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世話焼き召喚士の便利屋生活  作者: 巴 雪夜
第一章:だらしない系天才召喚士の世話を焼く

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第2話:薬草採取の依頼

 朝も早くからヨハンは店舗部分となっている一階の掃除をしていた。空気を入れ替えるために扉は開け放たれている。


 はたきを持って本に積もったほこりを落としながら、隣で面倒げに本の選別をしているジークフリートに目をやった。


 それはもう嫌々といったふうに、床に落ちている本の仕分けをしているジークフリートはぶつぶつと文句を零している。



「あー、疲れる……」


「こら、手を休めない! こんな埃まみれゴミまみれではいつか体調を崩しますよ。あと、移動するのに邪魔です。持ち主なんですから貴方も掃除に参加すべきでしょうが」


「うーん、嫁さんを貰った感覚だ。俺の知り合いが嫁さんの尻に敷かれていた」


「誰が嫁ですか」


「少年」



 誰が嫁じゃいとヨハンはべしっとジークフリートの肩を叩く。そんな突っ込みだと効果なく、彼は「手厳しい嫁は嫌だなぁ」と冗談っぽく笑った。


 ヨハンが召喚士ジークフリート・アインシュロマンの元で働きだしてから数日、彼について分かったことがいくつかあった。


 一つ、彼は家事全般ができない。辛うじて洗濯はできるけれど、それ以外のことができないのだ。だから、部屋は散らかり放題で片付けようともしなかった。


 料理は全くできないからとデリバリーを頼んでいたので、ヨハンが「私がやりましょう」と彼のあまりの様子に提案するほどだった。


 一つ、彼は仕事以外で外に出たがらない。仕事が入れば外に出るが、それ以外では部屋で本を読みふけっている。


 女の噂どころか影すらないほどに外に出ない。少しは陽の光を浴びるべきだとヨハンは思うのだが、「面倒くさい」の一言で終わってしまう。


 一つ、仕事に関してはしっかりとこなす。面倒そうにしていても彼は余程のことがないかぎりは文句を言わずにこなす。


 些細な依頼であっても断ることをしない。少額な内容であっても請け負うので、仕事を選り好みしているわけではないようだ。


 たった数日ではあるが見てきたヨハンのジークフリートへの印象は、だらしないけれど仕事はきっちりとこなす人だった。


 面倒くさいと言いながらも仕事はちゃんとこなすし、客相手に手を出すこともしない。


 何でも屋と言われるだけあって仕事を選ばないからか、客は絶えずにやってくる。昨日は商品の仕分けを頼まれた。


(召喚士とは関係ない仕事もするんだよなぁ)


 本当にあの認められた召喚士様なのだろうか。時折、サボろうとするジークフリートを叱りつつ片付けをしながらそんなことを考えていれば、「あのー」と声がする。


 誰か来たと本棚の奥からヨハンが顔を出すと、扉の前には綺麗な水色の着物を着た女性が立っていた。


 白く長い髪を流し、その頭には狐のような耳が生えている。ふわふわの尾尻をふらりふらりと揺らして朗らか笑みを浮かべるのは狐の獣人だ。



「ジークフリートはんおります?」


「なんだ、イザベルか。どうした」



 イザベルと呼ばれた狐の獣人はしっかりと魔導師服を着こなすジークフリートを珍しげに見つめていた。


 その視線に気づいてか、ジークフリートが「従業員に世話を焼かれている」とヨハンを指さす。


 指さされたヨハンが笑みを浮かべれば、イザベルは納得したのか「大変でしょう」と労いの言葉をかけた。



「このお人、だらしなさすぎてお世話大変でしょう? お疲れ様」


「えぇ。物凄く大変ですけど、まぁなんとかなってます」


「お前ら酷くないか?」


「自業自得かと」


「せやね」



 ばっさりと二人に言い切られてジークフリートは眉を寄せるも、自分の日ごろの生活態度が悪い自覚はあるようで言い返すことはしなかった。


 それはいいのだと話を変えるようにイザベルに来た訳を聞くと、彼女は「そうだったわ」と思い出したように口元に手を添える。



「依頼があるんよ。うち、薬師やってるやろ? 丁度、薬草を切らしてしまってなぁ。いくつかの薬草を取ってきてほしいんよ」


「あー、いつもの依頼か」


「そうそう。あんたんところに頼む方が安心やからお願いするわぁ」



 そう言ってイザベルは必要な薬草が書かれたメモ紙とお代を渡して、「店で待ってるさかい、よろしゅうな」と店を出て行った。


 ぱぱっと依頼をする彼女の様子からこの便利屋の常連のようだ。ジークフリートは特に気にしている節もなくメモ紙を確認している。


 今日の依頼は薬草探しかとヨハンは本棚に囲まれている書物机から帳簿を取り出して、依頼主の名と内容、代金を記入していく。



「お前、鼻の利く召喚獣と契約しているか?」


「リューリアがそうですかね」



 帳簿を机に置くと足元をうろちょろしていたリューリアを抱きかかえた。ジークフリートはリューリアを暫く見てから「まぁいいか」とメモ紙を渡す。



「ちょっと種類が多いから手分けして探すぞ」


「わかりました」



 メモを渡し終えるとジークフリートはさっさと店を出て行ってしまう。これも数日で慣れてしまったヨハンは扉にかけているプレートをクローズに変えてから鍵を閉めた。



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