。


 自分は世話を焼いてしまう気があるから、それが引き金で問題を起こしてしまうかもしれないので、跡継ぎ候補から外してほしい。


『家を出る以上、侯爵家としての名を振りかざすようなことはしません。名を汚すことも』


 はっきりと伝えた、父の顔を見て真っ直ぐに。迷うような、恐れる態度をしたら、きっと許してはくれなかったと今なら分かる。



「ヨハンだからできることだよ、それは」


「ジャック兄様は弱気な部分がありますもんね……」


「そうだよ。肝心なところで弱気になる」



 決断する時もぎりぎりまで悩むのだから、自分だって跡継ぎには相応しくないのだ。これのせいで判断ミスをしたり、誰かを傷つけてしまうかもしれないのだから。


 ならば、その想いを伝えることだ。ヨハンは「迎えが来た時にちゃんと伝えましょう」とジャックの肩をぽんっと叩いた。



「もうすぐ建国記念日です。父たちも招待されるはずなので……」



 その時に謝りに行きましょう。ヨハンの提案にジャックは不安げだ。怒られるのもだが、許可が下りる確証が無いのだから仕方ない反応になる。


 逃げ切ることなど、この国にいる以上は難しいだろう。侯爵家として使える手数は多いのだから、いずれ捕まってしまうはずだ。


 諦めなさいとヨハンに諭されて、ジャックは「わかった」と項垂れた。今から父に叱られるのを恐れているふうに。



「そこまで怖いなら家出なんてしなければよかったでしょう」


「いや、だって! 他に方法が浮かばなかったんだ!」


「まぁ、話し合いを濁されるとそういった考えが過ってしまう気持ちはわかりますけど……」



 兄の心境が分からなくもないヨハンはこれ以上は責めることができなかった。だから、「一緒に謝りに行きますよ」と、一人にはしないと伝える。



「ヨハンぅ~~!」


「だーっ! 抱き着いてこないでください! 恥ずかしいでしょうが!」



 前の席に座っていたというのにわざわざ隣にやってきて抱き着いてくるジャックに、ヨハンはこらっと注意しながらも抵抗はしない。


 兄のこういったスキンシップは今に始まったことではないからだ。


 見た目だけでいうならば、冷静沈着な格好いい男性なのだが、中身はこんな感じだ。これもギャップというやつか。ヨハンはそんな事を考えながらよしよしと頭を撫でてやった。


(顔は父似だからほんっと格好いいんだよなぁ。アラン兄様もだけど。私は母にで……似てない……何故、此処まで差が出るのか)


 可愛いらしいとよく言われるこの顔が嫌というわけではないけれど、格好いいと言われてみたいものだな。なんて、ヨハンは苦笑した。


  *


「あれ、ジークフリート様のお嫁さんでは……」


「ほんとだって……はぁ!」



 カフェに入ってきた二人の女性が声を潜ませる。魔導士服を着こなす彼女たちの胸元には召喚士予備生の証であるバッチがついていた。


 休憩時間にカフェで持ち帰りを頼もうとした二人が目撃したのは、ヨハンが男に抱き着かれているシーン。



「まって、めっちゃ格好いい」


「誰! まさか、浮気?」


「浮気なんてするわけないじゃない。妖精種と契約できているのよ」


「あ、もしかして言い寄られているんじゃ……」



 言い寄られている。彼女たちは顔を見合わせた。可愛い顔をしているヨハンならば男女関係なく好意を寄せられるだろう。


 便利屋としての評判も良く、子供にも優しいのは知られている。惹かれる要素があるヨハンならば。彼女たちの意見は同じだった。



「これは、どうにかしないと!」


「急いで戻りましょう!」



 店員が用意した持ち帰りの袋を取って二人は慌ててカフェを飛び出していった。



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