ゆいこのトライアングルレッスンM〜二等辺三角関係〜
「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」の人気企画「ゆいこのトライアングルレッスン」に応募したものです。
「M」=「ミューチュアルパイニング(両片思い)」がテーマです。
「ねぇ、ミューチュアルパイニングって知ってる?」
塾の帰り、突然ゆいこが言い出す。
「何?その噛みそうな言葉。」
聞き返すたくみの言葉をなんとなく流して、知ってる、両片思いのことだろう?っていうか君らのことだろう?と心の中でツッコむ。
「両片思いのことを言うんだって。いいよね、両片思い。お互い好きあってるのに、相手の気持ちには気づかず、あーでもないこーでもないといろいろ悩んで。でも周りは早く付き合っちゃえばいいのに、と思ってるの。」
暗がりの道で、電灯に照らされたゆいこのキラキラとした瞳を盗み見る。その顔はたくみに向けられ、好きという気持ちがあふれ出ている。
「それいいのか?思い合ってるなら、さっさとくっついちゃえば良くない?」
対するたくみの表情を見る。たくみがゆいこを思ってるのだってバレバレだ。
「もぅ、たくみってば、揺れ動く微妙な恋心がわかってないんだから。ねぇ、ひろし?」
急にふられて、咄嗟に答える。
「あぁ、小説とか漫画とかで最近流行ってるシチュエーションだよな。」
「んー。流行ってるって、それだけ?ひろしもわかってないなぁ。」
いや、痛いほどわかってるって。両片思いにはなれない俺の気持ちに蓋をして、言う。
「案外近くにあるかもよ。」
ひろしの家のほうがゆいこの家に近いので、二人とは途中で別れることになる。交差点で曲がっていく二人の後ろ姿をしばらく眺めながら、両片思いについて力説するゆいこを思い出していた。
両片思い…お前らのことじゃん。俺と話が盛り上がっていたようで、ゆいこの気持ちはひろしに向けられていることは、気づいてた。ひろしも「案外近くにあるかもよ」なんて、遠回しなこと言ってないで、とっとと告っちゃえばいいのに。そうすれば俺もすっぱり諦められるのに。
交差点でたくみと別れたあと、家の門の前でひろしにもさよならを告げる。ふと今来た方向を小さく振り返ると、たくみがまだいることに気づいた。
えったくみってばひろしが見えなくなるまで、見送ってるってこと?そういえば二人とも、見つめ合ってるとこは見たことないけれど、それぞれ見てる時がある!
それBL?そっかぁ「案外近くにあるかもよ」って言葉は、ひろしがたくみに気づいてほしいアピールだったのか。
ここまで妄想したところで我に返る。
いや、本当はそんなことないとはわかってる。自惚れてると言われるかもしれないけど、それでも気づいている。たくみとひろしが自分に、少なからず好意を抱いてくれていることを。
でも、気づかないフリをしている。本当は私だって気持に応えたいけど、それはできないことだ。なぜなら、二人とも好きだから。それぞれ単体で見れば両思いなのに、二人いるから成り立たない。ダブル両片思いなんてムシが良すぎる。それでも、私はこの三人で一緒にいたい。いつか大人になって、一緒にいられなくなる日が来るまでは、と思うのはわがままなのかな。
気持に蓋をするひろし、諦められないたくみの気持ちをよそに、二人に想いを寄せて、夜空を見上げては、二等辺三角形を描くゆいこであった。
最後までお読みくださりありがとうございます。
トライアングルレッスン交流ができたら嬉しいので、コメントをいただけると幸いです。
【ゆいこのトライアングルレッスンとは】
「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」内での企画で、たくみとひろしという年上のイケメンが塾に迎えに来てくれるという、巽さんの幼いときの妄想が原案です。
また、第126回(2021年2月26日)の放送にて、創作した作品は小説家になろうのサイトにアップしてよいと公式見解があるものです。