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鎮妖府②

 扉が開かれた。


 その先に広がっていたのは、神社の社殿を思わせる、異様に広い空間だった。

 太い木柱が何本も天井を支え、床には古い紋様が刻まれている。


 平塚が無言で歩き出す。


 「あれが……」


 「禍々しい。」

 

 ただ広いだけの空間なのに、ひたすらに空気が重い。


 後ろをついて歩くうち、周囲からひそひそとした人の気配が伝わってくる。

 視線が、痛い。


 ……注目されるのは、やっぱり慣れねぇな。


 やがて、床に大きな穴が開いた円形の広間に辿り着いた。

 その中心に、ひとりの老人が立っている。


 頭髪はすべて失われているが、背筋は異様なほど真っ直ぐだ。


 「連れてきたぞ」


 平塚の声に、老人がゆっくりと振り向く。


 「――来たか」


 その一言で、空気が変わった。

 声が、圧として身体にのしかかる。


 「お主が……酒呑のか」


 鋭い視線が、俺を射抜く。


 「あ、あぁ……」


 反射的に返事をしてしまう。


 「ここにおるということは――」


 「あぁ。戦う方を選んだ」


 平塚が先に答えた。


 老人は、短く頷く。


 「……そうか」


 そして、俺に正面から向き直った。


 「主、この先は地獄ぞ。それでも、良いのか」


 「あぁ。覚悟はしてる」


 ――いや、してる“つもり”だ。


 「ほう」


 老人が、わずかに口元を歪める。


 「わしは、この鎮妖府(ちんようふ)の総大将。

 名は――まあ、大将なり好きに呼ぶがよい」


 「……九条斎だ」


 名乗ると、老人は鼻で笑った。


 「知っておる」


 ……知ってる?


 疑問を口にする前に。


――ドゴッ


 背中に、衝撃が叩き込まれた。


 「がっ……!」


 視界が弾け、身体が宙を舞う。

 気づけば、広間中央の穴へと叩き落とされていた。


 「くそ……!」


 底は深く、登る足場もない。


 上から、老人が覗き込んでくる。


 「力試しだ」


 「はぁ!?」


 「口先だけで戦うと言われても困る。

 ここで示せ。生き残れるかどうかをな」


 床の周囲に、いつの間にか刀や槍が並んでいた。


 「使うがよい。好きなものをな」


 その直後。


 重い音と共に、向こうの門が開いた。


 現れたのは、人ほどの大きさの蛙の妖怪。

 ぬめった皮膚、歪んだ四肢。


 「貴様が勝てば、所属を認めよう。ただ、負ければ封印だ」


 楽しそうに言いやがる。


 『おい、死ぬなよ人間。こんなのにやられたら笑えねぇ』


 頭の奥で、酒呑童子が嗤う。


 ……うるせぇ。


 蛙が跳んびこんでくる。


 反射的に横へ飛び、地面を転がる。


 「っ……!」


 無理だ。

 素手じゃ倒せる気がしない。


 「今お前には酒呑童子が取り憑いている。だから、その力も使えるはずだぞ」


 平塚の助言。

 

 …そう言うことか?


 思い出せ、あの時みたいに。

 腕から、溢れ出てくる力の感覚を。


 もっと、深く。


 『……ハハ。少しだけだぞ』


 その声と同時に、身体の奥から何かが溢れた。


 「……いける」


 拳を振るう。


 衝撃と共に、蛙が吹き飛び、壁に叩きつけられた。


 だが、立ち上がる。

 怒りに満ちた目で、舌を伸ばしてくる。


 「だったら……!」


 壁に立てかけられていた刀を掴み、

 一歩、踏み込む。


 伸びてくる舌。

身を横にずらし、刃を走らせて切り落とす。


 「グゴッ」


 怯んだ一瞬に踏み込み、首元を迷いなく断った。


 首を落とされた蛙は、人形のように力が抜け動かない。



 上から、老人の声が落ちてくる。


 「九条斎。貴様を鎮妖府に迎え入れる」

一旦今年はこれで

良いお年を

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