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花の魔術師に誘われて  作者: 樹(いつき)
第一章 まだらの空
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お茶でも飲むかい

「お茶でも飲むかい?」


マグノリアに言われるも、ハルは首を振る。

あれから、家に帰って、しずしずと座ったまま、ハルはぼーっとして何も口にできなかった。

レインの最後が、頭に焼きついて離れない。


マグノリアはため息をつき、向かいの椅子に深くこしかけ、しばらく天井を見上げ、そして口を開いた。


「……あんた、人が死ぬのを見るのは初めてかい?」

「いえ、初めてではないんです。でも、だから、思い出してしまって……」

「思い出す?」


震える唇で、ハルは思い出しながら喋る。


「――私の両親は、事故で命を落としました。車に三人で乗っていて、後ろから追突されて、私だけしか助かりませんでした。身体が丈夫だったからか、偶然場所が良かったのか、わかりませんが、とにかく、私は意識だけはっきりしたまま、目の前で死んだ両親の顔をじっと見ていました」

「それはつらい思い出だねえ」

「はい、でも、私は大丈夫なんです。誰を恨んでも仕方のない事故でしたから。でも、どうしても、人が死ぬと両親のことを思い出して胸が苦しくなるんです」

「人間として持っていて当たり前の感性だよ。大事にしな」


マグノリアの温かい言葉にこみあげてくるものをぐっとこらえ、ハルは話題を変えるために聞いた。


「レインさんは、どうしてあんなことを……」


そもそもなぜマグノリアの盾であるハルに目をつけたのか、そこからしてわからない。


「――あっ、すみません。魔女の話はできないんでしたね」

「……あいつはもう魔女じゃないからね。儂の知っていることくらいなら話せるが、面白い話でもないよ。――――雨の魔女レインは、嫉妬深い女だった。人の持っているものが羨ましいと少しでも思ったら、目の前で壊してみせるような人間だった。そして自分がそこに収まろうとする。わかるかい?」

「少しだけ……」

「壊すものは何でも良かった。物でも人でも、相手が大切にしているものなら、何でも。自分が代わりを務められる自信があったのさね。愛されることだけに執着があったから、相手の気持ちなど考えたこともない。以前にいた空の魔女が、魔女であることをやめるよう仕向けたのも、やつさ」

「魔女を辞めるのって、契約違反なんですか?」

「そりゃあ、そうさ。誰も彼もが入ったり抜けたりできるようじゃ成り立たないだろう。魔女は生涯を捧げることを契約で決められる。辞める時には生命の取り立てが来る。空の魔女は執行者と戦ったが、力の弱まったただの魔術師では逃げることもできない。空の魔女はレインの思惑通り無惨に散った」

「怒らなかったんですか?」

「儂がかい?」

「はい。だって、そんなのおかしいじゃないですか」

「……儂は他所の魔女にそこまで関心を持っていないよ。生き死になど好きにすればいい」

「どうして、マグノリアさんはそんなに制約の多い魔女になったんですか」

「人にはそれぞれ理由がある。儂の話はまだしないよ。お前が誰かに話すかもしれないからね」

「そんな、誰にも言いませんよ」

「精神干渉の魔法に耐えられるようになってから言いな」


魔法があれば口を割らせる方法などいくらでもあるということだろうか。

ハルはそれともうひとつ、気になっていたことを聞いた。


「そういえば、レインさんがペナルティを刻まれたのって、マグノリアさんの作った木を攻撃したからですよね? どうして私相手だとペナルティにはならなかったのですか?」

「盾の意味がわかっていないようだね。盾は魔女の契約に守られていないのだよ。それに、魔法で作り出したものにペナルティの対象になるほどの魔力を注ぎ込むには時間もかかるし、魔女同士なら最も警戒する部分だから、誰にでも使える手段ではない。今回は相手が馬鹿だったから助かっただけだ」


レインと少しだけ一緒にいたせいで、馬鹿と言われるのは少し抵抗があり、口を一文字に結ぶ。

その表情を見たのか、マグノリアが言葉を続けた。


「お前はまだ身を守る手段を知らなすぎる。敵を助けるには倒すよりも大きな力がいるんだよ。お前も馬鹿だが、身体能力だけは一人前だ。あの時、自力で雨男を防げなかったら助けに入るのをやめようと思っていた」

「あれは、偶然です」

「その通り。たまたま有効な手を持っていただけだ。だから、お前はまだこれから死ぬほど鍛錬しなければならない。魔法もだが、剣術や弓術もひと通り覚えるように」

「ひと通りって、どうやって……?」

「何のためにギルド会館に登録したと思っているんだい。あとは自分で考えるんだね」


マグノリアは意地悪そうに鼻で笑った。

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