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世話焼き召喚士の便利屋生活  作者: 巴 雪夜
第四章:そんなこと言われたら気になるだろ!

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第17話:ちゃんと見ているからこそ

 距離を取ってヨハンとセルフィは向かい合う。睨み合う二人の間に声を挟む余裕などない。ロッドを剣を構えて、詠唱が始まった。


 魔法陣が地面に浮かび、召喚獣が招来される。セルフィが召喚したのは魔犬の一種、ケルベロスだった。


 大人二人分ほどの大きさに変化されたケルベロスは三つの頭を向けて鋭い牙をむき出す。


 真っ黒で毛艶の良さにケルベロスの中でも強い個体であることが分かる。一方でヨハンが召喚したのは大きな狼だった。


 真っ白で毛足の長い大きな狼の胸元は茶色く変色している。ケルベロスと同じ大きさぐらいに姿を変化させた白狼にセルフィは鼻で笑った。



「あら、ただの狼の魔犬だなんて。やっぱり大したことないのね」



 ふんと下に見る態度にヨハンは眉を寄せるも一瞬、呆れた顔になる。それがセルフィにとって癇に障ったのか、剣を振ってケルベロスに指示を出した。


 ケルベロスは白狼に向かって飛び掛かって、噛みつかんと大口を開けるも空を切る。白狼が後ろに避け、ケルベロスの背後へと回った。


 背に乗りかかって首根に噛みつく白狼にケルベロスは振り落とそうと身体を揺らす。だが、落ちることなく、白狼は首根を掴んでぶんぶんと頭を振った。



「ちょっと、何やってるの! 振り落としなさい!」



 セルフィの指示にケルベロスは暴れて背中に乗る白狼を引き剥がそうと試みる。けれど、それも無意味だ。


 白狼は噛むのを止めたかとおもうと、ケルベロスの背中を思いっ切り蹴飛ばして地面に転がす。


 転がったケルベロスが起き上がる前に乗りかかって、柔らかい内側の首元に嚙みつく。逃れようと暴れるも、白狼はびくともしない。



「な、なんで……」


「この魔犬を知らない時点で貴女の負けですよ」



 はっとセルフィが後ろを振り返って固まった。ヨハンの眼は真っ直ぐに彼女を捉えている、目の前に突き出されたロッドと共に。


 いつの間に背後を取られたのか、セルフィには分からない。音もなく、気配すら感じさせずに背後に立ったのだ、ヨハンは。


 一瞬だった。数分と経っていないというのに勝敗は決まってしまう。セルフィは悔しげに唇を噛み締めて剣を下ろした。



「この魔犬は上級種のガルムだね」



 勝敗を見届けたハンメルンが近寄りながら問う。ガルムと聞いてセルフィが白狼へと目を向ける。


 ガルムはケルベロスなど見向きもせず、くわっと大きく欠伸をしていた。


 ケルベロスは嚙みつかれていたとはいえ、殆ど無傷で寝転がっている。何が起こったのか理解できていないようだ。



「ガルムは狂暴な魔犬だ。手加減を知らないガルムを制御し、ケルベロスに殆ど傷をつけずに戦わせられる力量。戦いに紛れて相手の背後を取る行動力、実力が無ければできない」



 戦いを長引かせずに最小限に止められたのも評価に値する。ハンメルンの冷静な分析にセルフィは何も言い返せず、黙って顔を逸らした。



「おー、少年はガルムとも契約できていたのか」



 その声にヨハンはびくりと肩を跳ねさせる。ハンメルンも、セルフィも同じように。ジークフリートがガルムの頭を撫でまわしていた。



「俺は聞いてなかったけどなぁ」


「リューリアやワイバーンのほうが日常使いはしやすいかなって思ったんですよ!」



 隠したわけではないのだとヨハンは慌てて答えるも、ジークフリートは少しばかり拗ねた態度をする。信用してなかったとかじゃないのだ。


 ただ、ガルムはワイバーンよりも攻撃的で制御するにも力を使うので日常使いはしにくい。


 それはジークフリートも分かっているのか、「まぁこれは無理だな」と腹を出して撫でろと圧を放つガルムを見て呟く。



「で、俺の許可なくやらせたのは誰だ?」



 すっと目を細めて見つけるジークフリートの眼は笑っていなかった。


 怒っているというのはそれだけで感じ取ることができる。ひっと遠目から見ていた予備生が後ずさっていくほどに。



「申し訳ございません」


「ハンメルン、お前がいながら勝手にやらかしたのか?」


「不甲斐ないばかりに……」



 ゆったりと歩いてくるジークフリートの見たことない怒った様子にヨハンは、恐怖や困惑よりも「どうにか誤解を解かねば!」と、内心で焦っていた。


 売り言葉に買い言葉でやってしまったのは自分だ。セルフィにも悪い点はあるにしろ、勝負を受けた自分にも非があるわけで。


 ハンメルンが全て悪いわけではないと、ヨハンは「私が悪いだけですよ!」と二人の間に立つ。



「その私が勝負を受けたので、ハンメルンさんは悪いわけではないです!」


「少年はどうして受けたんだ?」


「そ、それはー」



 可愛らしい顔だけの男と言われたことに腹が立っただけで、とは言いにくい。それだけでかと指摘されたら、くだらない理由だよなと思わなくもないからだ。


 どうしようと言葉に迷っていると、アリィーが「お兄ちゃんは悪くないよ」と駈け寄ってきた。



「お兄ちゃんはあのお姉ちゃんに言われてただけだもん!」


「なんて言われていたんだ?」


「なんだっけ、ミリアおねぇ?」


「えっと、〝可愛らしい顔だけの男〟だったかな?」



 ほうとジークフリートが片眉を下げながら眉間に皺を寄せる。ゆっくりとセルフィの方をみた。


(ミリアちゃんたちー!)


 助けてくれたのだろうけれど、今はその言葉は駄目だよ。と、言えたならいいのだが、そうはできず。



「アナタがはっきりしないからよ!」



 ジークフリートが問いかける前にセルフィが口を開いた。アナタが否定なんてするかと。



「ぽっと出てきたと思ったら嫁だとみんなから言われて。だというのに、自分は違うみたいなこと言って……。そのくせ、世話を焼いてるって聞いて……」



 憧れの存在だ、それは今だって変わることはない。そんな人にパートナーができたと聞いて嫉妬しないわけがないじゃないか。ずっと一人でやってきたというのに。


 みんな、ジークフリートのパートナーになりたいと一度は思う。いきなり現れた人間に盗られたら、悔しいじゃない。セルフィは拳を握りしめる。


 ヨハンは彼女の気持ちを否定することができなかった。同じ立場ならば自分も嫉妬したり、悔しいと行き場のない感情を抱くのが想像できたから。



「少年が可愛らしい顔なのは当然としてだ。俺は召喚士としても問題ないと判断して傍においた」



 口から出た言葉は怒りではなかった。ジークフリートは腕を組んだ。召喚士としての実力というのは契約している召喚獣を見れば判断ができる。


 中級から上級となると制御できる力量がなければ契約はできない。ヨハンは妖精種のリューリアと中級種のワイバーンと契約できている点で制御できると判断できるのだ。


 さらには難易度の高い妖精種と契約を交わしている。嘘を嫌う彼らから信用されているというのは、それだけ純粋であることを示していた。



「これらの要素で判断できないようでは召喚士としてはまだまだ半人前だ。好みはその次だ」



 認められた召喚士とか言って太鼓を持つような相手とは仕事はできない。それだけしか見てないと捉えることができるからだ。ただの力だけでは信頼関係を築くのは難しい。



「少年は認められた召喚士とか全く気にしてなかったからな」


「まぁ、だらしない人って印象のほうが強かったですね。今もですけど」


「最近はちゃんと片付けてるだろー」



 ぶすっとジークフリートが頬を膨らます。それは常日頃からするべきことですよ、なんて突っ込みは余計に拗ねさせそうだ。ヨハンは「もう気にしてないんですよ」と話を戻す。



「可愛らしい顔だけの男って言われて、そりゃあ腹が立ちましたけど、実力は見せることができたので。文句ないでしょ?」



 ねぇ? と周囲に問いかければ、二人の組手を見ていた予備生たちがぶんぶんと首を縦に振った。文句なんてないですと。


 セルフィも「言えないわよ」と呟いたので、ヨハンはすっきりとした気分だ。そんな様子にジークフリートは「ならいいか」といつもの表情に戻る。



「ハンメルンはちゃんと教育しとけ」


「はい……。しかし、ジークフリート様はちゃんと彼を捕まえておいたほうがいいですよ。絶対」



 ここまで才能があって世話を焼いてくれる存在なんて、早々いないのだから。ハンメルンはヨハンの肩を掴んで言った。



「生活能力皆無ですけど、良い所はあるので! 強いし、仕事はきっちりこなすし、人に優しくもできる。あと、顔も良いですよ!」


「やめろ、ハンメルン。少年が困っているだろうが」


「あなたは好みのタイプを逃さないようにしてください!」



 わがままとか言わない、失礼なことをしない、嫌がることはしない。分かってますかとハンメルンに詰め寄られてジークフリートは「分かったから」と彼をなだめる。


 ハンメルンに同意するように予備生たちが「もう少し生活能力を身につけた方が」や、「相手をたまには敬ったほうがいいですよ」とアドバイスを送っていた。



「考えるだけでも、考えるだけでも!」


「わ、わかりましたので……」



 周囲の圧にヨハンは押されつつも、返事を返すもハンメルンはまたジークフリートに詰め寄っていく。


 子供も見ているのだけれどとアリィーたちへ目を向ければ、「おじさんがんばれー」と何故か声援を送っていた。



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